pagetop
部落問題資料室
NEWS & 主張
主張

 

「公権力を行使する人」にこそ国際人権基準を学ばせよう

「解放新聞」(2013.11.11-2642)

 人権週間が12月4日から10日までとりくまれる。第2次世界大戦での惨劇を反省した世界は、すべての人がふたたび人権侵害にさらされることがないように「世界人権宣言を国連総会で採択した。1948年のその日を記念して毎年人権週間が実施される。国家の指導者たちが戦争を引きおこし、公務員である軍人が虐殺・強姦・虐待などをくり返したことへの反省にもとづいている。戦争を引きおこした国家指導者は「平和にたいする罪」で、虐殺をした軍人は「人道にたいする罪」で、裁くことになった。さらに国連は「平和への権利宣言を準備している。国際法の世界では、長く国家が主権者としてふるまってきたために、政府や公権力の行使による人権侵害にたいして厳しく責任を問うこともなかった。国際市民が条約委員会などにNGOとして参加し、協議資格を取得し、公権力行使による人権侵害を厳しく問うようになって、国際法の世界も変化してきた。
  国連では、「宣言」を具体化するために国際人権規約を採択し、その後も人権侵害にさらされてきた社会的弱者の権利を保障するために、多くの人権条約を採択してきた。その努力の結晶が、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、難民条約、拷問禁止条約、障害者権利条約などとして結実した。「すべての人は例外なく社会の構成員として処遇される(Social Inclusion)」理念を掲げている。これらの理念を実現するために、「人権教育のための国連10年国内行動計画」を実施し、さらに世界プログラムを実施してきた。条約に示された国際人権基準を世界に浸透させ、人権という普遍的文化を花ひらかすことに努力してきた。人権週間では国連のたゆみないとりくみを想起し、国際人権基準を深く学ぶときでもある。

 「人権教育国連10年」で強調されたことは「公権力を行使する人たち」が国際人権基準を深く学ぶ人権教育の重要性である。特定職業に従事する人、とくに教員・警察官・刑務所職員・法律家・裁判官・政府職員・メディア・軍隊・公務員・議会関係者などが列挙されている。批准し加入した条約は憲法につぐ国内法であるから、「公権力を行使する人」は深く国際人権基準を学び、市民に先がけて実践する義務がある。
  しかし、「公権力を行使する人」が国際人権基準を機能させることを公然と阻止する事態や、深く学んだか疑問になる事件が多発している。そこには旧態依然とした国家を主権者とする国際法の理解が存在している。国連人権理事国であるわが国は、率先して国際人権基準を機能させ、条約の実行状況を監視する体制を整えなければならないのに、いまだ人権委員会が設立されていない。条約の実行状況をまとめた報告書を定期的に条約委員会に提出し、審査をうけなければならないが、政府は報告書の提出をさぼったり、厳しい勧告が出されても無視している。「条約を実行しようとしないなら、条約に入っている意味がない」との勧告すら出されている。日本は、人種差別撤廃条約委員会の見解を否定して、第1条に部落問題がふくまれないとしたり、第4条の差別禁止規定を留保してきた。
  拷問禁止条約委員会の席上で、日本を代表する人権人道大使がひんしゅくをかった。日本軍性奴隷制度が「人道にたいする罪」であることを認識せずに被害者を傷つける発言をくり返した指導的立場にある者がいることにたいし、委員会は「条約を批准している政府は国際条約にもとづいて見解を表明するよう」に勧告した。政府は「勧告には法的拘束力はない。遵守義務はない」と閣議決定をしてしまう。条約を批准した国であっても国際人権基準を遵守しないことが多い。

 出生による差別禁止の国際基準に反して、最高裁判所は従来から「婚外子差別は合理的差別で合憲」の判決を出してきたが、今年、「憲法違反である」と判例変更した。「法律婚を守るのではなく、個人の尊重という人権保障の立場に立ち、条約委員会からの指摘を受け入れる」とした。これまで合憲判決を出してきた裁判官が国際人権基準を学んでこなかったことは明らかである。京都地裁がヘイトスピーチをくり返す団体にたいして、人種差別撤廃条約の「人種差別」であると指摘し、抑制の目的で高額な賠償を認めたが、「人種差別」の現場にいた警察官の黙認には言及していない。東京でのヘイトスピーチのデモ行進は東京都公安委員会が許可し、デモには警察官が立ち会い、目前でおこなわれている「人種差別」を止められない公務員の責任が問われる。これも「公権力を行使する人」にたいする人権教育が徹底していなかったことを示している。

 毎年、政府は「人権教育・啓発推進法」にしたがって、批准・加入している国際人権諸条約の実行状況を「人権白書」にまとめ、国会に報告している。また地方自治体は「人権施策推進基本計画」を策定して国際人権基準を施策の柱にしなければならない。しかし、残念なことにそれらの報告書を読むかぎり、「公権力を行使する人」が深く国際人権基準を学び、行政施策の制度設計に生かし、人権の普遍的文化を花ひらかそうと真剣に努力しているとはいえず、むしろ軽んじていることが目立つ。
  人権週間に政府や行政が市民に向かって国際人権基準を守ることをいう前に、「公権力を行使する人」が率先して国際人権基準を深く学ぶ必要がある。グローバル化していく世界は経済だけでなく、人的交流も拡大していくため、人権の普遍的文化が同時に広がっていくことが望まれる。憲法第98条にしたがえば、国際条約は憲法につぐ国内法となるのであるから、「公権力を行使する人」は国際人権基準を体現することが求められている。
  今年の人権週間では「公権力を行使する人」が先頭に立って、国際人権基準を学ぶ週間にしなければならない。そのうえで市民に国際人権基準を幅広く情報提供する週間としたい。


「解放新聞」購読の申し込み先
解放新聞社 大阪市港区波除4丁目1-37 TEL 06-6581-8516/FAX 06-6581-8517
定 価:1部 8頁 115円/特別号(年1回 12頁 180円)
年ぎめ:1部(月3回発行)4320円(含特別号/送料別)
送 料: 年 1554円(1部購読の場合)