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部落問題資料室
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TPP参加の既成事実化に反対しよう

「解放新聞」(2013.01.28-2604)

 解散総選挙で圧勝した自民党が、その勢いに乗じてTPPへの参加の動きを加速させている。安倍総理は、「事前協議で関税の撤廃に例外が認められた場合には交渉に参加する」との意向を示し、1月16日におこなわれた自民党と経団連との懇談会では、米倉会長がTPP交渉への早期参加をあらためて求めたのにたいして、石破幹事長は党としても議論をはじめる考えを示し、「外交・経済連携調査会」で検討するとのべた。TPPは、参議院選の争点のひとつになる重要課題だが、参議院選の前に実質的にTPP参加を既成事実化する動きがみられることを警戒しなければならない。
  もういちどTPPの問題点を整理しておこう。TPPは貿易自由化の例外を原則として認めず、関税の100%即時撤廃か10年以内の実現を原則にしている。もしTPPに日本が参加するならば、現在日本が関税をかけている5900品目のうちの大多数が無税になる。そうなれば、アメリカやオーストラリアなど農産物輸出大国からコメや小麦、牛肉、乳製品などが怒濤のように日本に流れ込む。国内農畜産物は、輸入自由化の荒波に抗すべくもなく衰退していくことになるだろう。自民党は先の選挙の公約で「日本の農業を守る」といってきたが、農水省は関税がゼロになれば、39%の食料自給率が13%に急落すると試算している。どうしてこれが農業を守ることになるのだ。

 TPPを「平成の開国」と叫ぶ政治家がいるが、歴代政権はこの半世紀、着ちゃくと自由化をすすめ、輸入を拡大し、農家に大きな打撃を与えてきた。日本の平均関税率は2.6%とアメリカよりも低く、農産品に限っても平均関税率12%はけっして高いとはいえず、穀物自給率はわずかしかないほど、すでに農業は「開国」されている。TPPに日本が参加しても日本の実質的な輸出先はアメリカしかなく、アメリカの実質的な輸出先は日本しかない。アジアの成長を取り込むというのはあり得ない話だ。
  ところで農水省は、牛肉は肉質3等級以下が全滅し、5等級のブランド肉が残るにすぎないと試算している。日本の畜産が衰退すれば各地の食肉センターは閉鎖を余儀なくされ、食肉に関連した卸業者、小売業をはじめ、油脂や皮革など部落の関連事業者もつぎつぎに倒産廃業に追い込まれることが予想される。これを黙って見過ごすことはできない。
  また、ことは農業や畜産、食肉だけにかぎらない。農業への打撃は、この社会の地形や保水能力、景観を変える。風景も奪われてしまう。
  畜産や皮革などを通じた文化も奪われてしまうことにつながる。
  こうして、私たちの社会が歴史的に形成してきた独自の文化や伝統も奪われ、喪失させられていくのだ。

 TPP賛成者は、経済の基本をあまりにも知らなさすぎる。デフレ下での貿易の自由化は、いっそうの実質賃金の低下と失業の増大を招く。グローバル化した世界では、輸出主導の成長は国民給与の低下をもたらし、貧富の格差を拡大する。いまの日本で必要なことは、何をおいてもデフレから脱却することだが、貿易の自由化と輸出の拡大はそのデフレをさらに悪化させる。
  TPPは、自国の雇用を増やすためのアメリカの経済戦略の一環であり、輸出先のターゲットは日本以外にはない。アメリカは、国際競争力をもち、今後高騰すると予想されている農産物を武器に、TPPによる輸出拡大を仕掛けているのだ。大不況に苦しむアメリカに、アジア太平洋の新たな貿易の枠組みを構築する意図はないし、その余裕はない。
  それでもTPPに参加するというのは、亡国政治以外の何者でもない。TPPは、膨大な政府債務を抱え、リーマンショック以降の大不況から脱却することができず、9%をこえる高い失業率が続くアメリカが、その窮地を脱するために打ち出したアメリカ製品の輸出拡大政策にほかならない。
  さらに、TPPはグローバル経済のなかで、1%が富み、99%がますます困窮を迎えるなかで、ブロック化経済を招くものだ、との意見が経済学者からも指摘されている。つまり、ブロック外のアジア地域をのけ者にし、排外的民族主義を煽り、侵略や戦争への道をつきすすむ、契機となるのである。
  日本の農畜産業、そして部落の農畜産業を解体へと陥れるTPP参加の既成事実化に強く反対しよう。


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