『京都』
したたかで切ない空気を醸し出す街
黒川 創 著 新潮社(定価1800円)
本書は、京都の4つの地域を表題にした連作集。13、14年にかけて文芸誌『新潮』に掲載された。雅なイメージがつきまとう京都の半世紀を市井に生きた人たちの記憶で語る。
「深草稲荷御前町」、「吉田泉殿町の蓮池」、「吉祥院、久世橋付近」、「旧柳原町ドンツキ前」という地名は、京の人は騙らずともあるイメージがよみがえる地名だ。器用ではないが個性ある登場人物はどこにでもいそうな人たちだ。何気ない日常だが、被差別者たちが寄り添いながら、したたかだが少しばかり切ない空気を醸し出す。「吉田泉殿町の蓮池」では、朝田善之助がでてくる。名前を知らぬ若者もいるという時代。私も会ったことはないが、83年の同盟葬には立ち会った記憶がよみがえる。
京都は…「おのれより下位に属すると見傲す者たちへの冷たい眼差しは陰にこもって険がある…田舎者ばかりが住む明るい江戸に移ってから膏にしみて分かってきた」と本書の感想をブログでいう人がいる。私の妹分は京都で生活をしている。職場でのさりげないふりをした悪意ある差別に弱音を吐いたことがある。ひろい京都の町のひとかけらの人生だが、闇が深いほどに小さなきらめきがいとおしい。(安)
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