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9月20日に予定されている自民党総裁選挙と引きつづく特別国会をへて、5年間の長期にわたる小泉政権が幕を閉じる。「改革断行」を声高に叫びながら登場した小泉政権は、「普通の国家」「小さな政府」「規制緩和」を政策課題として掲げてきた。その内実は、「戦争のできる国家」として憲法・教育基本法の改悪や共謀罪などの導入により内外人監視・管理体制を強化し、「小さな政府」として公務員の大幅削減と行政責任を放棄した民営化をはかり、「規制緩和」として市場競争原理と自己責任論による弱肉強食の格差社会を作り出してきた。
その結果、貧富の格差が明確に増大し、就労人口の3割をこえる非正規社員の状態が制度的に承認され、400万人超の若年層の不就労状態を生み出し、大量失業者と野宿者が増加し、就学援助費受給率がこの4年間で急増するという異常な社会状況が生じている。いわゆる少数の勝ち組と多数の負け組の二極化という「格差社会」が現出しているのである。
この社会状況は、人びとの間に極度の緊張と不安と不満をよび起こしている。8年連続の3万人超の自殺者、13万人超のいじめや引きこもりによる小中学生の不登校、凶悪犯罪の多発化と低年齢化、児童虐待や高齢者虐待の急増、DVやセクハラの急増などはそのことを顕著に物語っている。
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部落解放運動にとって看過できないのは、緊張・不安・不満が充満する社会状況が、そのはけ口として差別・排除を顕現化させ、社会や人間関係をバラバラに分断していくことである。最近の新たな「地名総鑑」差別事件や夥しいインターネット上の差別書き込み事件などにみられるように、陰湿化・悪質化する差紬事件の野太は、そのことと扱く限度しているのである。
同時に、小泉政権のもとで危険な輪郭をあらわしてきた格差拡大社会は、倫理なき拝金主義の拡張による「勝ち組」と非正規社員やニートなどに象徴される「負け組」という二極化構造を作り出し、部落の生活実態に大きな社会的矛盾を集中させてくることである。
かつて部落差別実態の特徴であった臨時工・社外工問題は、法制度化された派遣社員システムのもとでの3割を超える非正規社員問題などとして日本社会全体に一般化されてきているともいえる。まさに、雇用の機会均等などの平等の原則や安心して生活できる生存権の確保などの重要な権利が、強者のための競争の原理と自己責任論でつぎつぎと骨抜きにされ、差別的土壌がまたも強化されてきている。
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部落解放運動は、差別を拡大する格差社会の危険なあり様にたいして、今何をなすべきなのか。一つは、個個の差別事件を大事にあつかい、社会的背景を十分に分析した糾弾要綱にもとづく糾弾闘争を社会性・公開性・説得性をもって粘り強く闘い、差別の不当性や人権社会の確立にたいする幅広い社会的共感をかちとることである。
もう一つは、社会的セーフティネットの基準作りと制度構築をおこない、すべての人が安心して安全に暮らせる社会に造り替えることである。部落解放運動は、競争一般や格差そのものを全否定しているわけではない。個個人の多様な個性・能力や努力のあり様からして「競争」や「格差」は生じざるを得ない。しかし、それらの「競争」や「格差」は、憲法第25条でうたわれているように、すべての人が「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」が保障されていることが前提にされなければならない。そのことが社会の安心と安全を担保し、差別を抑止・防止していくことにもなる。
社会的セーフティネットの基準作りのとりくみは、生存権(第25条)や平等権(第14条)・幸福追求権(第13条)などの権利を具体化していくことである。中央本部段階では、「社会的セーフティネット作業部会」を第63期の重要なとりくみとして立ち上げて、現在準備作業をすすめているところであるが、「最低賃金制度」「生活保護制度」「年金・医療制度」などの問題が不可分で重要な論議の柱になってくると考えられる。この作業部会の動向への関心を喚起しておきたい。
また、これらの問題とも関連して、第14回中央福祉学校が9月22、23日に京都でひらかれる。人権としての福祉の総合政策を現場から具体的に確立していくための実践的議論がされることになっている。部落解放運動が、「富と権力」を求める強者の論理に巻き込まれることなく、「人間の尊厳と安心・安全」を求めつづける人間解放の運動であるということを中央福祉学校でさらに深めていきたい。全国各地からの関係者の積極的な参加を求めたい。
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