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部落問題資料室
NEWS & 主張

戸籍事務の民間委託撤回を
都連足立支部が区交渉で

「解放新聞」(2014.10.20-2687)

14年1月からの委託実施に

「本人通知制度」の導入も要請

  【東京支局】部落解放同盟足立支部は8月26日、足立区戸籍住民課と「戸籍住民票の外部委託」問題で、交渉をもった。区は昨年12月と本年2月の足立支部との来年度予算要求に向けた交渉で、総務部長から「人権に十分配慮をしたうえで、戸籍住民票の事務を民営化する」「そのことによって、(足立支部側が強く要求している戸籍謄本等の不正取得を防止するための)本人通知制度の導入も検討できる」との趣旨の発言がおこなわれた。民営化によってできた人的余裕を「本人通知制度」に回せるかのように聞こえる発言であった。
  足立支部としては、区の職員ですら第三者による不正請求・取得を見破ることが難しいのに、民営化でより困難になるのでは、との疑問や、戸籍や住民票の漏えい、民間企業の個人が差別や人権侵害につながる恐れのある情報を知ることになるが問題ないかなど、その時点ではいくつかの疑問を提起するにとどめた。
  足立区は本年1月から「富士ゼロックスシステムサービス㈱」に委託し、申請受理や証明書交付などの判断をともなうものは区の職員がおこなうが、窓口での書類審査などは同社がおこなうとして、スタートさせた。

法務局・労働局から改善命令
  ところが、その後の新聞報道などで明らかになったことによれば、本年3月東京法務局から、区の職員が判断する前に、事実上委託先の民間業者が判断しており、「戸籍法に違反する」との指摘があり改善命令がだされた。これに足立区は、民間業者が届け出を受け付け、必要事項をコンピュータに入力し、判断は区の職員がおこなうとの改善をおこなったとしていた。
  しかし、さらにこれにたいして東京労働局から「労働者派遣法」違反の「偽装請負にあたる」として、是正正指導をうけた。「判断をともなう事態がおきたとき、区の指示がなければ委託側の職員が動けない状況は、直接の指揮命令と同じ」で、偽装請負といわれる。「労働者派遣法等に定められた派遣元(受託者)・(発注者)のさまざまな責任が曖昧になり、労働者の雇用や安全衛生面など基本的な労働条件が十分に確保されないということがおこりがち(東京労働局ホームページより)」であるとされている。
  足立区が東京法務局と東京労働局の指摘をうけ、どのように改善をおこない、戸籍の外部委託によって生じる差別や人権侵害につながる恐れが払しょくされたのか、この交渉で詳しい説明を求めた。
  浜田戸籍住民課長は「戸籍謄本等の第三者請求など判断がともなうものは区の職員がおこなう」と回答し、司法書士や行政書士などの八士業による住民票や戸籍謄本等の請求には、判断がともなうのでコンピュータへの入力もふくめ、直接区の職員がおこない、判断がともなわない受付業務のみ、委託業者がおこなうよう改善したと説明。「委任状」による請求や本人確認をともなうもので判断の要するものなども直接区の職員がおこなうとした。

あとをたたない不正票と取得
  足立区では戸籍謄本等不正請求・取得があとをたたない。2005年4月に兵庫と大阪で発覚した事件では大阪の興信所からフロッピーディスクに入力された「部落地名総鑑」が見つかった。不正取得された戸籍謄本等と照合された可能性が強く、大きな問題となったが、足立区からも4通の不正取得が確認された。続いて2008年8月、横浜の興信所の依頼(この依頼人はその後のプライム事件でも名前があがった)による三重県の行政書士の事件では住民票1通の不正取得が明らかとなった。さらに、2011年の「プライム事件」では、戸籍謄本20通、住民票20通の計40通の不正取得が発覚した。これらの数字はすべて1年以内に請求されたものであり、それより以前のものは記録に残っておらず、実際はその数倍、数十倍の不正取得がおこなわれた可能性がある。足立区は不正請求・取得が確認された場合は、「本人告知」をおこなってきた。しかし、本来はこうした不正請求がおきない制度が求められている。
  「不正請求・取得が確認された場合」という制度では、不正を根絶することができないため、足立支部では「第三者請求があった場合は全員に通知すべきだが、それができないなら、登録型本人通知制度を採用すべき」と要求してきた。

区の改善策にも多くの疑問が
足立区は今回の改善で「判断をともなわない入力などの事務的な作業に限定して、外部委託をおこなう」としているが、多くの疑問が残る。
  ベネッセによる数百万件の個人情報の漏えい事件は、大きな問題となった。ベネッセの非正規職員が本来はアクセスできないはずの個人情報の入ったサーバーにアクセスし、それを名簿業者に販売し、さらに転売されているという。それと同様のことがおきないという保証はない。
  戸籍謄本の申請には本籍をはじめ差別につながる個人情報があつかわれるが、その内容は当然委託先の社員に知らされることになる。この社員が委託契約した企業から転職する可能性もあり、その場合に公務員と同様の守秘義務を課すことができるのか。
  これらの疑問については、12月におこなわれる定例の交渉で、回答をもらうこととし、最後に民間委託の撤回と本人通知制度の導入を要請し交渉をおえた。


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