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部落問題資料室
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TPPの狙いをみきわめ部落の農業、畜産・食肉業を守るとりくみを

「解放新聞」(2014.06.16-2671)

 TPP交渉もいよいよ山場をむかえている。とくに、農業重要5項目(コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖の原材料)をめぐって日米の綱引きが本格化してきた。
  5月30日に米ワシントンでひらかれた日米協議で十分な進展がなかったために、6月にはいって引き続き日米閣僚級会議がおこなわれている。
  交渉の困難さは、「聖域」といわれる農業重要5項目を守ろうとする日本政府と米国政府側の農業団体(グローバル資本)からの強い圧力を背景にしたもので、米議会の「日米交渉での妥協はすべきでない」「開放しないなら日本を外せ」という声が高まっているといわれている。
  交渉内容が公表されていないなか、マスコミの記事をみると「環太平洋経済連携協定(TPP)が日本の農業に変革を迫っている。4月24日の日米首脳会談では合意にいたらなかったものの、日本が「聖域」としてきた豚肉や牛肉の関税を下げ、コメの輸入枠を広げる方向で交渉が進んだ。厳しさを増す経営環境に対応し、国際競争力を高める攻めの農政が求められている」とある。
  つまり、交渉は、実質的には日本側の妥協で終わっており、あとは関税の撤廃に向けたスケジュール調整であり、TPPのもとでの農業政策の方向(農業の変革)であり、安倍内閣によって、企業参入を中心とする農業関係法の改正をふくめ、準備がすすめられているのである。

 TPP交渉は、経済的な論理(経済のグローバル化、市場の開放)が先行しているが、現実との間に大きなギャップがある。その一つが「モノの品質・鮮度・安全性が無視されている」。二つ目が「いつでも金を出せば買えるという幻想」である。そして、三つ目が「農業の機能は、食糧生産だけではなく防災・環境、さらにコミュニティの形成という役割を担っている」という点を無視してすすめられているのである。
  食の安全性については、安全基準や成分や品質表示をおこなっているが、以前からこれの撤廃が要求されている。場合によっては、外国企業や生産者からの民事訴訟(TPPにふくまれる)ということも予想されるのである。また、原油の状況をみてもわかるように、供給変動や政治的状況によって安定価格・安定供給に大きな影響を与えることはいうまでもない。さらに、TPPの影響で食料自給率も20%近くにまで落ち込むと予想されているが、50%目標はどこへいってしまったのかということである。
  さらに、「国際競争力を高める攻めの農業」という指摘は否定しないが、小規模・中山間地域・高齢化という問題をかかえている日本の農業が、一部を除き、多くの農業者が対応しきれないのが現状であり、結果としてTPPは、日本の農業に決定的なダメージを与えることはいうまでもない。

 日本の農家の状況をみると販売農家と自給農家が2対1の割合で、第2種兼業農家という農業所得が50万円以下、飯米と若干の販売という農家が多い。とくに部落の農家の多くが、その歴史的経緯も影響して、日本の農業の特徴が凝縮されている。新聞が指摘(安倍政権の狙いに沿った指摘だが)するまでもなく、厳しい農業経営を背景に近年、各種のアグリビジネスなどの起業化、産直施設など産地と消費地を結ぶとりくみ、高品質化やブランド化へのさまざまな努力がおこなわれている。部落の農業者も以前からライスセンター・育苗施設・共同作業所・農機具など共同利用施設を導入し、活性化へのとりくみをすすめてきている。
  TPPは、日本の労働・賃金や生活の状況からくる消費活動を背景に、一部のブランドや起業を除いて日本の農業に壊滅的なダメージを与える可能性をもっている。さらにTPPは農業だけでなく、医療・労働・保険・知的財産・金融・環境など多岐にわたっており、社会生活全体に大きな影響を与えるものだ。
  かといって、TPP交渉や安倍政権の狙いを考えると現実的な対応策に迫られていることも事実である。部落の農業は、規模・環境(水利・立地)・高齢化などの決定的な問題をかかえており、そうした状況をふまえ、集約(耕作放棄地の作業などの代行もふくめ)、広域的な産地・(流通)・消費地を結ぶネットワークの構築を基本にしたアグリビジネスなどの起業化を早急に検討することと、地域での活性化に向け老朽化した共同利用施設・設備の更新と運営の効率化をはかることを柱にとりくみをすすめなければならない。

 TPP交渉の影響によって、畜産(牛・豚)および食肉も大きな打撃をうける。農水省との交渉のなかで、何の対策も講じなかった場合とことわったうえで、「生産高が、約9千億円のマイナス」と試算しているという話がだされた。畜産・食肉は、歴史的にも実態的にも部落の主要産業である。しかし近年、輸入肉の増加とBSEなど安全性の問題の影響による消費者離れもからみ、厳しい経営状況が続いている。全国的にみても「屠畜・食肉処理場」が減少し、開店休業状態のところも少なくない。TPPによる安価な輸入肉の市場への大量流入によって決定的な状況に陥る可能性がある。こうしたことをふまえ、「畜産・食肉産業を守るための対策」を農水省に強く迫ってきたが、「まだTPP交渉の結論が出ていないので」というこたえに終始するだけであった。
  こうした部落の農業や畜産・食肉業の状況をふまえ、あらためてTPP交渉の動向をみきわめつつ、厳しい状況に立たされている部落の農業、畜産・食肉業界を守るため、起業化・ブランド化への検討をすすめるとともに、施設設備の近代化や所得保障の充実と枠の拡大などの支援策を要求することが必要である。そのためにも、各都府県運で農業、畜産・食肉業界の状況の把握と交渉をすすめるとともに、農水省への交渉を強力にすすめるためにも、全国の実態と要求の集約を急がなければならない。

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