「解放新聞」(2011.08.01-2529)
会場中央の舞台には船。舞台下には、三番叟や箱廻しの人形が置かれ、あたりを圧倒する。最前列には7、8人の子どもたちが興味しんしんの眼差しで居並ぶ。会顧問の辻本一英さんが軽妙な徳島弁で被災者の気持ちを和らげる。「この地方には門付けがきましたか」と聞くと「獅子舞いは来たが箱廻しのようなもの来なかった」「鋳掛け屋は来た」と年配者。鍋釜修理の行商人など大道に生きた人たちの姿も存在もすでに年配者の記憶の彼方に追いやられている。
しだいに演者と観客の距離が縮まっていった会場に、中内さんが腹に響く祝詞を唱える。ホールはきりりとした空気につつまれ、会場は静まりかえった。数かずの演目の見せ場だけの披露となったが、初めて見る人形(ひとがた)は命を与えられ宙を舞い、犠牲者の鎮魂と被災者の無病息災を祈る。恵比寿は海の怒りを鎮め、豊穣の海の蘇りを約束し、その証に大きなタイを釣りあげて見せた。
立ち直りの心を強めて
最後に中内さんは、恵比寿を手に被災者を祝福してまわった。みんな頭を垂れ福を受ける。誰にでも宿っている生きる力を人びとの奥底から引き出す人形たち。この呪術的世界は箱廻しならではのものだろう。「少しでも立ち直りの心を強めてほしい」と互いに復興への気持ちを新たにしたつかの間だった。
今回の活動について辻本さんは、被災地訪問は「福島に住む友人や同郷の石川早智子さんなど人とのつながりで実現した。箱廻しを見ることで少しでも被災者を勇気づけ復興への力となれば」と語った。
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