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部落問題資料室
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滋賀全人保で人権保育運動の現状と課題を明らかにし、解放保育・人権保育の豊かな創造をめざそう

「解放新聞」(2014.11.17-2691)

 子どもが性犯罪の被害や、虐待をうけて命を落とす痛ましい事件が各地でおこっている。
  2012年度の1年間の児童虐待死亡事例件数は、心中を除く虐待死が51人と1週間に1人の子どもが命を落としている。また、2013年度に厚生労働省が発表した全国の児童相談所で対応した児童虐待相談対応件数は、7万3765件(速報値)となり、過去最多を更新した。件数が増加したことについて厚生労働省は、児童虐待にたいする社会的な関心が高まり、匿名もふくめた近隣住民などの通報や情報提供が増えたことを大きな要因とみている。
  子どもの基本的人権を保障するために定められた「子どもの権利条約」が国連で採択され、本年11月20日で25年をむかえる。しかし、いまだに世界の多くの児童(18歳未満)が、今日も、飢え、貧困等の困難な状況におかれている。
  「子どもの権利条約」は、児童の人権の尊重、保護の促進をめざしたもので、2014年現在、194の国と地域がこの条約を締結している。この条約は、歴史上もっとも多くの参加をえている人権条約であり、この25年の間に「国際的に子どもを大切な存在」と位置づけ、多くの子どもの命と成長を守っている。日本はこの条約に批准し20年になるが、まだまだ子どもをとりまく状況は厳しい現状がある。

 今年7月に発表された国民生活基礎調査で、2012年に日本の子どもの貧困率が16.3%となり、社会全体(大人もふくめた)貧困率の16.1%を上回った。また世界的にみても、日本の子どもは6人に1人が貧困という状況のなかで、ひとり親世帯の貧困率は54.6%ときわめて高い数値となっている。所得についても、国民平均所得額は537万2000円で1988年以降、もっとも少なく、生活していくうえで、子どものいる世帯の65.9%が「苦しい」と回答している。このような深刻な状況のなか、昨年6月、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が議員立法により成立し、本年1月に施行された。本年8月には、「子供の貧困対策に関する大綱~全ての子供たちが夢と希望を持って成長していける社会の実現を目指して」が閣議決定された。この大綱には、「子供の将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、また、貧困が世代を超えて連鎖することのないよう、必要な環境整備と教育の機会均等を図る子供の貧困対策は極めて重要である」と記されている。
  また、当面の重点施策として「教育の支援」「生活の支援」「保護者に対する就労の支援」「経済的支援」の4分野で支援策がまとめられた。具体的には、幼児期から高等教育段階まで切れ目のない教育費負担の軽減をめざす、幼児教育の無償化に向けた段階的とりくみである。さらに、学校を支援のプラットホームと位盛付け、「つなぐ」をキーワードとした、スクールソーシャルワーカーの増員など、五つの「充実する」対策の推進と奨学金については、卒業後の収入に応じて返還額が抑えられる所得連動型奨学金の検討などを打ち出した。
  子どもの貧困の背景にあるのは保護者の貧困である。安倍政権のすすめる消費税増税や生活保護費をはじめとする社会保障費の削減、労働法制の改悪は、よりいっそう、格差・貧困問題を深刻化させている。とくに、非正規雇用者拡大につながる「労働者派遣法」の改悪は、安定収入につながらず、安心して妊娠・出産・子青ができる環境とはいえない。安倍首相は「すべての子どもたちが夢と希望をもって成長していける社会の実現をめざしていく」と強調するが、戦争へと向かう現政権のもとでは、子どもたちが夢と希望をもち安心して健やかに成長していくことなどきわめて難しい。


 2013年の合計特殊出生率は1.43と2年連続上昇したが、出生数は前年より7400人減り、過去最少の102万9800人と人口減少はすすんでいる。また、希望する認可保育所に入れない待機児童は2万人をこえ、働きたくても働けない状況が続いている。仕事(ワーク)と生活(ライフ)の両立が可能となるような社会の実現をめざすためにも、育児・介護休業や各種休業制度の充実など、職場の環境づくりをはじめ、家庭や地域での活動を男女がお互いに担い、意欲と能力を十分に発揮できるような、それを支える制度やシステムを構築することが必要だ。
  子育て支援が不十分である現在、子どもや子育てをめぐる環境は厳しい。子どもや子育てをめぐるさまざまな課題解決に向けて、2012年「子ども・子育て支援法」など関連3法が成立し、それらの法律にもとづき来年4月から「子ども・子育て支援新制度」が本格施行される。新制度により、これまでの保育制度が大きく変わろうとしている。すべての子ども・子育て家庭を対象に、幼児教育、保育、地域の子ども・子育て支援の質・量の拡充をはかるとしている新制度だが、施行まで数か月となったいまもなお、保育士不足や財源確保の問題などといった課題が山積している。

 被差別部落女性の仕事保障の闘いとしてとりくまれた解放保育運動は、差別を見抜き・差別を許さない子どもに育ってほしいという願いから、子どもの生きる権利として、その成長を保障するとりくみをすすめてきた。このとりくみは、一人ひとりの子どもと保護者の生活や地域の課題へとつながり、地域ぐるみの子育て運動として拡がってきた。これまで積み重ねてきた解放保育運動の実践を、すべての子どもの育ちを豊かに支えていく子育て運動へと発展させるため、全国解放保育研究集会から全国人権保育研究集会へ名称変更して5年となる。
  私たちはいま一度、人権保育運動の原点を確認するとともに、子どもの「最善の利益」を考え、すべての子どもたちが0歳からの全面発達が社会的に保障されるとりくみを強化しなければならない。さらに、いじめ、不登校が増えている現在、解放保育が大切にしてきた、人権を大切にする心を育てる保育のはたす役割はますます重要だ。子どもたちに集団生活や命の大切さの学習、相手の気持ちを考え行動できる子どもたちの育成をめざし、保育所・学校・家庭・地域が一体となってとりくむ必要がある。
  11月29、30日の二日間、滋賀県での開催が2回目となる第37回全国人権保育研究集会では、全国各地の実践をもとに、論議と交流を深め、解放保育・人権保育運動をより豊かに発展させよう!


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