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部落問題資料室
NEWS & 主張
主張

 

第16回中央福祉学校で方向を
確認し人権のまちをつくろう
「解放新聞」(2008.09.01-2385)

 9月6日から8日までの3日間、奈良市内を中心に「部落解放第16回中央福祉学校」をひらく。
  私たちは、4年前の第12回中央福祉学校で、介護保険制度の見直し論議、障害者支援費制度の動向、生活保護制度のあり方論議、地域福祉計画策定の進展動向など、財源不足を理由とした三位一体改革論議のなかで社会保障費を大幅縮小するという方向での福祉をめぐる大きな変化がはじまっている状況を指摘してきた。
  そしてこの事態を踏まえながら、たんなる反対姿勢からの批判に終始することなく、具体的な実態把握にもとづいた問題解決への積極的な政策提案をおこなうことを基本姿勢として、「隣保館活動を核に福祉で人権のまちづくりを!」を基本方向として打ち出した。

 そこで強調したことは、「部落問題は、「部落」を口実にした差別・排除・忌避の長年の繰り返しによって構造化した社会問題であり、今日においてもなお再生産し続けてきているのは、新たな社会矛盾が部落差別と複雑に絡み合ってきているからです。そして、今日もまた、絶えず新たな矛盾を敏感に吸い付けてしまって複雑化する危険性のある社会問題なのです。そうすると、同和行政は、部落への差別と他の社会矛盾が交差し、部落差別を複雑化・再生産していく「交差点」を部落という地域に見出し、そこにある隣保館(教育集会所)での「発見」機能を強化することでなければなりません。そしてその機能は、困難事例だけを瞬時的に着目するのではなく、「ひと」「まち」に継続的に着目した事業として位置付かねばならない」ということだ。
  この位置づけから、「継続的相談事業」を活用し、官民対等の協働による「新たな公」を創出するとりくみとして隣保館活動の活性化を提案し、地域からの社会保障制度の充実化に向けた拠点施設にしていこうと訴えてきた。

 4年前の基調は、今日もその意義を失っていないばかりか、ますますその必要性が大きくなってきている。今日の格差拡大状況は、まさに「新たな社会矛盾」として社会問題化している。これを克服していく方向は、私たちが一貫して提起してきた反差別・反貧困の視点に立った「生存権と人間の尊厳」を守り確立させていくとりくみが何よりも重要であり、前述の「基調」を具体化していくことである。
  私たちは、小泉政権によって推しすすめられた「構造改革」なるものが、危険な「戦争のできる国」と市場原理による「弱者切り捨て」の好戦的国権主義的な路線であり、深刻な格差・差別問題を生み出すものであると批判してきた。小泉政権の路線を踏襲した安倍政権は、さらにタカ派的な民族排外主義的路線を強行して自滅し、その後の福田政権も「安心実現」内閣をうたい文句にしてはいるが、格差問題は依然として進行しており、人権侵害や差別事件は陰湿・巧妙な形で増加し続けている。

 格差問題の核心は、単純に格差が存在しているということではなく、労働者派遣法などのような法制度によって格差が固定化させられてしまうことと、人間としての生存権や尊厳を脅かされ希望をもつことすらできないような困窮状況をつくり出したり、放置・黙認することであり、そのことが差別構造として機能することであると、私たちは考えている。
  人間として、個個人の能力や適性に応じて懸命に生きる努力せ続けている限り、運不運はあるとしても希望をもって安心して安全に生きていくことができる最低限の社会保障の制度が必要だ。そのことが、差別を再生産させないもっとも有効な手だてであろう。
  第65回全国大会で提示した「社会的セーフティネット構想」は、反差別・反貧困の立場から格差社会・差別構造に切り込んでいこうとするものである。生活保護制度、年金医療制度、最低賃金制度のあり方、さらに就学支援制度や納税制度のあり方は、その重要課題であり、中央福祉学校のなかでも継続して掘り下げ具体化させていかなければならない。

 5年前の一連の不祥事で、部落解放運動が戦後最大の危機に直面していることは衆知のとおりである。そして、この不祥事を口実にして同和行政・人権行政の縮小・後退の動きが各地で顕著になってきており、国の福祉予算削減動向とあいまって、地域福祉運動の前進にとって困難な局面に直面していることも事実だ。しかも、人権・平等をめぐる右からの露骨な攻撃が、戦後政治の鋭い総路線対決として繰り広げられている情勢のもとで、部落解放運動など人権諸団体にたいする嫌悪感をあらわにしたバッシングが執拗におこなわれている。
  本当に厳しい状況のなか、私たちがこの局面を打破するためには、政治的空文句を弄んだり、張り子の虎のように強がって見せたり、いたずらに嘆いて座したりすることではなく、生存権と人間の尊厳を徹底的に守り抜くという観点から部落内外の困難を抱えた人びとの課題をていねいに解決していくという毅然然とした姿勢と具体的な実践を通じて実現していく以外に道はない。

 第16回中央福祉学校は、以上のような認識のもとにひらくものであり、関心をもつ人であればだれでも参加できるし、多くの人に参加をしていただきたい。「日本の社会保障と地域福祉」「地域社会の再生は可能か」「隣保館の活性化について」「後期高齢者医療制度について」などをテーマとした講座や福祉活動現場のフィールドワークを予定している。
  私たちは、「人権の核心は、生存権と人間の尊厳」であること再認識し、そのための具体的なとりくみ課題を学習し、これからの地域福祉運動の実践方向を確認し合い、部落解放運動の再生・改革をめざしていく場として中央福祉学校を位置づけている。ここでの成果を、地域教育運動・地域就労支援運動・地域経済活性化運動との一体化したとりくみとして結合させ、人権のまちづくり運動の内実化をはかっていこう。

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