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部落問題資料室
NEWS & 主張
石川さん、ジュネーブで訴える
「アイ・アム・イノセント(私は無罪です)」と
証拠開示の訴えに参加者が注目

「解放新聞」(2008.11.03-2393)

最終見解は10月29日に
  「アイ・アム・イノセント(私は無実です)」――。10月15日、スイスのジュネーブでひらかれた国連自由権規約委員会の意見交換会に出席した石川一雄さんは、証拠開示を委員に訴えたあと、発言の最後に万感の思いを込めてこう叫んだ。
  4番目に発言した石川一雄さんは冒頭、やや緊張した面持ちで、「マイネーム・イズ・カズオ・イシカワ」と英語で自己紹介し、その後、日本語でつぎのように語った。
  「私、石川一雄は、1963年におきた狭山事件で、被差別部落にたいする予断と偏見にもとづいて犯人とされ、無実でありながら32年間の獄中生活を強いられました」「事件発生から45年過ぎた今も、無実を訴え続けています」
  石川さんの訴えは、通訳をとおして各委員に伝えられた。狭山事件の石川一雄の存在は、日本から参加したNGOはもちろん、規約人権委員会の委員のあいだでも知られているとみえて、会場の出席者は顔を上げて石川さんに注目した。
  テレビ局のスタッフもカメラを廻した。石川さんの隣には、早智子さんが心配そうな面持ちで座っている。

積み上げれば2~3メートルに
  会場内が注視するなかで石川さんは、発言を続けた。「私の裁判では、開示されていない証拠物件が、積み上げれば2~3メートルあることを認めていながら、検察庁はまだ開示していません」「私も69歳になりました。なんとしても生きているあ
いだに無実の罪を晴らしたいと、必死に訴え続けております」「委員の皆様に公正・公平な裁判はもとより、日本政府にたいして証拠開示するよう働きかけて頂きたいので、私、石川一雄が直接お願いに参りました」とのべ、最後に「アイ・アム・イノセント」と結んだ。
  審査結果については、10月29日に「最終見解」として発表される予定だが、国連自由権規約委員会がどのような見解を示すかが注目される。

国連で日本政府が
改善を約束せず

1回限りのパスポート
  国連の規約人権委員会は、ちょうど10年前の1998年11月にも「公正な裁判を実現するために、証拠開示するべきだ」という勧告を日本政府におこなった。しかし、日本政府と裁判所は10年間、国連の勧告を無視・抹殺し、いまもって証拠を開示していない。
  そこで今回、石川一雄さん本人が出席して訴えることになった。石川さんにとってもちろん国外渡航は初めてである。国連訪問については、石川さんが仮釈放の立場であるために国外渡航の許可がおりるかどうか心配されたが、1回限りのパスポートが発行されることになり、直前になって訪問がやっと実現した。
  今回は石川一雄さん、早智子さんのほかに部落解放同盟中央本部から、わたし(片岡明幸・中執、狭山闘争本部事務局長)が、通訳としてIMADRの小笠原純恵さんが同行した。

NGOが実態報告
  国連自由権規約委員会は、自由権規約(正式には「市民的及び政治的権利に関する国際規約」)を批准した政府が規約を遵守しているどうかを定期的に審査する機関である。本来は5年ごとに審査をおこなうのだが、日本政府が報告書の提出を延ばしに延ばしたため、10年目の審査となった。
  ところで規約委員会は、審査をおこなうにあたって、規約が守られているかどうか、当該国のNGOや人権団体から事前に意見を聴取する機会をつくることが慣例になっている。石川さんは、その意見交換会で発言したのだ。意見交換会には、日弁連やアムネスティ日本支部、IMADRなどの団体のほかNGOや人権団体から30。団体、50人が出席し、それぞれの立場で日本の人権状況の実態を訴えた。えん罪関係でも、石川さんのほかに昨年再審開始が決定した布川事件や沖田痴漢えん罪国倍訴訟などの当事者も出席し、こもごもに日本政府の人権規約違反を厳しく非難した。
  意見交換会は参加NGOが多いために2日間にわけてひらかれたが、日弁連やアムネスティ日本支部、IMADRなどが第1日目に発言し、2日目は石川一雄さんほかえん罪事件の当事者が発言した。

不誠実な答弁くり返した政府代表
  NGOとの意見交換会をふまえ、10月15、16日にひらかれた日本政府報告書審査会には、法務省や警察庁、外務省、厚生労働省、文部科学省など関係省庁から25人の政府代表が出席した。
  審査会の冒頭、日本政府を代表して上田ジュネーブ国連大使が報告した。大使は、ハンセン病差別撤廃や刑務所収容者の待遇改善などを事例にあげて、日本政府が人権規約を守るためにこの10年間、いかに努力を重ねてきたのか、とうとう
とまくし立てた。
  参加していた日本のNGOは、皆あきれはてた顔で大使の誇大報告を聞かざるをえなかった。
  大使は、人権救済機関についてもふれ、法案を提出したが衆議院解散で廃案になったと説明、政府からの独立した人権機構を提案したいとのべた。また、男女共同参画社会実現のとりくみやDV被害者の自立支援などにとりくんでいると自画自賛した。
  狭山事件との関連では、代用監獄制度にたいして2006年に制度改正し、捜査と留置を分離したと報告したが、これにはさすがに会場から失笑がわき起こり、委員長が日本からの参加者に注意を促す場面もあった。証拠開示については、2004年に法改正して、証拠開示の範囲を拡大した」とのべた。私は、思わず「どこの国の話なのだ」と独り言をつぶやいてしまった。
  日本政府代表の報告が終わると、今度は日本政府にたいして人権委員会の各委員から質問が続いた。委員の質問は、男女平等や死刑制度、アイヌや沖縄などマイノリティの問題など多方面にわたったが、なかでも取り調べの可視化や代用監
獄制度、自白偏重などえん罪に絡む問題にかなりの質問が集中し、日本政府代表団に厳しい指摘がおこなわれた。
  しかし、2日間を通じて法務省や警察庁の代表は不誠実な答弁をくりかえし、とうとう改善を約束しないまま審査会は閉会となった。(文・片岡明幸〈中央執行委員〉)


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