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狭山弁護団は昨年5月、8月に新証拠を提出した。殺害方法、逆さづりについての自白が真実ではなく寺尾判決が誤っていることを明らかにした赤根鑑定、犯行現場の虚偽を示すN実験報告書、筆跡が違うとした魚住鑑定、目撃証言に信用性がないことを指摘した原鑑定、犯人の声についての証言が信用できないとする厳島鑑定などである。
弁護団は9月に東京高裁の門野博・裁判長に面会し、事実調べ、証拠開示を強く求めた。
筆跡や目撃証言、犯人の声についての証言など確定判決(寺尾判決)が有罪証拠としてあげたものに合理的疑いが生じていることが専門家の鑑定によって明らかになっている。また、殺害方法や死体を芋穴に隠したといった自白の核心部分が虚偽であることが新証拠によって明らかになっている。にもかかわらず、狭山事件では34年以上も事実調べがおこなわれていないのである。
門野裁判長が新証拠の事実調べ、鑑定人尋問をおこなうよう強く求めたい。
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昨年10月、国連の自由権規約人権委員会は、国際人権規約にもとづいて日本政府が提出した報告書の審査をおこなった。
この審査にあたって、狭山事件の真相とえん罪が作られる日本の司法の問題点を訴えるため、石川一雄さんがジュネーブを訪問、日本のNGOと委員との意見交換の場で訴えた。石川さんは会合で、狭山事件での代用監獄での取り調べや自白強要、そして検察官の証拠不開示を訴え、最後に「アイ・アム・イノセント(私は無実です)」としめくくった。多くの日本のNGOから委員にたいして日本での人権状況の遅れ、差別・人権侵害の実態が訴えられた。
委員会は審査の結果、人権に関わる多くの改善勧告を日本政府におこなった。その勧告のなかには、代用監獄の廃止、取り調べの可視化、死刑制度の廃止などとともに、弁護側が警察のすべての記録の開示を受けられるよう保障することもふくまれている。10年前の自由権規約委員会の勧告にも、一昨年5月の国連・拷問禁止委員会の勧告にも証拠開示の保障があげられており、国連は日本政府にたいして弁護側への証拠開示の保障をくりかえし勧告していることになる。とくに裁判員制度を前に、日本政府は国連の再三の勧告にしたがって、弁護側へ証拠開示を保障する具体的な制度改革をすすめるべきである。
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ことし5月21日から裁判員制度が開始される予定である。しかし、多くの国民が裁判員の辞退を申請したり、制度への不安をもっていることも明らかになっている。一昨年には、志布志事件や氷見事件などのえん罪事件・誤判事件が多く明らかになり、市民のなかに、日本にはえん罪が多いという現実、こうしたえん罪を作り出してはいけない、加担したくないという意識も生まれている。一方、裁判員制度を前にして、えん罪を生まないための司法改革の必要性も訴えられている。民主党が提案した取り調べの全面的な可視化と証拠リストの弁護側への開示をもりこんだ刑訴法改正案(取り調べ可視化法案)は昨年6月、参議院では可決された。取り調べの可視化、代用監獄の廃止、証拠開示の保障は国連からも再三、勧告されている。
狭山事件で45年前に石川さんがえん罪におとしいれられた経過をたどっていくと、予断をもった捜査、密室での取り調べ、ウソの白白の作られ方、証拠隠し、自白依存の裁判など、志布志事件、氷見事件など、ほかのえん罪と共通している。
裁判員制度がはじまろうとしている今年、第3次再審請求での弁護側の訴え、無実の証拠とともに、えん罪・狭山事件がつくられた構造、氷見事件や志布志事件などとの共通性、えん罪を生まない裁判員制度のための司法改革の必要性、取り調べの可視化、証拠開示の保障をあわせて考え、訴えていくことが重要である。
この2月には岩手県での狭山市民集会がはじめてひらかれる。署名運動の広がり、この間の北海道、東北での狭山集会の開催などを発展させ、市民の声をさらに大きくし、第3次の闘いで再審実現と司法民主化をかちとろう。
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