部落差別の語り部として識字作品を発表し続けている広島県連の井上ハツミさん(84)。部落解放文学賞で、たびたび入選をはたしている。著書『私の生まれた日-うたとことば』(解放出版社)のなかの「私の青春」も、第24回識字部門(1998年)で入選している作品だ。今回からマンガで連載するのにあわせ、井上さんの近況をインタビューした。
今年の4月15日から4か月、外科の病院に入院してたという。転倒して背中の骨にひびがはいったためだ。左手首もひねったそうで、まだ腫れが残っているようにみえる。だが、それ以外は、まったく元気そのもの。退院してから、得意の手打ちうどんを2回打ち、近所に配ったそうだ。30食分の分量というから、元気をとりもどした復活ぶりがわかるというものだ。
入院中のことだが、寝たきりで過ごしていると6日目には腰がいたくなった。そんなときに思い出されたのが、小学5年生のとき亡くなった育て親のお母さんのことだった。丸5年にわたって寝たきりだった日びを思い起こすと「おしりが痛かったろうな」。みずからの体験をとおして、親の苦労を追体験した。84歳にしての気づきだった。
また、こんな体験をした。一人の看護師が「解放令がでたとき、部落の人らは家を建ててもらったり、税金を網めんでもすんだ。ええ思いをした」と、どこで見聞きしたのか、まるででたらめな発言をした。これにたいして別の看護師は「解放令がでたとき、仕事も与えず、兵役の義務と税金の義務だけをおわせた」と歴史的な事実は逆なことを説明したうえで「勉強がたらんで」と指摘したそうだ。
こうした話のなかで井上さんの本を家族で読んでる人がいることがわかったり、部落問題に関心を示して本を読みたいといいだす同室の患者さんがいたりで、活きいきした啓発の場が生みだされた。退院後も電話でおしゃべりする交流が続いているという。
識字学級がつぶされて8年になるが、井上さんの思いは、一人でも識字を続けることだ。今年も、退院後、部落解放文学賞に応募して健在ぶりをしめした。
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