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部落問題資料室
NEWS & 主張
主張

 

夏期の研究集会で部落問題への視点を明らかにし、
課題を掘り起こし論議しよう
「解放新聞」(2008.07.21-2379)

 部落差別撤廃のためにもっとも重要な理論的課題は、今日の部落差別をどう捉えるかということである。
  部落差別の結果としてあらわれる諸現象も、その原因を突き止めなければ根本的に解決することはできない。差別事件や差別意識、生活や教育、就労にあらわれる差別実態などは部落差別の結果としてあらわれる現象である。部落解放運動は、これらの社会にあらわれる差別現象を改善し、除去するためにとりくんできた。それらは対症療法であるとともに根治療法の一部でもあった。
  しかし、いまだ根治にはいたっていない。また部落差別が完全撤廃された社会とはどのような社会かを十分に明確にすることができていない。さらに部落差別の原因はどこにあるのかを十分に詳細に明確にすることができていない。一定の枠組みは提示してきたが、その枠内を十分に明らかにすることができていない。それらを明らかにすることが、私たちのもっとも重要な理論的課題である。

 部落差別事件が発生せず、すべての人びとから完全に部落差別意識がなくなり、生活や教育、雇用などで差別にもとづく大きな格差がなくなれば、部落差別は完全撤廃されたといえる。
  今日、部落差別事件はなくなっておらず、電子空間上では増加傾向にすらある。部落差別意識も私たちの期待に反して一歩前進二歩後退といった状況である。また、生活や教育、雇用などの実態面も格差社会のなかで悪化する傾向にある。
  これらの状況を私たちはどのように捉え、どう対処すればよいのかが問われている。なぜ部落差別事件はなくならないのか。なぜ電子空間上で増加するのか。なぜ部落差別意識はこれまでのとりくみにもかかわらず消滅せずに一部逆転現象が生じているのか。なぜ格差拡大社会が現出すると被差別部落の実態は悪化するのか。
  これらの「なぜ」に明確に答えることができなければ部落差別の原因も明らかにすることができない。

 これまでの部落解放運動は、差別の諸現象を改善することに重点を置き、その面では一定の成果をおさめることはできた。多くの対症療法を駆使し、差別現象を抑制し改善してきた。それらの対症療法のなかには根治療法につながる政策や施策もあった。教育や雇用の施策は根治療法にもっとも近かった。しかし、その教育や雇用の面での成果はもっとも不満足なものである。
  「特別措置法」時代の同和行政の主流は、差別の結果生じた格差を是正するために特別措置を講じることであった。そのために種じゅの特別措置が「法」にもとづいてなされてきた。その特別措置のなかでも教育や雇用にかかわる施策は、差別の原因に結びつく施策として重視された。しかし教育実態や就労実態の改善は、さきにも指摘したように大きな成果を見ることはできなかった。つまり差別の原因に迫る同和行政は大きく立ち遅れたのである。

 私たちが部落差別の原因としてこれまで明らかにしてきたのは、概括的にいうと社会のシステムと密接にかかわっているということだけである。部落差別を存続させるようなシステムや、長期間の部落差別による累積的差別実態を積極的に撤廃する社会システムが存在しないことが主要な原因と捉えてきた。
  しかし、部落差別が存続している詳細な原因を明らかにしなければ、その原因を取り除くことも十分にできない。部落解放運動も同和行政、同和教育も部落差別を撤廃するために存在するのである。それらの前提は部落差別の原因を詳細に明確にすることである。それらが明確になれば、社会システムに大きな影響をもつ差別禁止法や人権救済法制定の必要性も、いっそう明らかになる。

 今日、部落差別を制度的に固定化する法律・制度は存在しないが、これまでの累積的差別を積極的に除去し撤廃する法律・制度・システムもきわめて不十分であった。これらの状況が部落差別を温存させている。つまり現在の社会システムとこれまでの部落差別にもとづく累積的差別が重なるとき、差別の再生産構造を作り出しているといえる。
  たとえば太陽光と虫眼鏡が別個にあれば、光が集中して焦点化することもなく、焦点化するところにある紙も燃え上がることはないが、二つが重なれば焦点化したところは間違いなく燃え上がる。今日の部落差別の再生産構造は、まさにそのような構造になっている。何が太陽光で何が虫眼鏡の役割を射たしているのかということを、多くの分野の英知を結集して、解明することが焦眉の課題となっている。
  各地でおこなわれる夏期研究集会などで、各地の現実をふまえつつ論議が深まることを期待している。それらの成果を10月3~5日に宮崎県で開催される部落解放研究第42回全国集会へ反映させよう。

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