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部落問題資料室
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日本の農畜産業を壊滅に追い込むTPPに反対を

「解放新聞」(2011.12.05-2546)

 11月13日、ハワイでひらかれたAPECで野田佳彦・首相はTPP(環太平洋経済連携協定)交渉への参加を表明した。野田首相は「アジア太平洋地域の成長力を取り込む」とメリットを強調したが、中国や韓国、タイ、インドネシア、フィリピンなどが参加しない貿易協定でアジアの成長力を本当に取り込めるのか。野田政権の幹部は「TPPお化け」とか、「大局的判断が必要」とのべているが、TPPに入って得られる国益と、失われる国益がいまだにきちんと国民に説明されていない。
  TPPは貿易自由化の例外を原則として認めず、関税の100%即時撤廃か10年以内の実現を原則にしている。もしTPPに日本が参加するならば、現在日本が関税をかけている5900品目のうちの大多数が無税になる。そうなれば、アメリカやオーストラリアなど農畜産物輸出大国からコメや小麦、牛肉、乳製品などが怒涛のように日本に流れ込む。国内農畜産物は、輸入自由化の荒波に抗すべくもなく裏返していくことになるだろう。

 野田首相は「農業再生との両立」といっているが、農水省は関税がゼロになれば、39%の食料自給率が13%に急落すると試算している。どうしてこれが農業再生になるのか。政府の打ち出した農業再生計画は経営規模を10年で10倍にするという夢のような話だが、たとえ耕作面積が10倍になっても大陸農業のアメリカやオーストラリアに太刀打ちできるわけがない。TPPを「平成の開国」と叫ぶ政治家がいるが、歴代政権はこの半世紀、ちゃくちゃくと自由化をすすめ、輸入を拡大し、農家に大きな打撃を与えてきた。農業はとっくの昔に「開国」されている。部落の農家も例外ではない。輸入農畜産品に押しつぶされ、瀕死状態で悲鳴をあげている。
  ところで農水省は、牛肉は肉質3等級以下が全滅し、5等級のブランド肉が残るにすぎないと試算している。日本の畜産が衰退すれば各地の食肉センターは閉鎖を余儀なくされ、食肉に関連した卸業者、小売業をはじめ、油脂や皮革など部落の関連事業者もつぎつぎに倒産廃業に追い込まれることが予想される。これを黙って見過ごすことはできない。

 TPPのはらむ問題は、農業だけではない。金融や保険、医療、労働など暮らしのあらゆる分野が自由化の対象にされる。
  実際、アメリカは自国の保険会社や医薬品会社に日本の市場を開放することを強く要求しており、「日本の公的医療保険制度や国民皆保険は障害だ」といってはばからない。医療分野でとくに焦点になっているのは、「混合診療」だ。混合診療は公的医療保険がきく診療と保険がきかない診療をあわせたものだが、保険外診療を選択した場合、全体が公的医療保険の対象外になり、全額個人負担しなければならない。患者が窓口で医療費の一部を負担するだけで受診できた公的医療保険は文字どおり解体し、「金がなければ医療が受けられない時代が来る」(日本医師会)ことになる。
  それでもTPPに参加するというのは、亡国政治ではないか。考えてみてほしい。アメリカが日本に儲けさせるために、この協定への参加をすすめるわけがない。TPPは、膨大な政府債務を抱え、リーマンショックいらい、大不況から脱却することができず、9%をこえる高い失業率が続くなかで支持率を急落させているアメリカ大統領が、来年の再選をにらんで、その窮地を脱するために打ち出したアメリカ製品の輸出拡大政策にほかならない。日本の農畜産業を解体へと陥れるTPP参加は到底認められない。


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