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足利、布川に続いて狭山事件の再審実現に向け運動の輪をひろげよう

「解放新聞」(2010.12.06-2497)

 2009年12月の東京高裁による証拠開示の勧告から1年になろうとしている。ことし5月の3者協議で、東京高検は36点の証拠を開示したが、「殺害現場とされる雑木林の血痕検査にかかわる捜査報告書等一切」「雑木林を撮影した8ミリフィルム」「未開示の死体写真」については「不見当」として開示しなかった。
  しかし、「8ミリフィルム」は、当時の警察の実況見分報告書に撮影したと書かれ、新聞報道でも「ロケさながら」などと報じられているものである。また、血痕検査報告書も当時の鑑識課貝が実施し、報告書を捜査本部に出したと証言しているものであり、「不見当」(見当たらない)ではすまされない。犯行現場とされる雑木林の見通しがよかったことは隣接する畑にいた0さんの「悲鳴も人影もなかった」という証言をさらに裏付けるし、殺害現場に血痕がないことは、殺害現場の自白が架空である疑いをさらに強くする。
  狭山弁護団は、これにたいして、8月27日付けで意見書を提出し、「不見当」とされた「殺害現場における血痕検査報告書等一切」「8ミリフィルム」等について」どのような書類や捜査関係者を調査して「不見当」としているのかについて、釈明を求めている。また、事件当時の捜査日誌や捜査指揮簿などの関連する証拠の開示も求めている。当然の要求である。
  東京高検は真撃に弁護側の要請を受けとめ、徹底した調査、釈明と証拠開示をおこなうべきである。また、東京高裁は、公正・公平に証拠開示がおこなわれるよう勧告し、徹底的に真相解明につとめるべきである。


 弁護団は、近く東京高裁に新証拠を提出する予定である。これは、昨年12月に開示勧告され、ことし5月に開示された資料にもとづく新たな鑑定書であるという。証拠開示によって、あらたな無実の証拠が発見されたのである。再審請求で証拠開示がいかに重要か、あらためて確認する必要がある。同時に、47年もの間、こうした重要な証拠が検察官によって隠されていたことに強い疑問と怒りを感じる。
  先般の厚労省元局長のえん罪事件では、無罪判決後に証拠のフロッピーディスクを検察官が改ざんしていたことが発覚したが、そもそも、密室での検察官の人権無視の取り調べでウソの自白調書が作られていたことを忘れてはならない。虚偽の自白調書にあわせるかたちで、検察官は証拠の変造をおこなっていたのである。
  虚偽自白の強要と証拠ねつ造というえん罪事件の構図は狭山事件とまったく同じだ。村木さんの無罪判決にいたる裁判でも、証拠開示された捜査報告書が大きなカギになったという。現在、再審公判がおこなわれている布川事件でも、証拠開示と事実調べが再審開始のカギとなった。こうしたえん罪をくりかえさないために、そして、えん罪から無実の人をすみやかに救済するために、取り調べの全面可視化と検察官に証拠開示を義務づける法制度を早急に確立する必要があることは明らかだ。
  とくに、現在、再審請求での証拠開示の制度はまったくない。新証拠の発見を要件とする再審請求の手続きで、弁護側に証拠開示が保障されていないことはきわめて不公平・不公正であろう。
  国連の自由権規約委員会や拷問禁止委員会から日本政府にたいして、取り調べの録音・録画とともに、弁護側への証拠開示の保障がくりかえし勧告されている。いまこそ、可視化と証拠開示をはじめとする司法民主化を実現しよう。

 ことし5月の3者協議で、検察官は、石川さんの取り調べを録音したテープを開示した。しかし、検察官が出してきた取り調べ録音テープは、本件の自白後に、取り調べの一部を録音したものであるという。とうてい取り調べ状況の全体を明らかにしたものとはいえない。
  取り調べ刑事とすれば、いつ自白するかわからないのであるから、取り調べを録音するのなら、通しで録音するはずである。この取り調べテープは、いったん録音されたものを編集したものであると考えざるをえない。では、自白にいたる以前の取り調べは録音されなかったのか、取り調べの一部だけがなぜ残されたのか、当時の石川さんにたいする取り調べに疑問、問題が多いことを示しているといわざるをえない。
  そもそも、石川さんは、1963年5月23日に別件で逮捕され、すぐに女子高校生殺害の取り調べを受けている。警察、検察は否認する石川さんを、勾留の期限が近づいた6月17日にいったん保釈し、留置場から出たところで、警察署内で再逮捕し、今度は川越警察署の分室に1人だけ勾留し、取り調べをさらに続けている。再逮捕後、弁護士との接見を制限し、6月21日から25日まではまったく接見を禁止している。その間に犯行を認める自白がはじまっているのだ。取り調べでは終始、手錠をかけたままだったという。このような自白の経過をみれば、自白以前の1か月におよぶ取り調べの状況であり、取り調べメモや調書案など自白調書作成前の資料の証拠開示こそ必要である。
  弁護団は意見書で、自白調書が作られる前の取り調べメモや供述調書案などの開示をあらためて求めるとともに、開示された取り調べ録音テープが作成された経緯について明らかにするよう、捜査報告書などの証拠開示を求めている。

 こうした狭山弁護団の意見書、要請書にたいして、東京高検は、12月に予定されている次回の3者協議で、誠実、真摯にこたえるべきである。また、3者協議を主催する東京高裁は、公正・公平な審理を保障し、開示勧告と事実調べを積極的にすすめてもらいたい。石川一雄さん、早智子さんは、証拠開示、事実調べをおこなってほしいと、いままた東京高裁前での宣伝活動をおこなっている。
  徹底した証拠開示と事実調べによる真相解明を求める世論を大きくしていこう。東京高裁、東京高検にたいする要請ハガキ、各団体からの要請書の送付などをすすめよう。
  東京高裁の開示勧告から1年をむかえる12月16日に、東京・日本教育会館で、実行委員会の主催で、狭山事件の再審を求める市民集会がひらかれる。弁護団から、提出される新証拠と第3次再審の現状について報告を受けるとともに、足利事件の管家さん、布川事件の桜井さん、杉山さんからのアピールが予定されている。各地で集会や学習会をひらくなどして、足利、布川につづいて、証拠開示と事実調べを実現し、狭山事件の再審実現に向けて運動の輪をひろげよう。

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