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可視化法案の成立を司法民主化、
狭山再審と結合し闘おう
「解放新聞」(2008.02.18-2357)

 昨年末の12月4日、民主党は「刑事訴訟法の一部を改正する法律案(取り調べの録画・録音による可視化法案)」を参議院に提出した。
  今回の民主党の法律案の柱の第1は、被疑者の供述と取り調べの状況のすべてについて録画・録音することを義務付けるということである。取り調べの一部ではなく全過程を録画・録音(可視化)するという点が重要である。一部の可視化では、暴行や脅迫・利益誘導などがおこなわれても隠される可能性があり、可視化は全過程でなければ意味がないのは当然である。また、法案では、録画などの公正さを保つために、同時に2つ以上の媒体に記録し、一つは取り調べ終了時に、被疑者の面前で封印するなど、すでに可視化を導入している諸外国の手続きをとりいれている。
  法案の第2のポイントは、こうした録画・録音、封印という手続きに反してなされた、録画などのない自白調書等は裁判で証拠とすることができないというものである。いくら録画・録音の手続きを決めても、これに違反する取り調べでなされた自白調書などの証拠能力を認めれば、可視化手続きの意味がないのであるから、このような規定も当然である。
  さらに第3の重要なポイントとして、検察官手持ち証拠のリストを弁護側に開示しなければならないとする規定をもりこんでいる。証拠リストが開示されていないと、弁護人には検察官の手元にどのような証拠があるのか、つまり開示請求する対象になる証拠があるのかがわからず、弁護に必要な証拠が開示されないことになりかねないと従来から指摘されてきた点を改正しとうというものである。

 民主党は、こうした法案を提出した趣旨として、わが国の警察等での取り調べが密室でおこなわれるために、自白強要によるえん罪を生む温床になっており、この間も、志布志事件や富山事件などのえん罪事件がつぎつぎと明らかになったこと▽昨年5月に国連の拷問禁止委員会から日本政府にたいして、警察拘禁中のすべての取り調べが録画等によって監視されるよう厳しい勧告が出されたこと▽従来から刑事裁判で自白調書の信用性、任意性が大きな争点となっており、2009年の裁判員制度導入をひかえて、迅速な裁判をおこなうためにも取り調べの全過程を録画・録音する可視化制度の導入が急務である、としている。
  志布志事件、富山事件のえん罪被害者も狭山事件の石川一雄さんも、警察での人権無視の取り調べ、自白強要、証拠ねつ造の実態を訴え、これらをなくしていくために取り調べの全面的な可視化が必要だと訴えている。取り調べ可視化の必要性は、えん罪当事者や弁護士、学者ら多方面から強く指摘されている。
  また、昨年5月の国連拷問禁止委員会の日本政府にたいする最終意見書は、日本の刑事裁判での自白を根拠にした有罪判決の多さに深刻な懸念をあらわしたうえで、録画・録音によって警察での取り調べが監視されなければならないこと、警察の全記録に弁護側がアクセスできるようにすべきであることなどを勧告している。可視化は世界から問われている日本の人権課題でもある。
  えん罪を生まないために可視化を実現することは、市民が参加する裁判員制度を間近にひかえて急務であるし、えん罪が身近におこりうる市民の人権を守るためにも必要である。
  法案は昨年の臨時国会で継続審議となり、この通常国会で審議入りがのぞまれている。国会での法案審議をへて取り調べ可視化の実現を早急にはかるべきである。

 狭山事件の第3次再審請求はことし5月でまる2年をむかえる。門野博・裁判長が就任して1年、弁護団は5月にも新証拠を提出する準備をすすめており、これからが闘いの正念場といえよう。昨年5月には東京高裁にたいする事実調べと再審開始せ求める新署名が100万人を突破し、その後、全国各地で報告集会もひらかれ、市民にさらに世論が広がっている。署名運動を継続し、より多くの人に、30年以上も事実調べがおこなわれていない不当な再審請求の現状と石川無実、えん罪の真相を訴える必要がある。
  狭山事件で、石川一雄さんが、えん罪におとしいれられて45年になろうとしているが、石川さんは別件逮捕、代用監獄での長期にわたる取り調べ、弁護士との接見禁止などによって虚偽の自白を強いられた。自白の信用性や任意性を判断するための取り調べ状況の記録などは明らかにされず、十分吟味もされないまま、密室の取り調べで作られた自白調書が有罪判決や再審棄却決定の大きな根拠にされているのである。志布志事件や富山事件の無罪事例からすれば、狭山事件の自白もまた再検討されなければならない。しかも、東京高検に多数の手持ち証拠があるにもかかわらず、20年以上も証拠開示がおこなわれていない。
  取り調べの可視化と証拠リスト開示の実現は、狭山事件の再審にとっても大きな意味をもつ。事実調べ・証拠開示の実現を訴え、署名運動を軸として運動をより広げるとりくみをすすめよう。取り調べの可視化の実現に向けて世論を高め、国会に可視化を求める請願をおこなおう。地方議会へ陳情書を提出し、可視化を求める意見書採択などの運動をすすめよう。可視化実現、司法民主化と狭山第3次再審の闘いを結合させとりくみをすすめよう。

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