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第169通常国会は6月21日に一週間延長の会期を終え閉会した。私たちは、この国会で「人権侵害救済法」の早期制定をめざしてきたが、決着は秋の臨時国会へともちこされた。理由は、与党である自民党内で意見がまとまらなかったことである。
自民党は、2005年3月に、衆議院解散により自然廃案となった「人権擁護法案」に修正を加えて再提出しようとしたが、強烈な反対派が台頭し党内議論が紛糾し、国会提出はできなかった。そして、2006年9月に安倍政権が誕生したが、自民党内の法案議論の場である政務調査会の人権問題等調査会は立ち上げられることなく、法案そのものが封殺された。
昨年の福田政権成立のもとで、やっと事態は動きはじめてきた。1年以上にわたって空白になっていた自民党の人権問題等調査会が、昨年12月に発足会譲を開催し、太田誠一・元総務長官を会長にして新体制を確立した。
調査会は、「国会への法案提出をめざす」ことを前提に今年の2月から本格的に議論を開始した。それ以降、国会が閉会になる直前の6月20日までに16回にわたって開催されてきた。国会閉会中は、調査会の協議も中断することが申し合わされたという。
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第169国会では、法案問題が俎上にのぼったのは3回だけである。1月23日の参議院本会議での鶴保庸介・議員(自民党)の代表質問にたいして、福田康夫・総理が「引き続き真撃な検討」との答弁をおこない、2月22日の衆議院法務委員会では鳩山邦夫・法務大臣が「法案の国会提出をめざすべきものと考えておりますが、……引き続き真撃な検討」をするとの所信表明をし、3月25日の参議院法務委員会での松岡徹・議員(民主党)の質問に、鳩山法務大臣が「人権を守る基本法が必要だ」との考えを示し、人権侵害の実態を法務省として把接させる努力をするとの答弁をおこなった。
しかし、法案の中身については、自民党人権問題等調査会の議論をまつことになった。議論は毎回紛糾の様相を呈した。反対派からのおもな意見は、①人権や人権侵害の定義が暖味で内心の自由を侵す危険がある②調査権や過料判断など人権委員会の権限が強大過ぎ令状主義に違反する③強権的・包括的な新法を制定する必要性(立法事実)はなく現行の個別法で対処できる④人権擁護委員の資格要件に国籍条項がないのは問題である、というものである。
これらの反対派の意見のなかで、5月29日の第12回調査会では、太田会長私案として『「話し合い解決」等による人権救済法(案)』が提示され、これをめぐる議論が継続している。太田私案では、①法案の名称問題②法案の目的を「法の支配の下で人権紛争を解決する」ことにし③人権救済対象の限定④制度濫
用の防止⑤そのほかとしてメディア条項を設けないことなど、全体で11項目にわたって論点を整理している。だが、議論は収束しておらず、結局秋の臨時国会へと法案提出は見送られているのが現状である。
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「人権侵害救済法」の制定をめぐる現状評価については、法案策定への場作りという面では前進してきたが、太田私案に見られる法案内容の面については今後大いに議論をしながら充実させなければならない課題が存在しているといわざるを得ない。
法そのものを否定する強烈な反対意見があるなかで、1日も早く「法」制定をかちとらねばならないという厳しい条件がある。安易な妥協を排して基本原則を譲ることなく、発展性のある充実した法律として仕上げていくことが重要であり、それを可能にする政治力量が問われる段階にはいっているとの判断が必要である。
私たちは、国会閉会中の7月、8月に、秋口に予定されている臨時国会への法案提出を可能にする条件整備をしておく必要がある。
そのためには、地元選出の国会議員にたいして中身の濃いていねいな要請活動を各都府県連・実行委員会が責任をもっておこなうことである。現行法制度では救済できない差別・人権侵害の具体的な実態を提示して立法事実の根拠を説明し、実効力ある人権委員会の創設の必要性を強調し、国際的な人権潮流と合致する人権の法制度を確立していくことによって、日本が国連人権理事国としての人権立国を具体的にめざすべきことを要請することである。
同時に、578の自治体決議をさらに拡大するとともに、自治体議員からも国会議員に働きかけていくようにとりくみをおこなっていくことが重要である。また、地域実行委員会による集会や学習会をきめ細かく組織して、地域からの法制定の声を政府・与党および野党の関係者に届けることである。
きたるべき第170臨時国会で、「人権侵害救済法」の制定を現実のものとするために、各実行委員会および構成団体の創意工夫をこらしたとりくみを強化しよう。
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