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部落問題資料室
NEWS & 主張
主張

 

福祉の後退許さず、部落の
生活対策を強化していこう
「解放新聞」(2006.12.18-2299)

 過日、ある県連のオルグ行動に参加する機会があった。高齢化と過疎が進行し近郊型大型スーパーの出店は、高齢者の拠り所であった小売店を駆逐した。車を使えることが当たり前の社会システムからの排除が深刻になっている。「何も1日3食食べんでもええ、2食にしようと思う」「年金のない人がいる。買い物するから4円欲しいといってきた。みんな厳しいんよ」と報告する支部員の顔と正対することができなかった。「「運動」や「福祉」は何をしてきたのだろう」と自問する長い時間だけが続いた。「格差」という単語を私たちは他人事として「一人歩き」させていたのではないかと猛省する。
 都市部の部落では、「高学歴自立・自活層」といわれる人たちの部落外流出にくらべて、一人暮らし高齢者や母子家庭など、「社会的困難」を抱えた階層の部落内流入、いわゆる「困難の一方通行現象」という深刻な人口移動が大きな課題であることが報告されている。いっぼう、この県連のように郡部では、差別の結果もあって急激な「過疎」が近隣と比べて極端に進行している。いずれにせよ部落問題はその地域のもつ社会的矛盾を集約・先鋭化させていることに何ら変わりはなく、「不幸は一番先や」といわれる現実から今こそ「福祉運動」は逃げてはいけないのだとあらためて確認させられた。

 福祉の現実からみる今日の「部落問題」とは、これまでの「歴史的・文化的」という視点を背景にもちながらも、その地域、その行政の社会的矛盾の集約することへのアプローチの問題であり、多問題を磁石のように吸い寄せ複雑化し今日もなお再生産し続ける重大な社会問題であるということを忘れてはいけない。それは別言すれば、これまで私たち自身もいってきた「一般施策を活用して部落問題を解決する」というスタンスではすでになく、倣慢と取られるかも知れないが、むしろ「部落で実現可能・成果があった制度こそ一般対策として実現されるべき」という私たち側の自信と責任を提案することでないのかと思う。
 だからこそ「部落だけ」「特定の地域だけ」といった要求を排し、たった一人の課題を政策に出来る力を運動はもたねばならない。そのためにも、たんなる反対や「行政責任追及」という空文句だけでは決して展望はひらけないことを自覚し、それぞれが地域の「たった一人」のニーズや課題に依拠しながら、現行の事業からスタートできる具体的な地域福祉事業を、行政任せでない実践として積み重ねること。また「市民の課題」の解決に向けた多くの人たちとの共同の事業として創造することなどを通じた試行錯誤に、果敢に挑戦することが求められている。
 だからといって私たちは制度の創設や一般対策を駆使する手法はむずかしいものとして捉えてはいけない。「非正規雇用」「ニート」問題は、私たちがとりくんできた「臨時工・社外工」問題であり、ここで政府から示された「緊急雇用政策」や「若年者就労支援策」は、早くから酪瀞でとりくんでいた労働対策の実践にはかならない。
 部落が景気の「調節弁」として存在し、悪い意味で社会の現実を先取りする事実から、部落に集約された矛盾にとりくんできた実績やノウハウは、そのまま社会への提案として輝きを放っている。「ソーシャルインクルージョン(社会的内包力)」などむずかしい理念のように聞こえるかも知れないが、部落で脈みゃくと展開されてきた共助の仕組みこそ、この理念そのものではなかったのだろうか。

 部落には差別に苦しめられた悲惨な歴史や、それと闘ってきた誇るべき経験が存在する。だからこそ私たちは部落民としてのアイデンティティで「福祉」や「まちづくり」に参加したいと願ってきたし、それがあるからこそ「まち」は豊かになれると確信している。
 また、部落にはこれまでの特別対策でかちとってきた隣保館をはじめ多くの地域財産が存在し、これらの施設を有効に活用しながら、社会問題に挑戦できる、部落を「核」とした新しい「つながり」の再構築を今こそめざさねばならない。
 そのためにも、隣保館での相談事業を柱にしながら、「たった一人にあらわれる社会の矛盾」にしっかりと着目するという運動がもっとも大事にしてきた「原点」を忘れることなく、地域福祉の実践に地道にとりくもう。
 今回の福祉学校に県連を代表してたった一人で参加された同盟員がいた。電車のなかで「内職」を仕上げながら必死で京都に来られたらしい。「どうしても福祉が勉強したかった。これだけの仲間や実践があることが嬉しかった」と涙をいっぱい溜めて報告され、会場全体が拍手で応えた。解放同盟の組織力(絆)の意味を、私たち一人ひとりがあらためて考えるときかもしれない。

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