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証拠開示の請願署名運動を全力をあげて展開していこう

「解放新聞」(2011.09.26-2536)

 弁護団はことし2月、33月、5月に開示勧告申立書を提出し、死体を埋めるために使われたとされ、有罪証拠のひとつとなっているスコップおよび被害者の自転車(脅迫状を届けるときに乗っていったとされる)の指紋検査の報告書、犯行現場とされる場所の血痕検査にかかわる捜査書類などの証拠開示を求めていた。
  しかし、東京高検の検察官は、7月の第7回3者協議で、これらの証拠開示の必要性はないという意見書を裁判所に提出し、証拠開示に応じなかった。
  検察官は、証拠開示の必要性はないとする意見書を2009年10月にも提出したが、東京高裁は同年12月に、検察官に8項目にわたる開示勧告をおこなった。そして、昨年5月に36点の証拠開示がおこなわれ、その後も関連する証拠の開示に少しずつではあるが応じてきた。これまでの協議の積み重ね、流れに逆行するかのような検察官の証拠開示に応じようとしない姿勢はきわめて不誠実で許されない。
  弁護団は、8月9日付けで意見書を提出し、検察官意見書に反論するとともに、スコップおよび自転車の指紋検査報告書などの開示を強く求めている。9月にひらかれる第8回3者協議で、東京高検の検察官が、裁判所の開示勧告の趣旨にしたがい、弁護団の証拠開示請求に誠実、公正にこたえるよう強く求めたい。

 1997年に東京でおきた、いわゆる「東電OL殺人事件」で、検察がおこなったDNA鑑定で、事件現場に落ちていた体毛と被害者の体内に残っていた体液のDNA型が一致したという結果が出て注目されている。この事件では、1審は無罪判決だったが、2審の東京高裁(高木俊夫裁判長)が逆転有罪判決(無期懲役判決)をおこない確定したため、無実を訴えるネパール人のゴビンダさんは2005年に再審請求を申し立てた。そもそも、問題となっている体液の血液型は0型で、B型のゴビンダさんのものではない。逆転有罪判決の核心は、犯行現場のアパートの一室にゴビンダさん以外の人物が被害者を連れ込むことは考えられないという認定であったが、今回のDNA鑑定の結果は、別人が事件現場で被害者と接触したことを示している。有罪判決の核心の認定に疑問が出てきたのであるから、ただちに再審を開始すべきである。
  しかし、東京高検の検察官は、みずからおこなった鑑定の結果を認めるかどうかの態度表明さえせず、一方で、9月にはいって、これまで開示していなかった証拠が42点あり、そのうちの被害者の体に付着していただ液などについてDNA鑑定をおこなう意向を表明しているという。
  開示された、とのだ液の血液型鑑定によれば、被害者の胸などに付着していただ液は0型であり、この鑑定がなされたのは1997年4月で、ゴビンダさんが 強盗殺人で逮捕される前であるという。すなわち、検察は、当初から、ゴビンダさんとは違う血液型のだ液が被害者の体に付着していたことを知りながら明らかにせず、逮捕、起訴していたのである。このような証拠が2審裁判当時に出されていたとしたら逆転有罪判決などという誤判はおきなかったかも知れないではないか。こうした検察による無実の証拠隠しは断じて許されない。ゴビングさんの再審弁護団は、未開示証拠の開示を求めつづけ、DNA鑑定可能なものは実施するということで裁判所も促していたのである。ゴビンダさん犯人説に結びつかない0型の体液やだ液を調べようとせず、隠しっづけた検察官の姿勢は、あまりに不誠実、裁判そのものを愚弄するものといわざるをえない。ゴビンダさんの再審請求での検察の姿勢は狭山事件と共通している。こうした検察のありかたを徹底して批判し、変えなければならない。

 ことし5月に再審無罪判決が出され確定した布川事件でも、現場に別人の毛髪があったことを示す鑑定や別人を見たという目撃証言などを30年以上も検察官は隠していた。それらの証拠開示が再審開始のカギとなったが、桜井さん、杉山さんは44年もえん罪に苦しめられた。1980年代にあいついで再審無罪となった死刑再審事件でも、検察官が隠していた証拠の開示がえん罪を暴くカギとなった。こうした現実の教訓として再審での証拠野不の保証は不可欠である。
  また、昨年、厚労省元局長の村木さんのえん罪事件では、検察官が自白を強要し、さらに、証拠の改ざんがおこなわれていたことが明らかになった。志布志事件、氷見事件、足利事件など、この間あいついでえん罪が明らかになり無罪判決がだされ、密室の取り調べと、検察官による証拠隠しが誤判の原因と指摘されている。
  裁判員裁判で証拠開示手続きが一定拡充され、裁判実務では「無筆の救済(無実の人を誤った裁判から救済する)を目的とする再審でも証拠開示を積極的におこなうべき」という考え方も広がりつつある。しかし、証拠開示をするかどうかは一方、当事者である検察官の裁量に委ねられており、再審請求や国家賠償請求などの裁判では、いまだ十分な証拠開示がおこなわれていないのが現実である。こうした制度の不備が狭山事件やゴビンダさんの再審での検察官の不当な姿勢を許しているといわざるをえない。
  国連の自由権規約委員会、拷問禁止委員会なども、くりかえし日本政府に弁護側への証拠開示を保証する法整備を勧告している。取り調べの全面可視化と証拠リストの開示を検察官に義務づける法律案はすでに2007年と2008年に参議院で可決された経緯がある。いまこそ、えん罪・誤判を防止するための司法改革の一環として、取り調べの全過程の録音・録画(全面可視化)と公正な証拠開示の制度を確立すべきである。
  狭山事件の再審を求める市民の会(代表・庭山菜雄弁護士、事務局長・鎌田慧さん)は、狭山事件をはじめ、えん罪の防止と誤判救済をめざして、取り調べの全面可視化と公正な証拠開示の法制化を政府と国会に求める100万人署名をよぴかけている。
  狭山事件での証拠開示、事実調べを求めるとともに、えん罪・誤判をなくすために、検察官が公正・公平に証拠開示に応じることを義務づける法律の制定を求める請願署名運動を幅広くすすめよう。


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