部落の農林業、畜産・食肉産業の育成施策強化とあらたな展開を
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日本の農林漁業がいま、大きな岐路に直面している。日本の農家の耕作地が中山間地の小規模・零細で占められ、農業だけでは生活できないという第二種兼業が圧倒的に多い。従事者にしても高齢化に歯止めがきかない状況で、国の農業政策の矛盾と相まって、耕作放棄地が増加してきている。また、漁業も燃料などのコスト高の問題や慢性的な後継者不足が続いている。こうした状況に加えて、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)が大きな影響を与えようとしている。TPPは、関税の撤廃をはじめ自由貿易にかかわるすべての項目をカバーする包括的な内容の協定であるが、メリットとデメリットがあり、とくに日本の農業が壊滅的な打撃をうけるといわれている。
交渉全体の動きとしては、大詰めに差しかかっているといわれるいっぽうで、農業重要5品目(コメ、麦、午・豚肉、乳製品、砂糖の原材料)をめぐる日米の綱引きにたいし、他国から結論を急ぐ声が高まってきている。また国内でも依然として推進派と反対派の攻防が続いている。
しかし、現実的には、交渉は日本側の妥協で終わっており、あとは関税の撤廃に向けたスケジュールの調整だともいわれている。そして、推進派の多くがアベノミクスによって利益をあげている業種・業界であることも事実である。
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さて、安倍内閣は、TPPを既定路線として、企業参入を中心とする農業関係法の改正をふくめた準備がすすめられており、「特区」の指定もそうしたことの一つである。しかし、食糧自給率50%目標が、20%まで落ちこむと想定されるとともに、「食の安全性」や農村の「防災・環境保全機能」やコミュニティの崩壊という深刻な事態も予想されている。こうしたことを無視した経済的な論理(経済のグローバル化、市場の開放)が先行していることに強く反対していかなければならない。しかし、現実の問題として、国の農業政策などを見据えた対応が迫られていることも事実である。
部落の農林漁業は、日本の農林漁業の実態や課題を集中的にかかえている。こうした状況のなかで、ライスセンター・育苗施設・共同作業所・農機具など共同利用施設を導入し、活性化へのとりくみがすすめられてきている。また高知・香川・和歌山など漁村をかかえる地域でも漁船・港湾整備や共同利用施設などのとりくみを通じて漁業権の獲得などの成果をあげてきたが、コストの高騰や後継者不足という状況にある。こうした状況をふまえ、これまでのとりくみをもとに、あらたな情勢や継続的な課題にたいするとりくみが急務である。
たとえば、これまでもさまざまな共同利用施設や農機具の老朽化にたいする要求が多い。「経営体育成支援事業」の活用をはかることが重要だが、単純な建替えや更新、設備の充実をはかるだけでなく、近代化や効率化はいうまでもないが、高齢化や後継者問題などの原因による耕作放棄地の問題もふくめ、あらたな起業化(アグリビジネスなど)も視野に入れたとりくみが必要である。
また、畜産(牛・豚・鶏)および食肉もきわめて厳しい状況にある。農水省の試算で「生産高が約9000億円のマイナス」といわれている。畜産・食肉は、歴史的にも実態的にも部落の主要産業である。しかし近年、輸入肉の増加とBSEなど安全性の問題の影響による消費者離れもからみ、厳しい経営状況が続いている。全国的にみても「と場・食肉処理場」が減少し、開店休業状態のところも少なくない。こうした状況のなかで、TPPによる安価な輸入肉の市場への大量流入によって決定的な状況に陥る可能性がある。
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以上、部落の農林漁業、畜産や食肉にかかわる厳しい現状と課題をふまえ、農林漁業運動を強化しなければならない。全国の部落の状況をみるといわゆる「食」にかかわる地域や関係者が相当数存在するが、運動のなかに結集できていないのが現状である。さらに「実態」を十分把握できていないのも事実である。この大きな原因が、それぞれがかかえる課題にたいして、運動の側が「政策」として異体的な方向性を十分に提起できていないことがあげられる。そうした意味で、当事者や研究者を中心にした「政策提言」の機能を確立する必要がある。また、同時に生産者のネットワークの確立も急務である。そうした意味でも各都府県連でのとりくみを強めるとともに、農業、漁業、畜産・食肉業界の状況の把握と要求の集約をおこなわなければならない。
今後の運動の方向性として、要求や課題の集約をもとに、農水省などとの行政交渉を強力に展開し、具体的に部落の農林漁業、畜産や食肉の育成をはかる施策を確立していかなければならない。また同時に、厳しい現状をふまえ、起業化などあらたな展開への異体的なとりくみを強力に展開していく必要がある。
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