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部落問題資料室
NEWS & 主張
主張

 

悪化する部落差別の現状を
熊本全研で明らかにしよう
「解放新聞」(2006.09.11-2285)

 9月30日から3日間、部落解放研究第40回全国集会を熊本県でひらく。今回の全国集会は「特別措置法」失効後、5年目を迎える研究集会であり、一般対策を活用、改革、創設することで、新たな同和行政を構築する重要な研究集会である。
 そのためには部落差別の今日的な実態をよりいっそう明確にする必要がある。差別事件は悪質な事件を含め減少していない。むしろネット上の事件は増加傾向にあり、旧来からある結婚差別事件なども、新たな「部落地名総鑑」発覚や戸籍などの不正取得事件に代表されるように根強くつづいている。
 それだけではない。経済格差が拡大する社会状況のなかで部落差別意識は悪化し、就労実能だ顕著にあらわれているように、生活実態も2002年3月の「特別措置法」失効時より悪化している面がある。これらの現状を内外に明らかにすることが本研究集会のもっとも重要な課題である。

 過剰な競争社会が競争すらできない人びとを増加させている、と指摘されているように、今日の社会状況は、被差別部落にも大きな影を落としている。1996年から2006年の10年で正規雇用者は約407万人減少し、フリーターをはじめとする非正規雇用者は約650万人増加している。正社員の平均年収は531万円であり、派遣社員はその約4割の226万円、フリーターは約3割の167万円である。こうした社会状況が今日の被差別部落の実態にどのような影響を与えているのかを検証しなければならない。
 今日、そうした意味で「特別措置法」失効時とともに同和行政の新たな局面を迎えているといえる。

 同和行政の原点ともなった1965年の「内閣同和対策審議会答申」は同和行政は、「過渡的な特殊行政でもなければ、行政外の行政でもない。部落差別が現存するかぎりこの行政は積極的に推進されなければならない」と明記した。
 政府レベルで同和行政に関する最後の意見具申になった1996年の「地域改善対策協議会・意見具申」では、この「答申」を再確認したうえで、「教育、就労、産業等のなお残された課題については、その解決のため、工夫を一般対策に加えつつ対応するという基本姿勢に立つべきである」とし「特別対策の終了、すなわち一般対策への移行が、同和間題の早期解決を目指す取組みの放棄を意味するものではない」と明確にのべられている。
 しかし多くの行政関係者は同和行政を、まさに「過渡的な行政」であり「特殊な行政」「行政外の行政」として捉えている。これらの認識を根本的に改めない限り今後の同和行政の推進はあり得な、い。そのためにも今日的な部落差別の実態と同和行政の内容を本研究集会でよりいっそう明確にしていく必要がある。

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 行政関係者をはじめとする多くの人びとがこのような認識をもつ背景には、同和行政に関する誤った捉え方が存在する。その代表例が、同和地区に特別対策をおこなうことだけが同和行政と捉えていることであり、その前接としての同和行政に関わる「同和対策事業特別措置法」や「特別措置法」を根拠にした施策のみを同和行政と捉えている点である。この捉え方は根本的に誤っている。
 「特別法」が失効したということは、特別対策が原則としてなくなるということだけであり、同和行政が終結したわけではない。同和行政のなかで特別対策という行政手法を使っていた部分がなくなるだけである。一般対策を活用し、改革し、創設するなかで部落差別の撤廃に向けて同和行政を展開することは、これからも関係行政機関にとって重要な課題である。

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 特別対策としての同和行政は、一般対策が不十分であるという条件のもとで、厳しい差別の実態と早急な改善の必要性のなかから導かれた過渡的措置である。
 部落解放連動が求めてきた同和行政は、あくまでも部落差別の撤廃を目的とした行政であり、部落差別を受けた人びとの救済や差別的状態を是正する行政である。また、差別撤廃・人権社会システムの確立をめざす行政なのである。
 そうした同和行政を推進するためにも、一般対策を活用した同和行政の内容・手法を明確に示す必要がある。それらをよりいっそう明確にしなければ、関係行政機関に新たな同和行政を根付かせることはできない。それらを明確にすることが本研究集会に課せられた課題である。
 ほとんどの行政関係者は、「今日、部落差別は存在するか?」と問えば、明確に「存在する」と答える。しかし同和行政の必要性に関しては明確に答えられない人も多い。まさに「答申」が指摘した「部落差別が現存するかぎりこの行政は積極的に推進されなければならない」とした精神が置き去りにされているのである。これらの精神を取り戻す研究集会でもある。
 そのためにも格差社会のなかで悪化している各地の部落差別の現状と同和行政の課題を検証し、本研究集会の議論に反映させなければならないことを訴えたい。

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