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「誰でも戸籍謄本等の交付請求ができる」という従来の戸籍公開原則が改められた(2008年5月1日法律施行)。1976年の戸籍法改正から本当に長い道のりであった。
公開原則のもとで、結婚にさいして戸籍情報が当然のように交換され、結婚差別を多発させていた事態に、76年改正が一石を投じたことは事実である。しかし、「公開を原則としながらの制限」で、実質的には戸籍謄本などの不正請求を止めることはできなかった。
戸籍謄本などの交付請求を制限し、行政窓口で取得しにくくなった結果、被差別部落の地名と名字を記載した「部落地名総鑑」が販売され、企業がこぞって購入する事件が起きた。「部落地名総鑑」が問題にされると、今度は、弁護士・司法書士・行政書士など8業士は例外あつかいされ、「職務上請求用紙」の使用日的欄に「相続」などと記載すれば簡単に戸籍謄本を取得できたため、8業士に依頼することが増えた。行政書士などが使用目的を偽って戸籍謄本などを不正に取得する事件が多発する。興信所や探偵社が結婚調査を依頼され、8業士を使って、戸籍謄本を大量に取得する事件も起きる。
規制が厳しくなればなるほど、戸籍謄本不正取得のブローカーが暗躍することにもなった。
このようななかで、不動産会社が被差別部落かどうかを同和対策室に問い合わせたり、会社が採用面接で出身地を再三質問する。差別ハガキや封書を送りつけたり、インターネット上に「電子版・部落地名総鑑」が登場し、画像が掲載される事件も起きた。
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こうした事件は、「被差別部落であること」を特定して差別する「出生による差別」が依然として横行していることを物語っている。人は自分の出生を選択できない。どのような形で生まれてこようとも、出生については差別されることなく、平等にあつかわれるべきだとして、国際人権諸条約は「出生による差別」を厳しく禁止している。これは「個人として尊重される」「いかなる属性によっても差別されない」とする憲法原則でもある。
戸籍制度は、出生による差別を生み出す情報を公開原則のもとで提供してきた。今回の改正は差別を生み出す戸籍情報の収集・提供をやめるのではなく、公開原則のもとでの提供を制限する法改正である。
行政が第三者に戸籍情報を提供する場合、戸籍情報が不正に使用されないための厳格な保護を求めている。本人確認(写真付)や取得する要件(使用目的の詳細)・手続きを厳しくした。しかし、「個人情報保護法」のもとで、個人情報を満載した戸籍情報が例外あつかいとされたことへの懸念が残る。それは、個人情報保護の原則である、取得するさいの「本人の同意」や「本人の情報は本人が管理する」原則が確立されていないからだ。個人情報保護ができない場合は原則収集禁止である。収集しなければ、漏れないからである。
会社などの求めで本人が交付請求する場合は、無制限に戸籍情報が提供される可能性がある。市民は安易に個人情報を収集・提供しないなど、個人情報に関する管理意識を高めることも求められる。とくに戸籍謄本は全部コピーで、不必要な情報も提供されてしまう。記載事項のみの証明の発行にとどめ、不必要な情報は提供しない工夫も必要だ。
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「出生による差別」禁止は、血統主義を重視する文化的慣習を克服することでもある。
血統主義を中心にした戸籍制度は、その制度の撤廃を前提にしながら、世帯登録から個人を重視する一人戸籍への制度転換が求められ、出生による差別を生み出す情報は収集しないなどの検討がなされるべきではないか。こうしたプロセスをへながら、戸籍の撤廃への道筋を明らかにしていくことは、すべての人は個人として尊重される人権文化の創造でもある。
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