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4月7日にひらかれた閣議で、杉浦法務大臣はつぎのような報告をおこない、何らの異議もなく了承されたといわれている。
①「人権擁護法案」について法務省内に大臣直轄の検討チームを立ち上げる②今国会も法案提出のできる状況はなく断念せざるを得ない状況である③提出時期は、次期通常国会を目処として努力していきたい。
マスコミ各社は、当日の杉浦法務大臣の記者会見を受けて、夕刊で「政府案大幅見直し」などとしてこの内容を大きく報じたことは周知のところである。
杉浦法務大臣の記者会見では、重要なポイントも表明されているので、もう少し詳細に検討しておきたい。
第1に、政府の方針としては、総理の施政方針演説および衆参の代表質問への答弁や法務大臣の所信表明でも明らかにされたように、「早期に提出」が基本であるということである。
第2に、法案の必要性について、法務大臣としては、「人権侵害は、基本的には違法行為であり、犯罪につながりかねず、早期に処理する、具体的な実効ある措置をとれるようにすることは必要であり、このまま放置することはできない」との重要な認識を示していることである。
第3に、それにもかかわらず、「与党内の論議の経緯から、現在の法案のままでは再提出できる状況にないので、省内に検討チームを立ち上げ、与党内の議論の論点整理をおこない、与党の理解を得たうえで、できるだけ早期に国会に提出する」という基本姿勢を打ち出したことである。
第4に、検討にあたっては、メディア条項や国籍条項問題なども含めて、「大幅な手直しをすることになる」という方向性を明らかにしたことである。
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私たちには、閣議了承されたという杉浦法務大臣のこの報告をどのように受けとめるかということが問われている。
まず第1に、法案の「早期提出」の方針や「必要性」の認識および「大幅見直し」の方向性については、これを基本的に是認するものである。
第2に、検討の内容については、これまでの与野党協議の経緯をふまえて二与党の理解」のみではなく、与野党での真摯な協議をおこないながら、超党派的に検討をすすめるべきである。
第3に、提出時期は、「次期通常国会」ではなく、今国会に提出すべきである。これは、私たちが、これまでにも繰り返し強調してきたように、政治責任・政府責任・国際責務からいっても、いたずらに政争の具にすることなく、政府・与党の責任で、今国会での早期提出をめざす必要がある。人権擁護推進審議会が、人権侵害救済にかかわる法律の必要性を答申してから、すでに5年もの時間が経過しているのである。したがって、私たちは、政府の動向をしっかりと見据えつつも、既定方針どおりに、断固として第164通常国会での「人権侵害救済法」の早期制定を求めていく。
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すでに6月18日の閉会までに50日程度という終盤国会にさしかかっている。この時期に、私たちはどのように闘いをすすめるべきか。
第1のとりくみは、今国会で「人権侵害救済法」の制定をおこなうべきであるということを強く主張し、その主張の正当性と具体的な根拠を国会内外に明らかにしていくことである。そのために、5月22日午前に「2006年度部落解放・人権政策確立要求第1次中央集会」を憲政記念館ホールで開催し、午後からは政府各省交渉を実施することにする。
第2のとりくみは、引きつづき国会論戦で、立法事実としての差別・人権侵害実態の現実を具体的に提示しながら、現行の人権の法制度の問題点を追及し、今後のあるべき法制度への課題を明らかにすることである。
たとえば、4月10日の参議院行政監視委員会では松岡議員(書記長)が、行政書士の戸籍謄本等不正入手問題を追及し、8士業の統一請求用紙の厳格管理や違法行為をおこなう興信所・探偵所にたいする刑罰化の方向が法制審議会の検討対象になるとの法務大臣答弁を引き出している。また、その過程で発覚した第9・10の新たな「部落地名総鑑」についても「調査をすすめる」との大臣確約を取り付けている。このようなとりくみをさらに継続し、国会外の「人権の法制度を提言する市民会議」の活動とも、有効に連動させていくことである。
第3のとりくみは、与党人権問題懇話会や自民党人権問題等調査会などにたいして、今国会での早期制定への要請を強力におこなうとともに、与野党協議による審議促進の働きかけをおこなうことである。
最後に、地域実行委員会のとりくみとして、新たな「部落地名総鑑」の存在の不当性を徹底的に明らかにしていく集会や学習会をひらき、「人権侵害救済法」の必要性を大きな社会的世論にしていくことである。
こうした力を背景にして「鳥取県人権侵害救済条例」への支援行動や528を数える地方議会決議をさらに拡大していくとりくみが重要である。