pagetop
部落問題資料室
NEWS & 主張
主張

 

公平・公正な証拠開示の法制化を求める世論を大きくしよう

「解放新聞」(2011.08.01-2529)

 7月13日、狭山事件第3次再審請求の7回目の3者協議が東京高裁でおこなわれた。今年5月に交代した小川正持裁判長、同じく交代した担当検察官と弁護団の10人の弁護人らが出席した。
  弁護団は、3月の第6回3者協議で出された検察官の意見書にたいする反論書を5月18日に提出していた。
  「雑木林のルミノール反応検査は実施されなかった可能性がある」「ルミノール反応検査報告書は不見当」とする検察官の回答にたいして、弁護団は、3月に開示された元鑑識課貝にたいする検察官の聞き取り報告書などにもとづいて反論し、雑木林でのルミノール反応検査報告書の開示をあらためて求めるとともに、血痕検査などの捜査経過を明らかにするべきだとして、捜査指揮簿、庶務日誌などの開示も求めていた。
  弁護団はまた、2月、3月、5月に開示勧告申立書を提出し、死体を埋めるために使われたとされ有罪証拠のひとつとなっているスコップと被害者の自転車(脅迫状を届けるときに乗っていったとされる)の指紋検査の報告書などの証拠開示も求めていた。
  しかし、東京高検の検察官は、第7回3者協議で、これらの証拠の開示の必要性はないという意見書を裁判所に提出し、証拠開示に応じなかったという。
  こうした検察官の意見にたいして、弁護団は、3者協議の場でも、2009年に東京高裁が開示勧告をおこなって以降の協議の積み重ねを反故にするものであるとして、きびしく検察官を批判し、東京高裁の小川裁判長も、これまでの流れをふまえて再検討するよう検察官に促したという。当然であろう。
-検察官の証拠開示に応じようとしない姿勢はきわめて不誠実で問題である。弁護団は、証拠の存在する根拠とともに、開示の必要性、新証拠との関連性を示して、証拠開示を請求している。検察官は、開示の必要性はないとする意見書を2009年10月末にも提出したが、東京高裁は同年12月に、検察官に8項目にわたる開示勧告をおこなっているのである。
  弁護団は、9月に予定されている次回の3者協議に向けて、検察官にたいする反論書を提出し、証拠開示を強く求めていくことにしている。検察官が、裁判所の開示勧告の趣旨にしたがい、弁護団の証拠開示請求に誠実、公正にこたえるよう強く求めたい。

 弁護団は、この日の3者協議で再審請求補充書を提出した。補充書は、証拠開示された上申書を含む石川さんの筆跡(ひらがな文字)と脅迫状を比較し、同一人が書いたとはいえないとした小野瀬鑑定の意義を明らかにし、事実調べ、再審開始を求めた。小野瀬鑑定人は書字技能の発達の専門家であり、当時の石川さんが逮捕後、文字を書く機会、経験の蓄積によって、書字技能を発達させており、石川さんと脅迫状の筆者とは別人であると鑑定している。石川さんが後に書いた手紙などを根拠に脅迫状を書けたとする棄却決定の誤りも指摘している。
  裁判所の開示勧告によって、昨年、石川さんが逮捕当日(1963年5月23日)に書いた上申書が開示された意味は大きい。脅迫状が作成されたとされる4月末に時期的に近い筆跡であり、逮捕直前の5月21日に書かれた上申書と同じく、当時の石川さんの書字技能の低さを示しているからである。
  東京高裁が、開示された上申書とそれにもとづく筆跡鑑定について、鑑定人尋問などの事実調べをおこなうよう強く求めたい。

 弁護団は、これまでも石川さんの事件当時の筆跡資料の開示を求めていたが、検察官は応じてこなかった。今回開示された上申書のような重要な証拠を隠し続けていた検察官のありかたこそ問題である。
  証拠開示に応じようとしない検察官の姿勢は、狭山事件だけではない。再審で無罪となった布川事件でも、開示された毛髪鑑定や取り調べ録音テープ、目撃証言などが再審開始の大きなカギとなったが、検察官は、当初は開示を拒否する意見書を提出していた。弁護団の粘り強い開示要請と裁判所の勧告によって、30数年たって、やっと証拠開示されたものである。
  布川事件、狭山事件だけでなく、これまでの再審事件の多くの実例がえん罪防止・誤判救済のために証拠開示がいかに重要であるかを示している。
  また、昨年の厚労省元局長のえん罪事件では、検察官が虚偽の自白を強要したうえで、押収した証拠を自白にあわせて改ざんしていたことまで発覚している。
  志布志、氷見、足利、布川事件など、あいついで明らかになったえん罪を教訓とするならば、えん罪・誤判を防ぐために、取り調べの全過程の録音・録画(可視化)と、弁護側への証拠開示の保障が必要であることは明らかだ。
  狭山事件の今回の3者協議で、開示に応じようとしない検察官の姿勢をみるとき、ますます公正な証拠開示の法制化が必要であることを示している。
  取り調べの可視化と証拠リストの開示を検察官に義務づける法律案はすでに参議院で可決された経緯がある。狭山事件での証拠開示を求めるとともに、公正公平な証拠開示の法制化を求める世論を大きくしよう。検察官が公正・公平に証拠を収集・保管し、証拠開示に応じることを義務づける法律の制定を政府、国会に求める請願署名運動を幅広くすすめよう。


「解放新聞」購読の申し込み先
解放新聞社 大阪市港区波除4丁目1-37 TEL 06-6581-8516/FAX 06-6581-8517
定 価:1部 8頁 115円/特別号(年1回 12頁 180円)
年ぎめ:1部(月3回発行)4320円(含特別号/送料別)
送 料: 年 1554円(1部購読の場合)