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6月18日に第164通常国会は会期どおりの日程で閉幕した。結局、小泉首相の「人権擁護法案をできるだけ早期に提出できるよう努めてまいります」との国会冒頭時での答弁にもかかわらず、人権侵害救済に関する法案は提出されないままに終わった。
4月7日の閣僚懇談会で了承されたという杉浦法務大臣の「大臣直轄の検討チームを発足させて論点整理」し、法案提出は「次期通常国会を目途として努力していきたい」との報告が、政府方針としての既定路線となってきているといわざるを得ない。
われわれは、「第164国会での決着」をめざして、国会論議や各党への要請行動を重ねながら、閉会ぎりぎりまでのとりくみをおこなってきたが、制定実現をかちとることができなかったという現状をふまえて、今後の闘争戦術を練り上げていかなければならない。
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法務大臣直轄の「検討チーム」は、論点整理としてつぎの5点を中心に作業をすすめており、関係者にたいする水面下での協議がなされている模様である。①「人権侵害」およぴ「差別」の定義・概念の整理②司法機関と人権委員会との関係整理③人権擁護委員の国籍条項の取り扱いに関する整理④マスコミ規制条項の取り扱いに関する整理⑤人権委員会の所管省庁に関する整理、ということである。
自民党人権問題等調査会の鈴木俊二・会長も杉浦法務大臣ならびに法務省検討チームとの非公式会合をもちながら、党内議論をまとめていく方向を模索しているといわれる。また、与党人権問題等懇話会も正式に発足させる準備をして、杉浦法務大臣との意見交換の粉などの設定をしながら議論を煮詰めていこうとするようすである。
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だが、この政府与党の現状にたいして、つぎのような問題点を指摘しておかなければならない。小泉首相答弁と法務大臣直轄検討チームにたいする問題である。
小泉首相は、「法案の早期提出」が政府の基本方針であることを重ねて答弁してきた。この答弁は、今日の差別・人権侵害の実態、人権擁護施策推進審議会の答申、法制定に向けた国会審議や与野党協議の経過からすれば当然のことである。しかし、今日時点でも人権侵害救済に関する法律が制定されておらず、ましてや法案提出ができない理由が、与党の自民党内での意見の不一致であるということの政治責任は、厳しく問われねばならない。
また、この状況打開のために、杉浦法務大臣が「検討チーム」を立ち上げ、論点整理をおこないながら「与党ともよく相談して、与党のご理解を得たうえで、できるだけ早期に国会に提出していきたい」として、その時期を「次期通常国会を目途として努力していきたい」としていることである。杉浦法務大臣のこの判断と手法は「信義にもとるやり方」であり、本来、「法案の早期提出」の必要性と国会審議・与野党協議の経過をふまえるならば、法案内容すりあわせへの与野党協議の場を設定することや差別・人権侵害の実態把握のために当事者との意見交換をすることからはじめるべきである。そこから、法案の早期提出と審議促進を図っていくというのが、現時点での政府責任の果たし方であるということである。
したがって、われわれは、理不尽な国権主義的、民族排外主義的な立場からの反対論を排し、法案成立へ向けて政治責任・政府責任からみて本来のあるべき姿に立ち返ることを強く政府・与党に要求しなければならない。同時に、他方で現実的に法務大臣直轄の「検討チーム」が論点整理の作業を継続している事態を座視することなく、法案充実への働きかけを強化していくことも重要である。
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今後の「人権侵害救済法」制定の闘いは、われわれの「一日も早い法案制定」の基本方針からすれば、当然、秋のポスト小泉内閣の臨時国会での決着をめざすということが基本におかれなければならない。新内閣と継続審議の重要法案との関係で、現実には困難を極めることが判断されるということは覚悟の上であるが、政府・与党の「次期通常国会」という判断に与するわけにいかないのである。
この基本方針のもとに、つぎの課題を秋の臨時国会開会までにやりきろう。
①法務大臣直轄の「検討チーム」にたいする法案充実を働きかけること②与党懇にたいする要請行動を継続すること③超党派の「人権政策勉強会」や与野党協議の場作りの促進を図ること④地域実行委員会による継続的な学習会・集会開催による世論形成と休会中の国会議員にたいする地元での時間をかけた要請活動をおこなうこと⑥535の地方議会決議をさらに拡大していくこと⑦すでに20万人をこえた支持署名を背景に「鳥取県人権侵害救済条例」の早期施行への支援活動を継続すること⑧「人権侵害救済法」制定への広範な各界の合意形成へのオルグ活動を展開することである。
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