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部落問題資料室
NEWS & 主張

 

全国水平社創立90年の闘いに学び部落解放運動を大きく前進させよう

「解放新聞」(2012.02.20-2557)

 1922年3月3日、京都の岡崎公会堂(現・京都会館)での全国水平社創立大会は、まさにそれまできびしい部落差別に泣き寝入りし、苦悩の日びを余儀なくされ、蔑まれてきた全国の部落大衆に大きな勇気と希望を与えるものであった。ここに、部落民自身による自主的な部落解放運動が産声を上げたのである。
  奈良県柏原北方(現・御所市)で活動していた西光万古、阪本清一郎、駒井喜作など全国水平社創立に向けて奮闘した青年たちは、それ以前のさまざまな部落改善事業や融和運動と訣別し、部落民自身の闘いによる自主的な運動の必要性を訴え、全国によびかけたのである。全国水平社創立の大きな意義はここにある。その思想と精神は、創立大会で駒井喜作によって読み上げられた、日本における初の人権宣言として広く知られている「全国水平社創立宣言」に示されている。
  「全国水平社創立宣言」では、部落改善事業や融和運動を「過去半世紀間に種々なる方法と、多くの人々とによってなされた吾等の爲めの運動が、何等の有難い効果を齎らさなかった事實」と総括し、「これ等の人間を勦るかの如き運動は、かえって多くの兄弟を堕落させた」としている。そして「吾等の中より人間を尊敬する事によって自ら解放せんとする者の集團運動を起せるは、寧ろ必然である」と自主的な部落解放運動に起ち上がることの思想的な核心を明確にして、全国水平社への結集をよぴかけたのである。

 いま、この「全国水平社創立宣言」は.、90年前に書かれたものとは思えないほどに、その年月を越えて、部落解放運動のめざすべき闘いの方向を厳然と照らし出している。すでに1年になろうとしている東日本大震災や福島第1原発事故、さらには台風などの自然災害などによる大きな被害を思えば、「全国水平社創立宣言」にある「人間を尊敬する」という部落解放運動の出発点が、環境破壊をやめ、大自然との共生をすすめ、エネルギー政策の転換を急務の課題とするとりくみにも通じていることを痛感する。この間、われわれが掲げてきた人権・平和・環境を基軸にした部落解放運動の闘いの根源的な精神が明確に打ち出されているのである。
  このようにわれわれの運動は、この「全国水平社創立宣言」を原点として、その思想と精神を具現化していくことが求められているのである。そのためにも、全国水平社90年の闘いから学び、建設的にその歴史的な成果を正しく継承するとともに、闘いのなかの誤りを率直に切開し、教訓化していくことが重要である。とくに、「組織なき組織」といわれた当時の運動の限界性や、部落解放運動の独自性、重要性を欠如させた全国水平社解消意見、部落厚生皇民運動の提唱と戦争協力問題など、痛苦な歴史的経験として、そこから深く学んでいかなければならない。
  「戦争こそ最大の人権侵害である」としてすすめてきた人権と平和の確立を求める闘いは、こうした反省と教訓を生かすなかで、さまざまな団体や運動との共通の課題としてとりくまれているのである。

 全国水平社解消意見など、組織内の対立や混乱を克服し、全国水平社の組織と運動を大きく発展させたのは、部落民の日常的な経済的要求を取り上げた部落(民)委員会活動である。松本治一郎中央委員会議長を中心とする当時の指導部は、政府の融和政策を批判し、「部落民の生活悪化を防止し、その向上発展の爲に闘う」という方針を確立させた。
  こうして日常的な生活要求とともに、政治闘争や差別糾弾闘争を部落ぐるみでとりくむために世話役活動の重要性を訴え、大きな成果をあげたのである。しかも、当時からこの活動を水平社加入者だけの闘いにせず、未組織者も含めた大衆闘争にすべきであるという先駆的なとりくみでもあったことが重要である。さらに差別糾弾の方法も、個人にたいする直接的抗議行動から、差別事件の真相を広く社会に訴えつつ、大衆的糾弾闘争へと発展させる方針を確立し、高松結婚差別事件のとりくみなどで部落解放運動の大衆的基盤をつくりあげてきたのである。
  組織と運動の強化に向けて、こうした世話役活動、相談活動を中心にした日常活動をすすめるとりくみは、「いのちと生活を守る闘い」として、今日の部落解放運動の重要な課題になっている。また、闘いの成果を部落内だけでなく、近隣地区をまきこんで普遍化していくことは、われわれがすすめている「人権のまちづくり」運動や行政闘争のなかで求められている課題でもある。さらに、差別糾弾闘争のとりくみでは、人権の法制度確立や社会制度の変革につながるさまざまな成果をあげるとともに、差別を社会悪とする広範な連帯・協働の輪を拡げてきた。

 いま、部落解放運動をとりまく情況はきびしく、課題も山積している。組織的には同盟員の減少と、若年層の運動離れの傾向への対応、次代の部落解放運動を担う人材育成など、それぞれ喫緊の課題としてある。
  これまでの運動の成果として、全国水平社創立当時のような直接的な差別言動による部落差別事件を間近で経験することが少なくなった。しかし一万で、インターネット上での差別情報の氾濫、差別落書など、匿名での陰湿な差別事件が多発している。このような現状のなかで、差別への怒りをどう組織化していくのかが問われている。土地差別調査や問い合わせ、戸籍・住民票の不正取得による差別身元調査など、けっして部落差別はなくなっていない。
  これからの部落解放運動がめざすものを提示しながら、同時に運動への共感、感動をかちとっていくために、われわれは今一度、運動の原点である「全国水平社創立宣言」に立ち返ることが求められている。われわれは、全国水平社以来、差別されたものの怒りや悲しみを共通の感情的紐帯としながら、連帯-共同・協働の闘いをすすめてきた。
  さらに、差別糾弾闘争を発展させるなかで、差別に荷担するものの悲しみをも包含しながら、社会の最深部から差別-被差別の関係をのりこえることを模索してきた。「全国水平社創立」の結びにある「人の世に熱あれ、人間に光あれ」は、まさに部落民だけの解放ではなく、部落解放-人間解放に向けた叫びでもある。

 今日の部落解放運動の前進のなかで反差別共同闘争は、連合をはじめとした部落解放中央共闘会議に結集する労働組合、「同宗連」に参加している宗教団体(者)へ「同企連」「人企連」で活動されている企業、同和・人権教育をすすめる全国人権教育研究協議会、全国で結成されている狭山住民の会をはじめ、多くの市民団体、運動などがそれぞれの立場でともに差別撤廃、人権社会確立をめざす協働のとりくみとして大きく拡がっている。また、「人権侵害救済法」の制定や「人権のまちづくり」運動の推進、「人権教育・啓発推進法」を活用した同和・人権行政の推進、「世界の水平運動」を具現化した「反差別国際運動」の活動でも、部落解放運動は大きな役割を果たしている。
  われわれは、全国水平社創立90年の大きな節目の年に、こうした運動の前進面と、一方で「特別措置法」時代に生み出された行政依存体質と一連の不祥事への反省、組織・運動の改革運動とそれを通じた規約改正、新綱領の意義をあらためて明確にして、次代を担う人材育成に力を入れながら、部落解放運動の発展をめざそう。こうした論議を組織内外の協働の営みとしてすすめるなかでこそ、これからの部落解放に向けた道筋をしっかりと示していくことができる。
  いまこそ、「全国水平社創立」の原点に立ち返り、部落解放-人間解放という崇高な使命を果たすべく自覚と責任をもって、部落解放運動に邁進しよう。


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