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ヘイトスピーチを許さない共同の闘いの輪を広げよう

「解放新聞」(2014.08.11-2678)

 大阪高裁(森宏司裁判長)は7月8日、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)による京都朝鮮第一初級学校襲撃事件にたいする民事訴訟の控訴審で、一審の京都地裁判決(2013年10月7日)を支持し、再び在特会にたいして1226万円の支払いと学校の半径200㍍以内での街宣禁止を命じた。
  事件の経過を簡単にふり返ってみると、在特会は2009年12月4日から3回にわたり、京都朝鮮第一初級学校の校門前で、「朝鮮人をたたき出せ」「北朝鮮のスパイ養成所」「朝鮮学校、こんなものはぶっ壊せ」「犯罪者に教育された子ども」などと拡声器で脅迫する卑劣なヘイトスピーチの襲撃をおこない、教育活動を妨害した。そのうえで暴挙の一部始終の映像をインターネット上で公開した。これにたいして学校側は幾多の困難を克服して、デモ参加者の一部を相手に損害賠償請求訴訟を京都地裁に起こすとともに、街宣参加者を刑事告訴した。この告訴にもとづいて在特会の副会長ら4人が逮捕・起訴され、2011年4月に懲役1年から2年の有罪判決がいいわたされたが、いずれも執行猶予がつく軽いものだった。
  いっぽう、民法上の損害賠償請求について京都地裁は2013年10月7日、1226万円の支払いと200メートル以内の街宣活動を禁止する判決を出した。判決は、在特会のヘイトスピーチにたいして「示威活動で児童らを怖がらせ、通常の授業を困難にし、平穏な教育事業をする環境を損ない、名誉を毀損した」だけではなく「在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴える意図がある」として、「日本が加盟する人種差別撤廃条約が禁じた「人種差別」に該当する」と違法性を認定した。また、「街宣活動による物品の損壊など経済的な面だけでなく、業務の運営や社会的評価に対する悪影響など全般に及ぶ」と指摘し、「差別行為に対する効果的な保護と救済措置となるような高額の損害評価が必要」と踏み込んで1200万円の高額な賠償を命じた。
  在特会はこの判決を不服として、「街宣は朝鮮学校側が公園を無許可で占有していた特定の集団への優遇措置を批判する正当な政治的表現活動であり、公益性があった」などと居直り、控訴していたが、大阪高裁は一審判決を支持し、在特会の控訴を棄却した。

 7月8日の大阪高裁判決は、全国に拡大するヘイトスピーチを厳しく断罪するきわめて重要な意義をもつ判決となった。
  まず第1に、基本的に京都地裁の判決を踏襲しつつ、原告の朝鮮学校の意義と重要性の主張にたいして、「朝鮮人学校を設置・運営して在日朝鮮人の民族教育を行っていたこと、……民族教育を軸に据えた学校教育を実施する場として社会的評価が形成されている」とこれを認めたことだ。判決は、「学校における教育義務を妨害され、学校の教育環境が損なわれただけではなく、我が国で在日朝鮮人の民族教育を行う社会環境も損なわれたことなどを指摘することができる」と踏み込んだ評価をおこなった。
  第2は、ヘイトスピーチが差別にもとづく、暴力、脅迫、迫害であり、重大な人権侵害であると指摘したことだ。判決は、在特会を断罪するために「日本からたたき出せ」「ぶっ壊せ」「端のほう歩いとったらええんや」「キムチ臭いで」「約束というのはね、人間同士がするもんなんですよ。人間と朝鮮人では約束は成立しません」「解体しろ」「不達な朝鮮人を日本から叩き出せ」「保健所で処分しろ、犬の方が賢い」「卑劣、凶悪」「ゴキブリ、ウジ虫、朝鮮半島へ帰れ」などのヘイトスピーチを列挙し、差別にもとづく、暴力、脅迫、迫害であ雪壷大な人権侵害であると指摘した。
  判決は、「これらは在日朝鮮人を嫌悪・蔑視するものであって、その内容は下品かつ低俗というほかはない。しかも、その態様は、多人数で、多数の児童らが在校する日中に、いきなり押しかけて拡声器を用いて怒号して威嚇し、街宣車と拡声器を使用して声高に叫んで気勢を挙げ、広範囲の場所にいる不特定多数の者らに聴取させたというものである」と批判し、「強い違法性が認められる」と厳しく断罪した。
  第3は、インターネットの動画配信にたいしても言及したことだ。インターネット動画配信についても、「その全体を通じ、在日朝鮮人及びその子弟を教育対象とする被控訴人に対する社会的な偏見や差別意識を助長し増幅させる悪質な行為であることは明らかである」と糾弾した。
  第4は、「表現の自由」についても、濫用だと明確な結論を出したことだ。判決は、「人種差別という不条理な行為によって被った精神的被害の程度は多大であったと認められ、被控訴人(学校)は、それら在校生たちの苦痛の緩和のために多くの努力を払わなければならない」、(在特会の)「活動は、教育業務を妨害し、学校法人としての名誉を著しく損なうものであって、憲法13条にいう「公共の福祉」に反しており、表現の自由の濫用であって、法的保護に値しないといわざるを得ない」と結論づけた。
  第5は、人種差別撤廃条約が禁じた「人種差別」に該当するとしたことだ。一審、二審判決は、人種差別撤廃条約の観点から在特会の行軌が、「示威活動で児童らを怖がらせ、通常の授業を困難にし、平穏な教育事業をする環境を損ない、名誉を毀損した」だけではなく「在日朝鮮人に対する差別意識を世間に訴える意図がある」として、「日本が加盟する人種差別撤廃条約が禁じた「人種差別」に該当する」と厳しく批判した。

 ところでヘイトスピーチに関して、これまで日本政府は、「処罰立法を検討しなければならないほどの人種差別煽動は日本に存在しない」「憲法は表現の自由を保障している」「現行の法体系で十分な措置である」などと、事実上ヘイトスピーチを擁護してきた。一審判決直後、菅義偉・官房長官は「こうしたこと(在持会の行為)がないように、関係機関において法令に基づいて適切に対応したい。政府として、関心を持っていきたい」などと空ぞらしい見解を表明していたが、今回の高裁判決は集団的自衛権の行使容認という名の戦争路線を突っ走り、中国や朝鮮半島への差別を煽動してきた安倍政権の差別排外主義に打撃を与えたことは間違いない。安倍政権は度重なる国連からの勧告を無視し、いまだに人種差別撤廃条約の第4条(a)、(b)項(人種差別表現や人種差別を目的とした団体を処罰の対象にしている)の留保の撤回と承認をおこなっていない。
  私たちは、全国大会で「ヘイトスピーチに対抗するとりくみを強化します。とくに「のりこえねっと」の活動への協力、支援をすすめ、差別を許さない反差別・人権情報発信などにとりくみます」という方針を決めた。これにもとづきヘイトスピーチを包囲するたたかいの輪をひろげるとともに、今回の判決をふまえ個人や団体による人種差別を許さないとりくみを、さらに強めていこう。そのうえで差別被害者の救済などを包括する法律、なかでもヘイトスピーチに焦点を当てた法の制定も共同の闘いとして強く迫っていこう。

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