「いのちと生活を守る」闘いを部落解放運動の日常活動として根幹にすえ、活動家は地域での生活実態を把握し、困難を生み出す背景や課題を明らかにし、問題解決のために、同じ困難を抱えるすべての人びととの協働のとりくみを展開しよう。「排除・忌避」「生活苦」との闘いをあらためて日常活動とし、実践しよう。これらの闘いの延長線上に「人権の法制度確立」や「人権のまちづくり運動」を具体化するため、地域からの実践を押しすすめよう。
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ある地域で「学区内の8人の就学援助家庭のうち、4人が部落の子だ。そこの地区は30戸足らずの部落であり、大変な受給率になっている。部落の子の親たちは、土木業従事だが、このところ仕事もないから草刈などの日銭で糊口をしのいでいる状態だ」と深刻な訴えを聞いた。また、他の地域では、「生活保護世帯の多重債務者が増加しており、個個の対応に頭を悩ましている」との声もある。さらに、「親の減給や失業で子どもの就学が困難になっており、中途退学の相談が増えている」とか、「青年の仕事がなく、就労の場を何とか確保したいとの思いで苦労している」「仕事がなくなり生活苦による自死者が出てしまった」などの話が、全国のあちこちで聞かれるようになってきている。
格差社会と昨秋からの国際的な経済危機のもとで、雇用不安と社会保障制度の後退により部落の生活実能ぼ確実に苦しい状況が深刻化してきている。現時点での部落解放運動の最大の任務は、部落の仲間の「いのちと生活」を徹底的に守ることであり、そのとりくみを同じような困難を抱えるすべての人たちの「いのちと生活」を守るとりくみへとつなげていくことである。
そのために、部落解放同盟の活動家は、真剣にそれぞれの地域での生活実態の把握をおこない、困難を生み出している背景や課題を正確に把握し、問題解決への徹底的な協働のとりくみを展開することである。
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実態把握とは行政調査や統計調査のことだけではない。行政調査の実施要求や隣保館活動の調査・研究事業の活用による実態把握もさることながら、まず部落解放同盟自身による実態把握を目的意識的におこなっていくことである。
私たちの実態把握の方法は、多様である。各支部・各地域での伝聞情報や相談活動、さらにアンケート調査や聞き取り調査などから、困っている人、もっとも困難をかかえた人の実能をしっかりとつかみ、けっして個人的な問題に矮小化せずに、その社会的背景を分析し、困難な状態から脱却する手だてをさぐることである。
この「いのちと生活を守る」闘いを部落解放運動の日常活動として根幹にすえなければならない。部落解放運動再生と社会的信頼回復の道をそこに見出すことが肝要である。仕事・教育・福祉などの分野で具体的に活動課題を発掘することである。
この闘いの教訓は、戦前の部落委員会活動のなかに存在している。1930年代の世界大恐慌と戦争体制に突きすすむ「治安維持法」下で運動的・組織的に壊滅状態にあった水平社を、戦前の最大規模の運動と組織に再生・回復させたのは、部落の仲間の生活課題を真正面にすえ、問題解決への世話役活動に徹した部落委員会活動であった。
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各級機関のすべての幹部・活動家は、事務所のなかに閉じこもることなく、地域のなかを歩きまわろう。組織の内外を問わず地域の人と世間話をしよう。さらに、地域の内外を問わず同じような困難を抱えた人たちの生活状態に強い関心をもってつながりを深めよう。
差別・格差・貧困を克服するための日常活動の課題は、そのようなとりくみのなかからみえてくる。組織内外の困難を抱えた人たちの要求を大切にしながら、社会的な要求として実現するために部落解放同盟は奮闘しなければならない。
すでに各地でそのようなとりくみがはじまっている。自分たちの力で、仲間の「いのちと生活を守る」ために、共済制度を活用したとりくみや介護保険の自己負担が困難な人を互助組合で守っていくとりくみをしているところがある。これらは、以前あちこちの地域で組織されていた頼母子講(無尽講)の現代版である。また、若者の就労の場をつくり出すためにワサビ栽培の技術指導をはじめた地域、NPO法人や社会福祉法人などで地域内公的施設の事業委託を受けながら雇用確保を広げている地域、地域の特産物を他地域の仲間と連携して産直販売している地域などなどである。これらのとりくみは、地域特性を活かした自己雇用(自分たちの力で雇用の場をつくり出す)の試みである。
困難に直面しても自らが真剣に知恵を出し合い、みんなの力で問題解決への粘り強いとりくみを継続すれば、公的支援の活用もふくめて問題解決への道は拓けてくる。これを、部落解放同盟は、自助・共助・公助の姿勢にもとづく要求闘争と位置づけ、行政闘争の再構築へのスタンスとしている。
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私たちは、部落差別の異体的な現象を「排除・忌避」および「生活苦」として捉えておかなければならない。このことにたいする闘いが、部落解放運動であり、日常活動の基本に位置づけられることが大事である。「人権の核心は、人間の尊厳と生存権」であると強調しているのも、この意味である。
したがって、「いのちと生活を守る」課題を日常活動として再構築するとともに、「排除・忌避」にたいするとりくみを強化することが重要である。格差社会の進行や経済危機のもとで社会不安が増大し、顔が見えない陰湿で巧妙な差別が横行していることに強い警戒をしなければならない。就職差別、結婚差別、土地差別、インターネット上での差別が、私たちの知らないところで大きく鎌首をもたげてきている。統一応募用紙を形骸化する公正採用選考違反事例が急増し、官民の結婚相談所事業で登録用紙に差別記載事項がまかりとおり、家屋購入時に差別問い合わせや、それを公然の秘密のように是認している不動産業界や建設業界の差別マニュアルが存在しているといわれ、インターネット上では匿名性を悪用して差別書き込みが氾濫している。
部落解放運動は、部落差別にもとづく「排除・忌避」と闘い、「生活苦」と闘うことをあらためて日常活動として再編強化することを当面の最重要課題と実践化しなければならない。これらの日常的なとりくみの延長線上に、「人権の法制度確立」や「人権のまちづくり運動」の戦略課題が具体化してくるのであって、けっしてその逆ではないことを1人ひとりの同盟員が肝に銘じて、地域からの実践を押しすすめよう。
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