証拠開示を求める請願署名を全力ですすめよう
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2011年9月28日に、東京高裁第4刑事部の小川裁判長、東京高検の担当検察官と狭山弁護団の弁護人が出席し、狭山事件の第8回3者協議が東京高裁内でおこなわれた。前回の3者協議で、検察官は証拠開示の必要性はないとする意見書を提出し、開示に応じなかったが、小川裁判長も再検討を促し、弁護団は8月9日付けで、あらためて、スコップの指紋検査報告書などの証拠開示を求めていた。
9月28日の第8回3者協議で、検察官は、スコップの指紋検査報告書など弁護団が求めた証拠について「不見当」とする意見書を提出した。
しかし、「不見当」という回答には、市民感覚としても疑問が残る。狭山事件のほかの証拠物では、脅迫状とそれが入っていlた封筒はもちろん、5月24日に雑木林と畑の間の溝から発見された被害者の教科書、ノートも6月21日にカバンの下から見つかった牛乳ビンも指紋検査がおこなわれている。
これらは、いずれも、スコップよりも長い期間、雨ざらしで、しかも、泥土をかぶった溝から見つかったものである。
スコップは麦畑で発見されているが、投棄された状態を考慮しても、スコップだけ指紋検査をおこなわなかったとは考えにくい。もし、当時の捜査本部が、犯人が握って、その指紋が残っている可能性が高いスコップだけ指紋検査をおこなわなかったというのであれば、なぜされなかったのか、捜査自体に疑問が生じるといわねばならない。指紋が検出されなかったので、検察庁に証拠として送られなかったのではないかという疑いさえあるといわねばならない。スコップは確定判決で、石川さんと犯行を結びつける証拠の一つにあげられている。検察官は「不見当」というだけでなく、その理由について説明すべきであろう。
弁護団は、スコップについて、付着していた土壌が死体埋没現場の土壌と類似するとした警察側鑑定にたいする疑問を指摘する科学者の意見書を提出している。スコップには指紋という裏付けがないことが明らかなのであるから、東京高裁は土壌について鑑定人の尋問をおこなうなどして、スコップが状況証拠足り得るのか再検討すべきである。この間の証拠開示と3者協議のやりとりで、結局、殺害現場を裏付けるものが自白以外に何もないことが浮びあがっている。また、有罪判決の認定したストーリー、その根拠となった自白のなかに出てくる証拠物、脅迫状・封筒、自転車、万年筆‥腕時計など、すべて石川さんの指紋がないこともはっきりしてきた。東京高裁は、自白の信用性について、事実調べをおこなうべきである。
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弁護団は、第8回3者協議後すぐに、スコップ関連の資料や「犯行現場」の特定にかかわる捜査資料などの開示勧告申立書を提出し、開示を求めた。第8回3者協議では、弁護団が求めた3物証に関わる証拠開示について、小川裁判長が検察官に検討を促している。次回の三者協議は12月にひらかれるが、これらの証拠が開示されるかどうか重要な局面が続いている。
狭山事件で検察官は「不見当」との回答をくりかえしているが、再審請求で弁護側が新証拠を求めて証拠開示請求をしても、検察官が「不見当」と回答したり、開示の必要性なしとして応じなかったりすることは他の再審事件でも同じ状況である。
鹿児島地裁に再審請求が申し立てられている大崎事件でも、弁護側が求めた証拠を「不見当」としている。名張事件でも、弁護団は当時の関係者の供述調書や捜査記録などの証拠開示を求めているが開示されていない。袴田事件では、昨年来、初めての証拠開示がおこなわれ、弁護団が求めるそのほかの証拠についても、裁判所はあるのかないのか、ないとすればその理由、開示できないならその理由を明らかにするよう検察官に求めているという。裁判所の証拠開示を促す積極的な姿勢が重要であるが、そもそも、新証拠が必要とされる再審請求で、現行の手続きで証拠開示が十分に保障されていないことは再審の理念に反するし、不公平というべきである。
いわゆる「東電OL殺人事件」では、検察が証拠開示をおこない、DNA鑑定をおこなったところ、事件現場にあった体毛や被害者の体に付着していただ液と被害者の体内に残っていた体液のDNA型が一致したという結果が出て、有罪判決を覆す新証拠が明らかになっている。検察官が、これらの重要な証拠をずっと隠していたという事実こそ問題だ。
昨年再審で無罪となった足利事件では、検察官が公判中に管家さんを取り調べた録音テープがずっと隠されていた。再審無罪判決は、このような取り調べを違法と断じた。ことし再審無罪判決が出された布川事件でも取り調べ録音テープや毛髪鑑定、目撃証言などが開示されて再審のカギとなった。再審無罪判決は、取り調べテープは他にないと公判で証言した警察官を偽証と断じている。志布志事件、氷見事件、厚労省元局長事件など、この間、あいついでえん罪事件の無罪判決が出されたが、そのたびに、密室の取り調べと、検察官による証拠隠し、証拠ねつ造がえん罪の原因と指摘されてきた。
しかし、証拠開示をするかどうかは検察官の裁量に委ねられており、再審請求や国家賠償請求などの裁判では、十分な証拠開示がおこなわれていない.のが現実である。こうした制度の不備が狭山事件や他の再審での検察官の不当な証拠不開示の姿勢を許しているといわざるをえない。
国連の自由権規約委員会、拷問禁止委員会も、くりかえし日本政府に弁護側への証拠開示を保障する法整備を勧告している。取り調べの全面可視化と証拠リストの開示を検察官に義務づける法律案はすでに07年と08年に参議院で可決された経緯がある。いまこそ、えん罪・誤判を防止するための司法改革の一環として、取り調べの全過程の録音・録画(全面可視化)と公正な証拠開示の制度を確立すべきである。
狭山事件での証拠開示、事実調べを求めるとともに、すべてのえん罪防止のために、検察官が公正・公平に証拠開示に応じることを義務づける法律の制定を求める運動を幅広くすすめたい。
狭山事件の再審を求める市民集会実行委員会では、12月1日に東京で集会をひらくとともに、多くのえん罪事件とともに、全面可視化と証拠開示の法制化を求める請願署名を国会に提出し、政府にたいする要請行動をおこなうことにしている。全面可視化と公正な証拠開示の法制化を政府、国会に求める100万人署名運動を全力でおしすすめよう。
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