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政府――与党は、4月28日午前の閣議で「教育基本法改正案」を決定し上程、特別委員会で、審議入りしようとしている。この通常国会で一気に仕上げてしまおう、というのが政府の考え方だ。
この「教育基本法」の「改正」は、自民党にとっては「結党以来の悲願……基本法を変えることは大きな一歩になる」(安倍官房長官)と、手放しの喜びようだ。主権在民、平和主義、基本的人権の尊重という憲法理念を変える、改憲への「大きな一歩」として、憲法と密接に関連づけられている「教育基本法」の改悪が、一気に目論まれているのである。
政府・与党は3年間、70回の密室審議を積み重ね、この改悪案をつくりだした。にもかかわらず、国会ではごく短期の論議で成立させようとしている。すくなくとも、世論調査でも70%以上の人びとは、拙速な成立を望んでいない。しっかりと時間をかけた、国民的な論議が必要なのは当然だ。
にもかかわらず、政府は通常国会の最大の課題として「教育基本法」の改悪と、改憲のための「国民投票法」の制定をあげている。衆議院千葉補選で敗北した自民党は、国会での「数の論理」を最大限駆使し、時間をかけた論議もせずに、一挙に「悲願」の達成をはかろうとしているのである。
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与党「教育基本法改正案」がめざす教育とは、個人を国民として形成するためのものだ。改悪案から読み取れることは、戦前のように教育を道具として、支配者の意のままになる人間をつくろう、ということだ。そのために、現憲法との一体性を謳う現行の条文を削除し、過去の「教育勅語」にもとづく、差別や侵略を正当化した、天皇主義、軍国主義教育への反省などを清算しようとしている。
第2条の「教育の目的」では、「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」としている。郷土を愛することと「我が国」を愛することとの間には、大きな隔たりがある。郷土とは、一定の範囲に住む人びとの共同体だが、国家はそうした政治共同体の要素をそぎ落として把握した支配機構のことを示すのである。「我が国」を愛すとは、その政治体制や為政者を無批判的に愛せということなのである。
愛国心の強要は、内心の自由の否定である。改悪案には、いたるところに、人びとの内心にふみいり、それを成績評価に盛り込み、国家=為政者の意のままになる人間をつくろう、という意図がちりばめられている。
第16条の「教育行政」では、「教育は、不当な支配に服することなく」という言葉を残した、と改悪案は自画自賛している。しかし、その内実は、現行法では教育の条件整備を教育行政の目標としてあげているにもかかわらず、改悪案では教育の主権者の国民が消され、かわりに国と地方公共団体が教育に介入することを謳いあげているのである。
義務教育も飛び級制などを前提に、年限を示していない。改悪案は、少数のエリートと多数の物言わぬ労働者を作りあげる、差別・選別教育を明確に意図しているのである。
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改悪案は、一人ひとりの子どもを大切にし、子どもたちの背景にあるさまざまな問題や課題を明らかにし、学校、家庭、地域が連携をとり、ともに生き、育つ、という人権・同和教育の否定につながるものだ。「きょうもあの子が机にいない」という現実から出発した同和教育運動がはぐくみ、人権教育へと発展させてきた、人権・同和教育を事実上否定する方向へ導くものだ。
さまざまな少年事件や子どもをめぐる出来事を、「公共心がない、道徳がない愛国心がない」などと、事件や出来事の背後にあるさまざまな関係をみることなく、問題をすり替え、ナショナリズムをあおり、国権主義を拡大しようとするものである。
また、市場原理主義にもとづく「学校選択の自由化」など、差別越境を合法化することにより教育の格差を増大させ、教員評価・学校評価制度をつくりあげ、バウチャー制の導人など、教育そのものを市場開放し、再編し公教育への権力の介入を認め、国家統制をねらうものである。
現在の「教育基本法」は、憲法のめざす「理想の実現は根本において教育の力にまつべきものである」と謳いあげている。
憲法の三大原則である主権在民尋和主義、基本的人権の尊重を実現するためにも、「教育基本法」改悪の意図をしっかりと見抜き、反対の闘いをすすめていこう。
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