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部落問題資料室
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2010年度の闘いの総括を来年への飛躍の糧にしよう

「解放新聞」(2010.12.20-2499)

 2010年は、日本社会が羅針盤なき航海のように大きく揺れ動いた年であった。日本社会は、いま奥深いところから地殻変動を起こしており、政治・経済・文化などのあらゆる面から変革への胎動を続けているようにみえる。これからの「国のあり方」や「社会のあり方」について、何を基軸にして新たに国や社会を作り上げていくのかというビジョンをめぐって模索している。変革への模索は確実に既定路線化しているが、明確な指針が打ち出されずに揺れ動いているといえる。
  21世紀初頭前後からの新自由主義路線(自己責任論と規制緩和論)にもとづく政治経済の展開によって、貧富の格差拡大と社会の閉塞感が蔓延した。派遣労働者に象徴される不安定就労層が全就労人口の三分の一をこえるというかたちで、日本社会の差別構造の全体化を進行させてきた。
  この社会状況にたいして、昨年8月に歴史的な政権交代というかたちで、国民は変革への選択を意思表示した。国内外の熱い期待を受けて民主党を中心にした連立政権が誕生したが、鳩山内閣、管内闇と続く新たな政権は、迷走を繰り返し変革への国民の期待を実現するにいたらなかった。今年7月の参議院選挙では民主党大敗という事態を招き、今日では危険水域といわれるところまで内閣支持率を大きく低下させてきている。
  私たちが一貫して主張してきたように、「人権・平和・環境」を基軸にした政策展開をぶれることなく推進していくことが、支持率回復への最短の道であり、これからの「国のあり方」や「社会のあり方」を方向づける確かな道であることを改めて強調しておきたい。

 私たちは、今年3月の全国大会で、今年度の最重点課題として3つのとりくみを提起してきた。第1に、第2期松岡参議院選挙闘争のとりくみ、第2に「人権侵害救済法」制定に向けた闘い、第3に狭山第3次再審闘争のとりくみである。
  第2期松岡参議院選挙闘争は、民主党大敗という政治状況もあって、衝撃的な敗北という結果になった。この総括を通じて、あらためて部落解放同盟の現状が深刻な実態にあり、運動や組織のあり方が根本から問われているという現状認識を確認してきた。
  部落解放同盟の各級機関で躊躇なく改革論議を深め、生活課題に密着したとりくみができる運動と組織にするために、地域を重視した部落解放運動再生への道を大胆に推しすすめなければならない。綱領改正のとりくみを含めて、来年3月の全国大会でその方向性を明確にしていく必要がある。
  「人権侵害救済法」制定の闘いは、今年2月の参議院本会議で松岡議員の代表質問にたいして、鳩山総理が「法案の国会への早期提出」を約束する答弁をおこない、6月には法務省政務3役の名前で「新たな人権救済機関の設置について(中間報告)」を公表し検討状況での論点を8点にわたって開示した。さらに、政権与党である民主党内で「人権政策推進議員連盟」が4月に発足し、闇法としての法案検討作業がすすめられており、並行して「21世紀人権政策懇話会」が民主党、国民新党、社民党、公明党、自民党の5党による超党派による議論の場として再編強化されている。
  「ねじれ国会」のもとで政局波乱の要素を多く抱え、国会内外の法制定反対派の動きも活発化してはいるものの、機は熟してきている。来年1月からの第177通常国会での成立をめざす闘いに集中したとりくみを展開し、長年の法制定のとりくみに決着をつけなければならない。
  狭山第3次再審闘争は、昨年の12月に東京高裁による証拠開示の勧告が出されて1年が経過し、12月15日には第5回3者協議がもたれた。この間、今年5月には東京高検は36点の証拠を開示したが、「殺害現場とされる雑木林の血痕検査にかかわる捜査報告書等一切」「雑木林を撮影した8ミリフィルム」「未開示の死体発見写真」については、「不見当」として開示しなかった。殺害現場が雑木林であったとされているのは、石川さんのでっち上げられた「自白」しか存在せず、客観的な証拠による殺害現場の特定ができないとすれば、狭山事件そのものが根本から覆されるものである。その意味で、今回の証拠開示は大きな意味をもっているが、さらに東京高検に証拠開示を迫りながら、東京高裁に事実調べを実現させるとりくみを強化して再審実現・石川無実をかちとっていかなければならない。
  同時に、足利事件や布川事件などにも共通してみられるように、虚偽自白の強要と証拠捏造というえん罪事件の構図を打ち破っていくためにも、「取り調べ可視化法案」の制定や再審請求での証拠開示制度の確立に向けた司法の民主化を実現していくことが喫緊の課題である。

 3大重点課題とともに、今年は、2007年から発覚していた一連の「土地差別調査事件」にたいする粘り強い事実確認を踏まえたうえで糾弾闘争を展開し、現在も継続しているところである。土地差別調査事件は、住宅建設・販売にかかわる土地調査で、多くの不動産会社、広告代理店、調査会社などが、部落や外国籍住民などを排除・忌避するというシステムを長年にわたって作り上げていたことを炉露呈させたものであり、あらためて日本社会の羞別的構造や意識の根深さを示しており、断じて許すことができないものである。私たちが今日の差別事件の特徴として指摘してきた「顔の見えない巧妙で陰湿な差別事件の横行」という事実を端的に示す差別事件である。関係会社の糾弾はいうにおよばず、.業界にたいする監督指導責任のある政府・行政の責任と姿勢を厳しく追及していく必要がある。
  差別構造の全体化という今日の日本社会にあって、巧妙・陰湿化する部落差別にたいする糾弾闘争を強化し、人権・平和・環境を基軸とする社会への変革を推しすすめていくことがいまこそ大事である。

 2010年は、日本社会全体も揺れ動き、部落解放運動にとっても試練の年であった。そのようななかにあって、9月に松本龍・副委員長が環境大臣に就任したことは大きな朗報であったし、11月に和歌山でも敗れはしたが私たちの仲間が知事選に打って出たことは大きな励みになった。来年の統一自治体選挙に向けて多くの組織内候補がすでに活動を開始しているが、参議院選挙の敗北をのりこえて私たちが政治に求めるものは何かということを強く訴えていく必要がある。
  各地域での「人権のまちづくり」運動でも、拠点施設としての隣保館活動にたいして、11月2日の交渉で厚労省は「地域とは地区指定の有無にかかわらず部落差別を受けていた地域」と明言し、人権と福祉のまちづくりの砦として活用することを奨励した。
  栃木などでは、「フードバンク」設立に向けた準備がすすんでいることが報告(11月22日付解放新聞)されるなど、各地で多様な「人権のまちづくり」がとりくまれている。厳しい状況のなかでも、新潟の仲間が一丸となって第44回全研を成功させてくれたこともうれしい出来事であった。
  部落解放運動を取り巻く状況はけっして生易しいものではないが、困難な要因のなかにこそ、これからの活路を切りひらくヒントと課題も存在しているのだということをしっかりと見据えて、2010年の闘いの総括を、来年からの部落解放運動の飛躍への糧としていこう。

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