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部落問題資料室
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制度・制作の学習を深め、運動の理念を再認識し、第35回全国人権保育研究集会の成功を

「解放新聞」(2012.12.17-2598)

 少子化や子どもの貧困がいわれて久しい。また、教育関連費に使われる国費もほかの先進諸国と比べると、低水準だ。WHO(世界保健機構)は、2011年の1人の女性が一生に産む子どもの数を示す「合計特殊出生率」が、1.39と発表した。また、国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」では、夫婦が生涯にもつ子どもの平均人数が2010年に1.96となり、初めて2人を下回ったと発表した。同調査では「実際に産むつもりの子どもの数が理想を下回る」と答えた夫婦が全体の3割。理由は「子育てや教育にお金がかかりすぎる」が60.4%と最多を占めた。この数字は前回調査(2005年)よりは5.5%減少しており、高校授業料の無償化や奨学金制度の拡充などの政策が起因しているとみることもできるが、抜本的な少子化対策となっていないのが現実だ。

 貧困の問題は深刻だ。2010年に発表された「相対的貧困率」は16%で07年より0.3%悪化した。また、就学援助受給者は最多の156万人をこえ、全児童生徒に占める対象者の割合も過去最多の16%になった。今日的な経済状況の悪化から「無保険」となり医者にかかれない子どもや、中途退学や進学を断念せざるを得ない子どもの増加に歯止めがかからない。とりわけ、「働いている一人家族の子ども(18歳未満)」の貧困率は57.3%とひじょうに高く、社会的な困難をかかえる世帯の子どもに重く貧困がのしかかっている現実はいっこうに改善されない。また、貧困の拡大・固定化に加え、地域コミュニティが希薄になり、子ども白身や子育て世帯(保護者)の孤立化を強めている。このような現実が白死や虐待の増加に拍車をかける。厚労省は2011年度の児童虐待相談対応件数は前年度比4710件増の5万9862件と過去最多を大幅に更新したと公表した。たしかに、通報義務ができたことをはじめ、実態が明らかになるような制度の改善がすすんだこともあるが、深刻な状況であることに変わりはない。

 本年8月10日、民主・自民・公明の3党合意をもとに、子ども・子育て関連法が参議院で可決・成立した。関連法では保育の選択肢が増えるので良いという意見もあるが、国際的にも低いといわれる現在の保育基準をさらに悪化させる可能性も強く指摘されている。また、児童福祉法第24条の改正は市町村の責任が限定され、「利用者と事業者の自己責任」と解釈できる条文となっており、自治体の責任逃れが可能との危惧する声が多くある。また、山間部や離島といったへき地では地域から保育所や学童保育所をなくし、小規模保育に一本化される懸念もある。保育所の規模により市町村の保育義務の有無を決めてしまうもので、それは子どもの権利保障の観点から許されるものではない。

 以前は、いじめや虐待の問題でも地域総体の「関心やかかわり」で防止や指導をしていたことが、「無縁社会」といわれるような現代社会のなかで崩壊し、学校や保護者・個人といった「関係者の責任」だけが強調されるようになっている。差別の問題は、みえにくくなったが、差別意識を温存し助長する社会体質はいまも変わらないことを「フクシマ差別」はものがたる。このような社会状況だからこそ、すべての地域で差別を見抜き、打ち勝つ力を育てるとともに、すべての子どもたちに差別を許さない、人権を尊重する価値観を育てる解放保育・人権保育運動が不可欠だ。私たちは、全国水平社が創立してから90年の間に、子育て分野のみならず社会のさまざまな分野で「人を大切にする」政策を打ち出し、一般施策として制度化してきた。私たちは子どもの「最善の利益」を考え、「皆保育」という理念のもと関連法について学習を深める必要がある。
  第35回全国人権保育研究集会を来年1月19、20日にかけて、米子コンベンションセンター(鳥取県米子市)を主会場にひらく。保育をとりまく状況が大きく変わろうとする今日、関連法について学習するとともに、解放保育運動の理念をあらためて確認する集会にしたい。同時に全国各地の子育てをとりまく現状と課題を明らかにし、理論と実践を交流し、今後の解放保育・人権保育運動の飛躍に着実につなげていこう。


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