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部落問題資料室
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人権・平和の確立へ、創意工夫した人権週間のとりくみをすすめよう

「解放新聞」(2012.11.19-2594)

 政府は12月4日から10日までを人権週間と定めている。国連が1948年12月10日第3回総会で「世界人権宣言」を採択し、その日を記念して、世界各地で人権に関するとりくみをおこなう「人権デー」とすることを第5回総会で決議したことに由来する。「宣言」は、国運の人権諸条約の基礎になっている。戦争を経験し、飢餓や虐殺に直面してきた世界が英知を結集して、人権諸条約を制定し、すべての人の基本的人権が例外なく保障される社会の実現をめざした。人権諸条約に示された国際人権基準を浸透させるために、1995年「国連人権教育10年」を定めていらい、世界に人権文化を花ひらかせようと努力している。
  わが国でも人権教育・啓発推進法にもとづいて人権教育・啓発がおこなわれ、毎年実施状況を「人権白書」として国会に報告している。本来の人権教育の内容は、人権諸条約にもとづく国際人権基準を浸透させるものであるべきだ。
  国連憲章をうけて、日本国憲法前文は「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」ことを掲げている。ここでは、人間の生活全般を対象にした「人間の安全保障」として、「恐怖からの自由」「欠乏からの自由」を宣言している。経済・食料の安全保障、健康・環境の安全保障、個人・地域社会・政治の安全保障をふくむ「人間の安全保障」を確保するうえで、人権の尊重は中心に位置する概念である。

 人間が安心した生活をおくることのできる平和な社会の実現が「平和的生存権」の保障であり、その実現には平和的であること、人道的であることが求められている。憲法第9条は交戦権を否定しているから、平和や秩序回復のために破壊と殺戮をもたらす武力の威嚇・武力の行使による軍事介入は認めていない。国連人権理事会では「平和への権利宣言」に向けた作業をすすめている。「平和的生存権」を権利宣言として確立する非軍事の流れは、世界の基本方針となっている。
  個別人権課題を解決するためには、法的拘束力をもつ人権諸条約によって保障していく。条約では、基本的人権保障のための国際人権基準が示されている。たとえば、2006年に国連総会で採択された障害者権利条約を日本が批准するためには、条約に違反する国内法や制度は条約基準にしたがって改正される。条約では、障害者を分離・隔離することから、統合へ、そして「障害は社会がつくる、社会は合理的配慮を」という「社会モデル」への転換を求めている。しかし、日本では今年の大阪地裁判決で、障害者を刑務所に隔離すべきとする判決を出している。国際人権基準にしたがって、人権教育が徹底され、障害者施策や社会が 「隔離から統合そして合理的配慮をする」人権基準に転換を図るべきである。
  子どもの権利条約の「社会が子どもを育てる」子ども観から子ども手当が創設されたが、「親が育てる」児童手当に引き戻された。女性差別撤廃条約委員会の家制度を基盤にした民法の改正勧告を実現できずにいる。部落差別を生み出している戸籍制度への批判を避けるために、人種差別撤廃条約に部落問題は入らないと強弁している。旧態依然とした法的枠組みを、国際人権基準に従って変えていく必要がある。国際人権基準にもとづく監視システムを創設する「人権委員会設置法案」をめぐっては、従来の法的枠組みに留まるのか、国際人権基準に従って転換していくのかが対立軸になっている。

 差別や人権侵害にさらされてきた人たちの「声なき声」をききとろうとするところから、ほんらいの人権教育・啓発ははじまる。生活保護を拒否されて餓死寸前の人、虐待を受けている子ども、原発の稼働を支えるために原子炉で被曝する労働者、広島・長崎で核爆弾によって被爆した人たちの核兵器廃絶の叫び、軍事基地の爆音に恐怖する人など、語り部たちの「声なき声」をきき届け、「私の苦難」を「私たちの苦難」とし、「安心してください社会が支えます」という社会連帯を考え、国際人権基準にしたがった人権や平和を考える人権週間にしよう。


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