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世界経済フォーラムは、毎年、男女平等(ジェンダー・ギャップ)指数を発表している。
このジェンダーバランス・ギャップ指数は、経済参加、教育、健康、政治参加の4つの分野での男女の格差を指数化している。
昨年10月に発表された男女平等指数は、136か国中日本は105位だった。上位は2012年とかわらず、アイスランド、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンが続き、5番目にはアジア地域でもっとも高かったフィリピンが上位を占めた。
日本の人口は年年減少し、少子高齢化社会をむかえている。これは、女性の社会進出がすすみ、晩婚化、晩産化の傾向が強まってきたからだといわれている。しかし、女性の社会進出と同時に、人口が減少する要因は、女性が結婚、出産し、出産後も仕事ができる環境整備、子育て支援をはじめ仕事や介護などを支える制度が充実していないからだ。昨年9月下旬、安倍首相がニューヨークの第68回国連総会の一般討論演説で、女性の人権重視を誓い「女性が輝く社会へ」をつくるための政策を提案したが、女性にとって働きやすい労働環境の実現にはほど遠い現実がある。女性労働者の給与水準は男性の約7割、パート女性では約5割という雇用での男女の賃金格差や昇格問題など課題は山積している。
さらに、東日本大震災から3年が経過しているが、復興支援がすすまないうえに、放射能汚染問題でいまだに多くの人たちが自宅に戻れずに避難生活を余儀なくされている。私たちは、いのちや生活、人権・環境を守るとりくみを強めるとともに、原発推進に固執する現在のエネルギー政策の見直しをすすめていかなければならない。
今日の部落解放運動の中心的課題は、いのちと生活、人権・平和・環境を守るためのとりくみである。こうした課題は、部落のみならず、すべての人たちに共通するものである。この課題を解決するためにも、反貧困・反差別の協働のとりくみが重要である。
5月10、11日、奈良県で部落解放第59回全国女性集会(奈良全女)を800人規模でひらく。すでに、奈良県連女性部を中心に集会成功に向けたとりくみがすすめられている。全国の部落女性の力で部落差別をはじめ、あらゆる差別に反対し、男女がともにジェンダー(社会的・文化的に形成された性差、性差別)によって役割を強制されたり、生き方を制限されたりすることのない男女平等社会の実現に向けて、第59回全女を成功させよう。
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男女平等は憲法にも定められている大切なことだ。しかし、現実には女性にたいする差別が存在している。とくに、男女の賃金格差、管理職や非正規雇用に占める女性の比率など、雇用の分野での男女間格差がある。また、男女の意識のなかにも、男性は仕事中心、女性は家事中心という意識が根強くあり、子育てにも「3歳児神話」のように「3歳までは母親のもとで子育てをしなければ、取り返しのつかないダメージを子どもに与える」といった誤った考えや風潮がある。しかしこれは、子どもを預けて仕事をしようとする母親の意欲を阻む要因にもなりかねない。子育ては時間をかけ、親や他人とかかわり、人間関係を築いていくものではないだろうか。
男女平等の意識をつくるには、まず、なにがジェンダーかということに気づくことが大切だ。日常生活やメディアのなかに存在するジェンダーなどに気づき、身近なことから制度や慣習について見直すことができるような「ジェンダーにとらわれない意識」を積極的に形成していくことが重要だ。ジェンダーによって役割を強制されたり、生き方を制限されたりすることのない環境をつくりだし、男女平等を考え行動していく必要がある。暴力や貧困の連鎖を断ち切るためにも、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントなどについても、しっかりとした相談窓口をはじめ実効ある対策が必要だ。
2005年に「改正育児・介護休業法」が施行され、男女がともに働く権利と育児・介護の両立をめざし、男性にも女性と同等の権利を認めているが、現実に男性が育児休暇や介護休暇を取得できる事業所はどれだけあるだろうか。制度や法律があっても利用できなければ画に描いた餅にすぎない。
また、愛知・埼玉・大阪・兵庫・奈良・京都で2006年~2010年に実施された部落女性アンケート調査結果(約1万1300人が回答)で、4つの共通点が明らかになった。①働く権利や制度について、職場で利用できる制度があるにもかかわらず、どんな制度があるのか知らなかったり、制度を利用できない職場で働いていることがわかった。私たちは、働く権利や制度を学習し、どんな制度が利用できるのかを知ることが大事だ。②どの府県でも高齢になっても働いている人が多く、そのなかには無年金者が多くいるのではと推定されること。③10代の若年層でも字をまったく読めない人がいること。④いまなお、結婚・就職差別など部落差別があとをたたないこと。これらの課題や実態を国に訴えて施策に反映させていかなければならない。
さらに、組織内でも女性が力を発揮できる組織運営、運動になっているのか、「男女平等社会実現基本方針」(改訂版/2008年)を学習し、中央本部・都府県連・支部で具体的なとりくみをすすめていかなければならない。そして、変革の時代に敏感に対応する運動の展開と、女性部としての人材育成をはじめとした組織強化をはかることが重要な課題であり、この「基本方針」についても、さらに充実させていくことが必要だ。
21世紀の女性政策の指針を決めた第4回世界女性会議(1995年北京)から来年で20年。ジェンダーの問題は、社会全体の課題であることをしっかりふまえ、すべての女性と協働してとりくみをすすめよう。
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部落差別をはじめ、女性差別、障害者差別、複合差別にもしっかりと視点を置いたとりくみが必要だ。
今年2月、奈良県でひらいた全国女性活動者会議のなかで男女共同参画審議委員7人から、委員会の報告や悩みがだされた。委員会は学識経験者が多く、そのなかで部落女性やマイノリティ女性の話をしてもなかなか理解がえられないなど、委員会のなかで一人でも多くの仲間をつくることが大事ではないかという意見がだされ、参加者全員で共有した。
2010年12月に閣議決定された「第3次男女共同参画基本計画」の第8分野の基本的考え方に「同和問題等に加え、女性であることからくる複合的に困難な状況に置かれている場合がある」という文言が入った。しかし、内閣府男女共同参画局は文言だけで、国連女性差別撤廃委員会からだされた勧告(2003年、2009年)を履行しないばかりか、マイノリティ女性にたいしての施策をなんらおこなっていない。
今後も、「男女共同参画社会基本法」の積極面を活用し、私たちの住んでいる自治体ごとに部落女性の視点をふまえた、より具体的な内容の「男女平等条例」を制定する必要がある。そして、最低でも、閣議決定された「第3次男女共同参画基本計画」と同じような文言が入るように、各都府県連でとりくみをすすめなければならない。また、男女共同参画審議会委員の一般公募があれば積極的に応募するとともに、委員会のなかで部落女性をはじめ、マイノリティ女性の声を反映させていくことが必要だ。
これまで、アイヌ女性、在日韓国・朝鮮人女性、部落女性のアンケート調査結果をふまえた関係省庁との交渉をおこなってきた。今後も、マイノリティ女性にたいする施策の充実と政府による実態調査を要求するなど、粘り強い働きかけを強化しなければならない。
また、今年3月京都府議会本会議で「障害のある人もない人も安心して生き生きと暮らせる社会づくり条例」が可決、成立した(2015年4月、一部は今年4月から施行)。この条例は、全国で初めて「障害のある女性」「複合的な原因によりとくに困難な状況に置かれる」という文言や「性別」への配慮という文言が入った。これは画期的なことだ。今後も「障害者差別解消法」成立後の動向や、「障害者権利条約」などの福祉や生活に関連した先進的な条約や法律に学びつつ、共闘運動もすすめていかなければならない。
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全国水平社発祥の地である奈良で開催される第59回全女では、オープニングに奈良県連女性部によって「90年余り前の女性たちに学ぶ-婦人水平社の先達を乗り越えて」と題して構成詩が披露される。内容は、全国水平社第2回大会で婦人水平社の設立を決定、翌年の第3回大会では「婦人水平社の発展を期するの件」が女性代表より提出され満場一致で可決、女性運動が広がりをみせた。このとりくみは、3~4年で消えてしまったが、いま、仕事・子育て・解放運動ができる環境が整いつつあるのは、先達の女性たちが長く苦しい闘いを続けてきてくれた成果である。この成果をよりいっそう発展させ、あらゆる差別の撤廃に向け、部落女性が団結して前進させようという内容だ。
分科会では、部落解放・人権の法制度の確立のための闘い、狭山再審闘争をはじめ、差別糾弾闘争の強化、複合差別の視点をふくめた男女平等社会の実現、自立自闘に向けた闘いと人材育成をはじめとした女性部組織の拡大や「人権と福祉のまちづくり」の実現など、7つのテーマに分かれる。
地域でのとりくみの実践交流と論議を深め、活発な意見を出し合い、集会の成功をかちとろう。
さらに、部落解放運動だけではなく、さまざまな差別と闘う国内外の女性たちと反差別・反貧困のネットワークをつくりながら、すべての女性たちとの連帯をさらに強化し、人権と平和の確立、いのちと生活を守る協働のとりくみをすすめよう。部落解放運動の前進に向けて、部落女性が団結し、運動の牽引力となって、あらゆる差別をなくすために全力で闘いをすすめよう。