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部落問題資料室
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『週刊朝日』差別記事事件を契機に人権感覚に研ぎ澄まされたマスコミ業界に

「解放新聞」(2013.06.10-2622)

 『週刊朝日』による部落差別記事が掲載されたのが、昨年の10月である。
  2012年10月16日「ハシシタ 奴の本性」(佐野眞一+本誌取材班=今西憲之、村岡正浩)とセンセーショナルなタイトルが『週刊朝日』の表紙を飾った事件である。
  「DNA」「血脈をたどる」といった表現が見出しに踊り、「敵対者を絶対に認めないこの男の非寛容な人格であり、その厄介な性格の根にある橋下の本性である」として、いわゆる〝出自″=〝生まれ″が関係していると短絡的に結びつけた言葉がつぎつぎと並び立てられ、被差別部落への偏見と差別を煽る内容の週刊誌が発売された。
  それから2日後の18日、記者会見で橋下徹・大阪市長は、「僕の人格を否定する根拠として、先祖や縁戚、DNAを挙げて過去を暴きだすのは、公人としても認められない」と抗議。その模様が、NHKほか民放各社のニュース報道、そしてインターネット上で映し出され、大きな波紋をよぶことになった。
  こうした一連の『週刊朝日』の記事にたいして、部落解放同盟中央本部は、「これは橋下氏の政策や政治手法を批判する記事ではなく、被差別部落出身者を暴く調査をおこなうことを宣言して書かれた明確な差別記事である」として、10月22日付で朝日新聞出版に抗議した。
  中央本部は、この間、出版元の朝日新聞出版と3回にわたる話し合いをすすめてきている。そこでの問題点と課題は以下のとおりだ。

 まず第一にあげられる点は、『週刊朝日』側のあまりにも低レベルな人権感覚である。「部数をあげる」「増収を図る」という利益追求のためには、手段を選ばず個人情報を侵害し、身元調査まがいの行為まで容認するという、ジャーナリズム精神のかけらさえ存在しないほどの資質と見識に成り下がってしまっている点が、今回の差別記事で明らかになった。部落問題にたいするマスコミ業界の劣化が深刻なことを物語ったケースである。
  第二の点は、「被差別部落の地区を特定する表現が、差別を助長する記述でした」との朝日新聞出版の見解についてである。つまり、たんに○○という地名を明らかにするという表現をわれわれは、〝差別だ″と断じているわけではない。
  被差別部落の地名を公表するさいには、その目的の正当性と同時に、それが新たな差別を生まないよう十分な配慮がなされているかどうかがポイントなのだ。地区名を公表したことそのものが、差別を助長する記述と断定することは過剰な反応である。むしろ問題は、見解でも指摘されている「出自を根拠にその人格を否定するという誤った考えを基調としている」内容そのものの差別性が問われなければならない問題である。
  つまり、被差別部落の地名を特定表記し、文中の差別的表現と結びつけることによって被差別部落への偏見と差別を煽る内容そのものが、差別や人権侵害を基調としていると指摘されているのである。部落の地名や個人名を明らかにするさいには、社会的差別が存在しているということを認識したうえで、配慮して記述するということは、ジャーナリストの基本といえるだろう。このことは、その基本さえ失い、「被差別部落の地区を特定する表現が、差別を助長する記述でした」と弁明する『週刊朝日』側の人権の捉え方のきわめて希薄な現状とあさはかな人権感覚が暴露されたことを意味している。
  被差別部落の地名が記述されているから問題ということではなく、侮辱や排除の意志をもって記述されているかどうかが問われたのが今回の問題である。かりに「大阪府内のA地域」と配慮した記載であっても差別記事であることにかわりはない。
  第三の点は、橋下市長が被差別部落出身かどうかという「事実の問題」や「記述の表現」、「慎重さを欠いた点」などが問題の本質ではない。橋下市長の危険な動向と被差別部落を結びつけた点にあり、部落出身ということと人格とを結びつけ、すべての被差別部落民に共通するかのような記事を掲載した行為が問題なのである。つまり、〝事実″かどうかが問題になったのではなく、表現そのものの〝差別″が問われたのである。そして、橋下市長の父親をはじめとした親族が被差別部落の出身であるという出自を暴いたことが差別であり、人権侵害であるという点を『週刊朝日』関係者は、猛省すべきである。

 今回のケースは、「売らんがため」「『新潮』『文春』に負けたくないから」という行き過ぎた市場原理の考え方が招いた人権侵害の実例である。しかし、皮肉なことにこの号は、〝完売″している。それは、橋下市長が朝日側に噛みついたことが原因で、反響をよんだのか。また、注目される政治家、橋下氏の「DNA」「血脈をたどる」というセンセーショナルな見出しが読者の関心を引き寄せたのか。いずれにせよ、差別を利用して部数増を企てたことにかわりはない。
  このことを猛省して、それを糧に、あらためて人権感覚に研ぎ澄まされたマスコミ業界への転換をはかるための契機とすることができるかどうかが、今回発覚した「『週刊朝日』差別記事事件」の本当の意味での本質、核心であることを強調したい。


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