ロマの音楽の現地に飛び込んで
トランペットを吹き鳴らせ！

吉開　裕子　著 共栄書房/定価1500円

　サブタイトルの「ジプシー音楽修行記」の文言に眉をひそめる向きもあるかもしれない。著者は、いまでは「ロマ」の語を用いるのが一般的だが、日本では「ジプシー」にたいしてヨーロッパほど悪いイメージがなく好意的に使っているとし、「ロマ」と両方を使うと断っている。ヨーロッパでのロマ差別の激烈さは日本では理解しがたいものがあり、ロマ差別について書かれた本を探してみた。しかし、最近ではないようで、代わりに見つけたのが本書だ。
　 ロマ音楽に魅入られ演奏しはじめて３年半の女性トランペッターが、言葉もわからず情報もほとんどないまま、フェイスブックを通じてセルビアの音楽学校に連絡をとり、単身セルビアに乗り込む。そこで出会ったロマ音楽のトランペッターたちとその家族・仲間、近隣の人びと…。見ず知らずの、それもめったに見かけない日本人に、かれらは実に親切で温かい。その細やかな気遣いの心と切り離せないところにロマの音楽がある、と彼女はいう。音楽は言葉をこえるというし、旅行者という立場もあるだろう。しかし、それを差し引いても、人と人として真っ直ぐに向きあう姿勢こそが、差別から最も遠いところにあるのだと感じさせられる。　（く）