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7月18日、法務大臣の諮問機関である法制審議会の「戸籍法部会」は、戸籍の公開について原則非公開とし、弁護士や行政書士などの資格をもつ者が戸籍の謄抄本を請求する場合にも、理由を証明するよう義務付ける戸籍法改正要綱の中間試案を発表した。
行政書士による戸籍謄本や住民票の不正取得事件が、中間試案をまとめる背景にあったことはいうまでもない。3人の行政書士(いずれも廃業)が職務上請求書用紙を使い戸籍や住民票を入手し、興信所へ横流ししていた不正取得事件にたいして、部落解放同盟が全国的に情報の公開請求にとりくみ、6月段階で3015枚にもおよぶ不正請求の実態を明らかにしてきたことなどが、中間試案に一定盛り込まれるという成果としてあらわれたことになる。
ただ、中間試案では、職務上請求できる専門職について、どの程度まで請求理由を明らかにさせるかについては、意見が分かれており、パブリックコメントなどで意見を募った上で年内に要綱案をまとめるという作業手順のようである。
行政書士や弁護士などに理由を明記させることや、請求人の本人確認、さらには罰則強化(過料の引き上げ)などを盛り込み、不正取得を限りなく根絶に近づけていこうという努力が開始されたことを評価したい。
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しかし、結婚や就職といったケースで本籍地を確認され、部落出身であることが暴かれるという身元調査が隠然とおこなわれているという現実があるからこそ、戸籍の公開に一定の制限をかけざるを得なかったわけであり、結婚や就職による身元調査が今なお巧妙に頻繁におこなわれている可能性は否定できない。
では、なぜ、職務上請求できる専門職にある人間が法を犯してまで戸籍や住民票を不正取得し、興信所へ横流ししたのか。それは、悪質な身元調査の依頼が根強いばかりか増加の傾向にあるという深刻な実態が横たわっているからだといえそうだ。
05年に大阪府で実施した「人権問題に関する府民意識調査」では、「結婚の時、相手方の身元を調査すること」について、19.7%が「当然のことと思う」と答え、22.5%が「おかしいと思うが自分だけ反対しても仕方ない」と答えている。また、「子どもの結婚相手で実際に気になったことは」という質問にたいして、「相手が同和地区出身者かどうか」が24.9%となっており、4人に1人の割合になっている。
つまり、結婚のさいの部落への忌避意識は深刻なほど高い傾向を示しており、こうした悪質な身元調査の依頼者の存在が、興信所をはびこらせる元凶といえる。
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戸籍の公開に制限を加え、原則非公開を徹底しても、悪質な身元調査の依頼者の存在と、それを請け負う興信所の存在がある限り、差別調査はあとをたたない。戸籍の原則非公開という対処療法だけではなく、「差別禁止法」や「人権侵害救済法」などの抜本的な差別撤廃のための法制度の確立が不可欠である。
また、行政書士などに戸籍や住民票を不正取得された、いわゆる〝自覚なき被害者″にたいする告知のとりくみがいくつかの自治体で開始されている。広島県の福山市では、9件の告知をおこない、3件が身元調査の可能性があり、その内2件は結婚にかかわるものである可能性が高いと報告されている。大阪市でも同様に本人への告知が開始されている。
不正に取得されたことが明確になっているケースでは、当然、″自覚なき被害者″にたいして告知するということは、自己情報コントロール権を保障するという観点からも重要なとりくみである。全国各地で〝自覚なき被害者″への告知が実施できるよう当該行政に強く求めよう。
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