プライム事件をとおして判明した情報売買社会。不正取得の防止を
底なしの情報漏えい-職歴情報
すでに報じられているとおり、昨年11月、職務上請求書を偽造して不正取得したとして東京都内のプライム法務事務所社長や横浜の探偵社社長、司法書士ら5人が愛知県警に逮捕された。この事件では、1万件にのぼる戸籍などの不正取得の実態が浮き彫りにされ、今年に入って名古屋地裁がプライム社社長に実刑3年、興信所社長に2年6か月、司法書士に罰金250万円をいい渡して事件は一区切りついたようにみえた。
しかし、プライム事件は新たな展開をみせた。6月1日、プライム事件に関連して、ハローワーク横浜の職員と神奈川県内の調査会社代表者が逮捕された。新聞報道などを総合するとつぎのようなことがわかってきた。横浜職安の非常勤職員であった40代の女性は、職安の端末機を使って、依頼された人物の職歴情報を調査会社に提供していたのだ。職歴情報とは、具体的には雇用保険の加入歴のことで、通常、会社に入社すれば雇用保険に加入し、会社を辞めれば自動的に雇用保険から脱会する。この記録は、そのまま一人の勤労者の雇用履歴として国の労働市場センター(東京)に保存されている。もちろん関係者以外にみることはできないが、調査会社の代表者は非常勤職員に目を付けて金で買収した。2人の間では、1件1万円で情報が取引され、非常勤職員は多い月は100万円くらいの報酬を受け取っていた。しかし、職歴情報をいったい誰が何のためにほしがるのか。
新たに携帯電話の情報売買
事件はこれだけにとどまらなかった。7月に入ってまた新しいニュースが飛びこんできた。今度は、岡山県のソフトバンク店長と広島県の興信所経営者が逮捕された。これもプライム事件を捜査していた愛知県警が、捜査中に携帯電話情報が大量に売り買いされている実態をつかみ、出どころを特定して逮捕にふみ切ったのだ。報道によれば、携帯電話の番号だけわかれば持ち主の住所や自宅の固定電話番号がすぐわかり、逆に名前と住所さえわかれば、本人の携帯電話番号がすぐにわかる、というものだ。探偵社のなかには堂どうとチラシをつくって、携帯電話の情報販売を宣伝していたものもいる。広島の探偵者は、ソフトバンク店長を金で買収し、情報を買い取っていたのだ。1件の報酬は6000円だったという。探偵者は、ドコモやauやソフトバンクのお客の情報に1万6500円から9万6000円の値を付けて販売していた。
プライム事件では、偽造した職務上請求書によって戸籍や住民票が、ハローワーク横浜の事件では職歴情報が、そして岡山のソフトバンク事件では、携帯電話情報が売り買いされていた。いずれも数千件にのぼる情報が売り買いされ、不正を働いたものは巨額の不当な利益をあげていた。プライム社に端を発した一連の事件は、戸籍や住民票だけでなく、さまざま個人情報が売り買いされている「情報売買ビジネス」の存在を浮き彫りにしたが、社会の隅ずみまで張り巡らされた闇のビジネスは、なお底知れぬ闇の深みをみせる。
徹底的な真相究明を
プライム事件について、運動の課題を整理しておきたい。
まず第1は、真相解明を急ぐことだ。プライム社長は「その8~9割は、結婚相手の身元調査と浮気調査だった」と証言したが、戸籍が身元調査に利用されたことは疑いない。しかし、職歴情報や携帯電話情報はなんのために取られていたのか、この真相がいまだ十分解明されていない。
真相解明でいえば、プライム社に依頼した調査会社の調査も必要だ。少なくとも2006年に制定された「探偵業法」では、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に該当するはずなのだが、誰一人処罰を受けていない。
第2は、不正防止のための関係機関への抗議と申し入れだ。
ハローワーク横浜の職歴情報に関連して、厚生労働省は再発防止のために、これまでは対象外としてきた非常勤職員をふくめて全職員に研修を実施するよう通知を出したが、それが実施されているのか、また、厚労省は情報漏洩を防ぐために毎日職歴情報のアクセス(照会)記録をチェックするように職安に指示したが、それが実行されているのか。
第3は、不正に取られた者への「事実告知」だ。プライム事件では1万人が被害に遭っているが、被害者はいまだに不正取得されたという事実を知らされていない。不正に取得された個人情報が悪用されストーカーや脅迫、不採用、婚約破棄などに利用されても、その原因が分からないままに被害を受けている。これ以上被害を広げないために行政は被害者に「事実告知」をするべきだ。05年の不正取得事件をきっかけに、福岡市や福山市、東京都8区では、不正取得された被害者に、不正の事実を知らせる「事実告知」をおこなっている。
第4は、行政書士会や司法書士会など8士業会にも厳しい注文を付けたい。8士業会は今後、不正取得をおこなった者にたいして厳しい処分をおこなうべきだ。これまでの処分は、ほとんど3か月から1年前後の業務停止だけだ。1、2年もすればまた営業できるのでは甘すぎる。
最後に、不正防止のための「登録型本人通知制度」の採用を全国にひろげることだ。大阪ではじまった事前登録型本人通知制度を現在までに採用した市区町村は、全国で189になった。埼玉、香川では全市町村が、大阪では30市町村が導入している。本人通知制度は、不正取得防止に効果的だ。プライム事件を反省材料に、このさい「本人通知制度」を全国に広げることが大切だ。
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