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部落問題資料室
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憲法改悪と教育改悪に歯止めかけ、未来を保障する
教育の実現に向け地域で教育運動のとりくみ強化を
「解放新聞」(2007.07.02-2325)

 教員免許の更新制の導入や国・文部科学省の権限強化を盛りこんだ「教育3法」の改悪案が、5月18日衆議院を通過し、6月19日には参議院文教科学委員会を通過、翌20日に成立した。昨年の「教育基本法」改悪につづいて、参議院選挙に向けて安倍内閣の成果として掲げようという腹積りであろう。慎重審議を求める多くの国民の声を軽視して、拙速な審議によって今国会での改悪を強行した。
 「教育改革」の必要性が議論されるにいたった本来の理由は、子どもたちの学力低下や、子どものいじめや不登校、問題行動など学校現場が抱えるさまざまな問題の解決に向けて早急にとりくむためだった。
 しかし今日、「教育改革」のベクトルは、新自由主義や市場原理主義に拝跪する者たちによって、まったく正反対の方向に舵をとられようとしている。いますすめられようとしているのは、国権主義・排外主義にもとづく政治家のための教育改悪であり、彼らの狙いは、教育の国家統制と国家支配であることをしっかりと見抜き、こうした策動を断固阻止しなければならない。

 2005年10月、中央教育審議会が、義務教育のあり方や国と地方の役割などについて、改革の方向性と今後の具体的な改革案などを盛りこんだ答申をまとめた。ところが、この答申の内容を吟味することなく、国権主義や市場原理主義の立場から政治的に曲解し、「選択」と「競争」が学校教育をよくするとうそぶくのが、今日の「教育改革」の正体である。そして「選択」と「競争」を実行するために、矢継ぎ早に導入されつつあるのが「学力テスト」「学校選択制」「学校評価」である。
 これらの制度は、「勝ち組」「負け組」の烙印を押し、「教室から子ども」を「学校から教師」を排除するため、差別・選別の教育を浸透させるために用いられようとしている。学校を、子どもたちから学びを奪い、物言わぬ教師を造りあげる装置にさせてはならない。
 こうした教育改悪の流れに歯止めをかけるためにも、子どもの学力とその背景にある課題など地域の教育実態と課題を明らかにしながら、子どもたちの学力を保障する真の教育改革の実現に向けた闘いを各地ですすめていかなければならない。

 今日の学力低下の最大の原因は、深刻な格差社会の進行とも関連して、学力下位層にある子どもたちの学力がいちじるしく低下していることにある。この状況を克服するためには、部落をはじめとした教育的に不利な立場に置かれている子どもたちの実態を把握し、その改善をしっかりと視野に入れた国や自治体の施策と学校での具体的な学習指導の改善が重要であり、それに役立つ学力調査が必要である。
 「学力テスト」の結果を、学校や市町村ごとに公表し、競争を促進するなどという行為は、子どもたちの学力保障を本当に実現していくうえで、まったく意味がないどころか、いたずらな競争と学校の序列化により、学力格差をいっそう拡大させるだけである。
 また、親の教育権をもち出して選択する権利を保障すること、学校が選択にさらされることで競争が強まり、いい学校が生まれると、学校選択制の全国的な導入を図るべきとの主張がある。
 これらの主張は、部落を含む校区の小・中学校に子どもを入学させるのを嫌い、住民票まで移して、他の校区の学校へ入学するという「差別越境」の実態など、まったく部落間題の歴史的教訓を無視した意見である。
 また、公立学校が地域社会の多様な人びとから構成され、子どもも親も多様性の重要性を学ぶ場でもあること、さらに「地域に根ざした開かれた学校づくり」のなかで学校づくり・地域づくりをすすめていくことが求められているという時代の要請にも逆行しており、公教育の否定につながる主張と指摘せざるをえない。
 さらに、いじめ問題や未履修問題などを理由に、すさまじい教育バッシング、教師バッシングが巻き起こり、これに便乗するかたちで、命令に従わない教師を排除しようと免許更新制が導入されようとしている。

 これまで、部落の子どもたちの学力保障や進路保障、部落の教育条件や教育環境の整備に大きく寄与してきたのは「同和加配」とよばれた教師たちであった。
 今日、「児童生徒支援加配」とよび名を変えてはいるが、「特別な学習指導」「特別な生徒指導」「特別な進路指導」を必要とする学校にたいして措置される。そうした課題の解決のために資するという観点からすれば、その役割は従来と大きく変わるものではない。
 この「児童生徒支援加配」の活用をめぐっては、日本共産党などが批判的なキヤンペーンをおこなっているが、子どもの学力や家庭の経済力の「格差」の拡大など、教育条件や教育環境の悪化が指摘される今日こそ、教師が果たす役割は、これまで以上に重要になってきている。
 教育には特効薬はない。一朝一夕に変えられるものではないことは、これまでの解放教育運動の歴史を見ても明らかだ。学校と保護者と地域が連携し、地道な協働によるとりくみの積み重ねが、一番の近道であり、唯一の方法といっても過言ではない。
 そのために、いま必要なのは、予算と人を教育現場に集中させ、学校現場のさまざまなとりくみを支援し、教育条件を整備することだ。これ以上、教育を政争の具にさせてはならない。「差別の現実から深く学ぶ」という解放教育運動のスローガンをあらためてかみしめよう。
 憲法改悪と教育改悪に歯止めをかけ、子どもたちの豊かな育ちと学びを支え、未来を保障する教育の実現に向け、各地域で教育運動のとりくみを強化していこう。

教育3法とは
 ①「地方教育行政法」、②「学校教育法」、③「教育職員免許法」の3法案。今回の改悪で、
 ①国(文科相)は、「教育委員会の責任体制を強化する」として、教育委員会、学校への管理体制を強化。そして、国が「法令違反」「怠っている」と見なした教育委員会にたいして「指示」「是正要求」を出せる。私立学校にたいしても、知事が私立学校の監督を務め、知事にたいし教育委員会が「助言」「援助」をする。→「地方教育行政法」
 ②義務教育の目的・目標に「愛国心」を盛り込むことができる。学校内で「校務」を実行するための指導体制強化として、各学校に副校長、主幹教諭、指導教諭を置く。→「学校教育法」
 ③教職員にたいして、10年で教員免許を更新する制度を導入。「指導が不適切」と見なした教員にたいして、研修を実施するなど人事管理を厳格化し、場合によっては免許を失効させることができる。→「教育職員免許法」
 ちなみに、免許更新制度は、医師や建築士などの国家資格が必要な業種にはなく、教員だけである。なぜ教員だけなのかということについては明確な理由がない。

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