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部落問題資料室
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狭山新100万人署名を軸に、各地
で再審へ世論を盛り上げよう
「解放新聞」(2006.07.03-2275)

 石川さんが不当逮捕され、えん罪におとしいれられて43年を迎えた5月23日、狭山事件の第3次再審請求が東京高裁に申し立てられた。狭山弁護団は石川一雄さんとともに、東京高裁をおとずれ、400ページにおよぶ再審請求書と新証拠を提出した。
 当日は、全国から部落解放同盟、共闘、狭山住民の会、宗教者や文化人など4000人が日比谷野音に集まり、弁護団を激励の拍手で裁判所に送り出すとともに、あらたな闘いに向けて決意を確認した。第3次再審請求の審理を担当するのは、東京高裁第4刑事部(仙波厚裁判長)と決まった。
 弁護団が東京高裁に提出した第3次再審請求書は、狭山事件の有罪確定判決(2審東京高裁の無期懲役判決)があげた筆跡、足跡、スコップ、目撃証言、万年筆などの有罪証拠の疑問、殺害方法などの自白の矛盾を一つひとつ明らかにして、再審開始を求めている。
 提出された新証拠のひとつは筆跡鑑定である。数学者である半沢英二金沢大学助教授による第2鑑定書は、脅迫状と石川さんの筆跡について、警察の筆跡鑑定が類似点とした特徴および弁護側鑑定が指摘する相違点が、石川さんの文書と一般の筆跡資料に現れる出現率を調べて同筆である確率を計算し、異筆であると結論づけている。筆跡の相違点を「書字条件や心理の違い」とごまかす一方で、「類似点」だけをとりあげて同一の筆跡とする最高裁・棄却決定の誤りを明らかにしている。
 また、川向・加藤意見書は、識字連動の研究・実践にかかわった教育学者の川向さんと識字学級にかかわっている教員の加藤さんが共同で、日本の識字運動の歴史、現状をふまえて、石川さんの筆記能力を分析し、脅迫状と比較することで、非識字者である石川さんが脅迫状を書いたとは考えられないことを明らかにしている。
 参考資料があれば当時の石川さんは脅迫状程度は書けるとした棄却決定の誤りは明きらかだ。裁判所は、部落差別によって教育を受けられなかった非識字者の実態、文字獲得の苦労の現実を理解すべきである。そして、これまでの筆跡鑑定とあわせて総合的に評価し、石川さんが脅迫状を書いたとすることに合理的疑いがないか十分検討すべきである。
 弁護団は、第2次再審で、元鑑識課員である斎藤保・指紋鑑定士による一連の鑑定書を提出し、犯人の残した脅迫状の封筒宛名の「少時」部分が万年筆で書かれており、石川さんの自白と食い違っていることを明らかにした。
 今回、「少時」が万年筆で書かれていると指摘する別の2人の元警察鑑識課員の鑑定書を提出するとともに、筆記インクを化学的に検討し「少時」が万年筆で書かれていることを裏付ける化学者の鑑定書も提出された。
 脅迫状を書いたという自白については、石川さんの指紋が検出されていないこと、使用された用紙と同じノートが石川さんの家になかったこと、身代金持参の日付が自白と食い違っていることなど、自白と客観的な事実が矛盾する点が多く、自白の重要な部分であることを考えれば、筆跡が違うこともふくめて自白全体の見直しは避けられないはずだ。
 第3次再審請求で、こうした石川さんの無実を示す数かずの証拠を学習し、多くの人に訴えていこう。

 東京高裁が事実調べをおこなうことが第3次再審請求の第1の課題である。
 狭山事件の再審請求は29年になろうとしているが、一度も事実調べがおこなわれていない。その間に、日付訂正箇所の問題(脅迫状の疑問)、小名木証言(「犯行現場自白」の疑問)などの新証拠が出され、筆跡鑑定、足跡鑑定、法医学鑑定、元鑑識課員の鑑定など、専門家による科学的な鑑定書も多数提出され有罪判決の合理的疑いが指摘された。ところが、鑑定人や重要な証人の尋問は一度もおこなわれていない。
 有罪証拠とされた万年筆に関しては、家宅捜索を担当した元刑事の「鴨居には何もなかった」という証言や鴨居上の万年筆がどう見えるかという識別実験にもとづく鑑定などの新証拠が出されたが、石川さんの家の鴨居の現場検証は一度もおこなわれていないし、元刑事らの証人調べもおこなわれていない。そして、最高裁の棄却決定は「鴨居上は視点の位置や明るさによっては見えにくい」「さっと見ただけでは万年筆の存在がわからないような場所」などと決めつけている。
 今回、弁護団は、長年警察に勤務し、警察学校の教官を勤めたこともあるベテランの元督察官に狭山事件の家宅捜索を分析してもらった報告書を新証拠として提出した。この元瞥察官の報告書は、50回におよぶ捜索の経験や警察学校などでの指導もふまえて、「鴨居の上に万年筆があれば2回の家宅捜索で見落とすことは考えられない」と指摘している。
 東京高裁が、鴨居の検証や鑑定人の尋問などの事実調べをおこなうよう大きな世論をつくっていかなければならない。

 第3次再審請求では、証拠開示を実現することも重要である。第2次再審請求で、東京高検に「積み上げれば2~3メートル」という膨大な証拠が眠っていることが明らかになった。しかし、弁護団がくりかえし検察官に証拠開示を求めたが、まったく開示されていない。弁護団は、東京高裁や最高裁にも証拠開示の命令・勧告を求めたが、それもなされないまま再審請求が棄却されている。
 そもそも事実究明と公正な裁判、正義の実現というためには検察官が証拠を隠すなどということは許されない。また、新証拠を必要とする再審請求で証拠開示は不可欠だと学者も指摘する。国連の自由権規約委員会も弁護側に証拠開示を保障するよう勧告している。
 第3次再審請求で、弁護団は証拠開示をおこなうよう東京高検や東京高裁と交渉することにしており、わたしたちも、公正・公平な裁判と正義の実現を訴えて、証拠開示をおこなえという世論を大きくしていかなければならない。
 再審無罪が確定した免田事件、徳島事件、梅田事件など、これまでの再審請求の裁判では鑑定人尋問などの事実調べや証拠開示がおこなわれていることを見れば、狭山事件のこれまでの再審請求の審理があまりにも不公平・不公正であることは明らかだ。
 弁護団は、今後、さらに新証拠や再審請求補充藩を提出するとともに裁判官と面会し、事実調べ・再審開始を強く求めていくことにしている。わたしたちは、こうした弁護団の活動を物心両面でささえるとともに、東京高裁第4刑事部が弁護団と十分協議し、事実調べ・証拠開示をおこなうよう強く求めていかなければならない。
 狭山事件の再審を求める市民の会(代表・庭山英雄弁護圭が中心となって、この7月から、東京高裁に公正裁判―事実調べ・再審開始を求める新100万人署名運動を始める。
 全国各地で、積極的に街頭での署名活動もおこない、一人でも多くの市民に訴えよう。
 新100万人署名運動を軸に、狭山再審リボンバッジやイラストシンボルマークなどを活用し、一人でも多くの人に事実を伝え、地域から石川無実・狭山再審の世論をさらに大きくしていこう。

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