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東京高検は高裁の勧告に応じてすみやかに証拠開示を実現せよ

「解放新聞」(2010.02.15-2457)

 2009年12月16日の第2回3者協議で、東京高裁・門野博裁判長は東京高検の検察官にたいして、証拠開示の勧告をおこなった。
  9月15日の3者協議で、東京高裁は検察官に証拠開示についての意見を10月末までに提出するよう求めた。東京高検の検察官は、10月30日付けで、殺害現場とされた雑木林の血痕検査報告書については「存在しない」、その他の証拠については開示の必要性はなく、存否を明らかにする必要もないとする意見書を出していた。これにたいして、弁護団は、証拠開示の必要性を明らかにする反論書などを12月9日付けで提出し、開示勧告を強く求めていた。
  今回の開示勧告は、弁護団の主張、石川さん本人の訴えや市民の声、各界の要請を受けとめたものであるとともに、再審請求の証拠開示が必要であること、取り調べメモや調書案などもふくめた幅広い証拠開示が必要であることを示したものと評価できる。

 今回、開示勧告が出されたのは、殺害現場の血痕検査にかかわる捜査書類や事件当日、殺害現場に隣接する畑で農作業をおこなっていたOさんに関する捜査書類、石川さんの当時の筆跡に関する資料、石川さんの取り調べ状況の資料(取調べメモ等)など8点である。
  開示を求められた証拠はすべて、再審請求の新証拠になる可能性がある重要なものである。これらの証拠は確定判決のあげた筆跡や自白といった有罪証拠と、それにたいして弁護団が提出した新証拠と関連し、自白の信用性や再審請求の理由を裁判所が判断するために必要なのであるから、東京高検は、高裁の勧告に応じて、すみやかに証拠開示をおこなうべきである。

 開示勧告が出された8つの証拠のうち4項目は、殺害現場にかかわるものである。殺害現場が自宅近くの雑木林であるという、石川さんの自白は6月23日に始まるが、警察による殺害現場の実況見分調書は7月4日付け、同月8日付けのものしか明らかにされていない。新聞報道では、「(6月)27日朝から自供にもとづいて殺害現場、死体発見現場を中心とした実地検証をおこなった」などと報じられており、警察が、事件の核心ともいうべき殺害現場について、これ以外に何ら裏付けをとらなかったとは考えられない。また、7月4日の実況見分調書には、自白で死体を一時隠したという芋穴について、ルミノール反応検査をおこなったと書かれている。被害者の死体の後頭部には傷があり出血があったと考えられたのであるから、現場の血痕を調べるのは当然であろう。第2現場ともいうべき芋穴について血痕検査をおこないながら、第1現場である殺害現場に関してルミノール反応検査報告書などの捜査書類がないことは考えられない。今回、裁判所は殺害現場の血痕検査に関わる捜査書類の開示を勧告するとともに、これらの証拠が存在しないとするなら、納得のいく説明を求めた。検察官はすみやかに回答すべきである。
  また、殺害現場とされるこの雑木林に隣接する畑で、事件当日、農作業をしていた0さんに関する捜査書類や、7月4日の実況見分書に記載されている雑木林内を撮影した8ミリフィルムの開示も勧告された。
  弁護団は、犯行時闇と重なる農作業中に「悲鳴も人影もなかった」という0さんの証言を新証拠として提出しており、0さんの当時の証言や現場と畑が相互に見通しがよかったことを示すこれら証拠の開示は重要である。
  殺害現場は自白の核心部分であり、再審請求の争点である自白が真実かどうかを検討するためにこれらの証拠開示は不可欠である。検察官が証拠を隠し続けることは許されない。
  これらの証拠開示によって、石川さんの自白が不自然・不合理であり、何ら客観的な裏付けのない虚偽自白であることがいっそう明らかになる。東京高裁が、証拠開示をふまえて事実調べをおこなうよう求めたい。

  2007年の志布志事件、氷見事件の無罪判決につづき、昨年は、足利事件で犯人とされ17年半も獄中生活を余儀なくされた管家利和さんの無実が明らかになり、再審が開始された。足利事件では、弁護団の求めたDNA鑑定のやり直しを東京高裁が決めたことで、真実が明らかになった。また、再審開始決定後、当時の管家さんにたいする取り調べを録音したテープが存在することが明らかにされ、証拠開示された。管家さんを虚偽の自白に誘導、追い込んでいく検察官の取り調べが再審公判で再生された。こうした重要な取り調べ録音テープを17年以上も隠していた検察官の責任も重い。
    また、12月には、布川事件の再審開始が確定した。布川事件では、初期の目撃証言や取り調べ録音テープ、毛髪鑑定などの証拠開示が再審のカギとなった。
  再審では、証拠開示と事実調べが重要であり、これらを保障することが必要であることを示している。
  志布志、氷見、足利、布川の各えん罪事件を教訓に、取り調べの全面可視化と証拠開示の保障の法制化を求めよう。すでに、参議院では、可視化法案が2度にわたって可決されている。裁判員裁判が始まっているいま、1日も早く、可視化と証拠開示保障の実現をはじめとする司法の民主的改革が急務である。

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