「解放新聞」(2011.04.18-2515)
大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例の改正
土地差別調査を規制
大阪府連の見解(前文)
はじめに
「『大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例』の一部を改正する条例」(以下「改正条例」という)が3月15日、大阪府議会において可決・成立した。2007年に発覚した土地差別調査事件を受けて府運との政策懇談で橋下知事が検討を約束していたもので、この条例改正によって土地差別調査の「違法性」が明確となり、土地差別調査の撤廃に向けて大きな一歩を踏み出すことになる。
条例改正の内容
改正条例では第一条(目的)の中に「個人及び土地に関する事項の」を挿入し、これらの調査、報告等の行為の規制を目的にすることも加え、第二条(定義)四に「土地調査等」を「府の区域内の土地の取引に関連して事業者が自己の営業のために土地に関する事項を調査し、又は報告することをいう」と定義した。
さらに「第三章 土地調査等」を設け、第十二条(遵守事項)で「土地調査等を行う者」に「一調査又は報告の対象となる土地及びその周辺の地域に同和地区があるかないかについて調査し、又は報告しないこと」「二 同和地区の所在地の一覧表等の提供及び特定の場所又は地域が同和地区にあることの教示をしないこと」を遵守事項として義務付け、「2 土地調査等を行う者は、その営業に関し従業者に前項各号に掲げる事項を遵守させるため必要な指導及び監督を行わなければならない」と定めた。
以上の遵守事項を守らせるために、第十三条(指導及び助言)で「必要な指導及び助言をすることができる」ことを規定し、第十四条(報告の徴収)では「必要な事項の報告文は資料の提出を求めることができる」ことを明記した。
また、第十五条(勧告)で第十二条第1項の規定に違反したとき知事は「当該者に対し、当該違反に係る行為を中止し、その他必要な措置を講ずべきことを勧告することができる」と定め、第十六条(事実の公表)で「知事は土地調査等を行う者が第十四条の規定による要求に正当な理由なく応じなかったとき、又は前条の規定による勧告に従わなかったときは、その事実を公表することができる」と明記した。
勧告・事実の公表で抑止
改正条例は、土地差別調査をなくすために「啓発」を推進し、「指導・助言」を行い、それでも違反した者には「勧告」し、それらの勧告に従わなかった者に対して「事実の公表」を一定の条件のもとで進めていくことになっている。
これまでの条例は、差別身元調査と「部落地名総鑑」を規制するために「啓発」を行い、調査業界団体に「自主規制」を行わせ、それでも違反した者に対して指示等の「行政指導」を展開し、その行政指導に従わなかった者に営業停止等の「行政規制」を加え、それに従わなかった者に「行政罰」を与えるというものであった。
改正条例は、「行政規制」や「行政罰」という手段ではなく、行政指導としての「勧告」と「事実の公表」で条例目的を達成しようとするものである。ある面では行政刑罰で担保された差別身元調査や「部落地名総鑑」を規制する元々の規制条例の方が強力だと解釈されるが、現実的には「事実の公表」も関係業者にとって大きな抑止力になる。
条例改正の意義
この改正条例の意義はまず第一に土地差別調査の「違法性」を明確にした点である。
宅地建物取引業法(三十五条)は宅地建物取引主任者が不動産取引に関わる重要事項の説明を義務づけている。
その重要事項とは「建築基準法や地域の条例などに基づく使用上の制限や取引条件といった項目にとどまらず、その不動産の取引を判断するのに影響を与える事項」とされている。宅建主任者の中には被差別部落の所在地情報が「重要事項」に含まれると解釈していた人々も少なからずおり、こうした人々に対してその違法性を明確にしたことによって土地差別調査の抑止につながる。
第二に土地差別調査事件の解明にも大きな意義をもつ。
倫理的・社会的に許されない問題としてだけではなく、法的に許されないことを明確にしたことによって、事件解明に大きく貢献できる。現在明らかになっている関係業者以外にも多くの業者が土地差別調査と関連を持っていたことは、これまでの事件調査からも明白である。事件の背景・原因分析やそれらにもとづく課題の明確化が一層進めやすくなったことになる。
第三に土地差別調査根絶や部落差別撤廃に向けた啓発の大きな推進力になることである。
被差別部落やその校区への忌避意識を根強く持つ多くの市民への啓発に積極的な効果を期待でき、被差別部落や被差別部落を含む校区への忌避意識を克服するために積極的な影響力を与える点である。
第四に条例対象を調査業界に限定した元の条例と違って、「土地調査等」を「自己の営業のために」行う全ての「事業者」が対象になっていることによって、多くの業界に影響を与えることができる点である。
これは改正条例の影響が広範囲に及ぶということであり、関係業界の土地差別調査撤廃をはじめとした部落差別撤廃に向けた取り組みを促進させることにつながる。
第五に部落差別以外の多くの土地差別撤廃に積極的な影響を与えることである。土地差別調査事件においても部落差別以外の差別的な記述も含まれており、これらの差別撤廃にも一定の貢献ができる。
第六に国や全国の地方自治体に、差別撤廃にむけた積極的な影響を与えることができる点である。
土地差別調査は大阪府にだけ存在するものではない。本来は国の法律において規制されるべきものである。
この条例改正を踏まえて、宅地建物取引業法等の法改正に結びつける必要がある。
幅広い普及・啓発に向けて
1985年3月20日に元の条例が制定されて今年3月で26年目となる。
この条例が結婚や就職における部落差別調査の撤廃に大きな役割を果たしたように、改正条例も土地差別調査撤廃に重要な役割を果たすことは間違いない。まずは、条例による土地差別行為の抑止力を最大限発揮するための大阪府、市町村、企業、業界、市民運動団体による啓発運動が求められる。事業者や業界の積極的な自主規制や宅地建物取引業人権推進指導員制度のさらなる広がりを期待したい。
また、この条例改正をきっかけに不動産売買におけるあらゆる差別撤廃に取り組むことが重要である。とりわけ、大阪府の住宅マスタープランの目標に掲げられている住居差別の解消の取り組みを広げていくことである。
さらにインターネット上での同和地区の所在地情報の流布問題など土地差別問題に対する差別禁止法の制定など抜本的な国の対応を求めていく必要がある。
改正条例は、部落差別にもとづく土地差別がこの社会に存在していることを明確に認めた。ならば大阪府はその実態を徹底して明らかにし、差別の実態を改善するべきである。
不動産購入は多くの人々にとって、人生の中で最も高額な買い物であり、生活の場所を決める重要事項である。その重大な節目に関係業界によって土地差別調査が秘密裏に行われてきた。この改正条例によってそうした土地差別調査の撤廃が大きく前進する。改正条例の意義を幅広く普及し啓発していくことが求められている。
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