「部落地名総監」差別事件発覚から40年が経過した。改めて事件をふり返ってみる。
「部落地名総鑑」の存在が明らかになったのは、1975年のことだ。部落解放同盟大阪府連に送られてきた匿名の手紙によってその存在が明らかになった。
企業防衛懇話会(理事長・京極公大)なるものが、企業の人事担当者に「特殊部落の所在地(全国五六〇〇部落)」の「旧市町村名-新市町村名、部落の大字名、部落の小字名、部落毎の世帯戸数、従事職業」を書いた『人事・特殊部落地名総鑑』を特別頒布価格3万円で送付する、というダイレクトメールを送りつけてきたのである。
ダイレクトメールには、戸籍の公開制限は「国民の得られる利益を甚だしく失わせるもの」であり、「これらの人々(部落民のこと-引用者注)の採用が果たして妥当であるかどうかということは、封建時代のイデオロギーとして残されたものであり問題ではないとすますことが出来るでしょうか」と公然と部落差別を煽った。
差別図書「特殊部落地名総鑑」の発行者・販売者であるTは1977年4月6日午後4時、中央本部のよびだしに応じ、本部事務所に来た。2時間にわたって、Tに1地名総鑑」発行、販売の動機、事実経過などを問いただした。
このときのTの回答を再録する。
発行販売者Tの回答
4月6日の事実確認会で発行販売者Tが答えた内容はつぎのとおり。
一、兵庫県姫路市出身。現在、57歳。東京には13年前に出てきた。いらい、興信所、出版社関係の仕事やコンピュータのソフトウエアの仕事もしてきた。現在は企業防衛懇話会という興信所をひらいており、社員は他に二人いる。毎年、4000人ほどいる総会屋や右翼関係のリストを発行している。
一、自分の興信所に年1、2回、「部落リスト」のチラシが送られてくる。東京、大阪からが多い。
一、この仕事をしていて、世間の人は本音と建て前が違うことを感じ、部落の所在地名を新旧対照して、本にして出せば売れると思い、助平根性を出してやった。はっきりいって、年配の人や企業の人などから「何も調べなくてもよい。あの問題だけ調べてくれ」という依頼が多い。東京でも多くある。
一、資料の入手先は大阪の労働問題研究所からで、チラシを見てからかなりたった1971年ごろ申し込み。現物は東京駅で受け取った(注‥労働問題研究所は「第三の地名総鑑」を発行、販売したところ)。
一、その現物は3、4年放っておいた。本をつくるとき、大阪に行って労働問題研究所のN、Yという男に会った。労働問題研究所の「リスト」は1旧住所名だったので、新住所を京都・岡鹿の図書館などで調べて編集した。「地名総鑑」では長野、東京、大阪、広島……の分は大部削った。愛媛の分は忠実に載せた。
一、この本は、東京・港区にあるタイプ印刷所に注文し、500冊つくった。チラシに使った企業防衛懇話会・京極公大、企業人材リサーチ協会・楠征一は偽名。
一、「地名総鑑」は53冊売れ、うち売り先のわかっているのが52冊、あとの1冊は、連絡してきた男に東京駅で直接売り、相手の名刺を燃やしてしまったのでわからない。法務省には395冊提出した。残り52冊は、1975年12月8日、大阪で解放同盟が報道機関に発表したあと、すぐに中央区の事務所から中野区の自宅まで車で運び、近くの空き地で消却した。
一、確かに、12月8日の夕方、2、3時間かけて焼いた。なかなか燃えず、灯油をかけたりしながら、大変だった。
一、法務省の調べには、はじめ全部で400冊だと、うそをいっていた。500冊以上発行したということは、絶対ない。他の総会屋にも渡していない。
一、当時、社員のMも売り歩いており、石川、富山などはそのとき売った。訪問先は日報に書いており、後日見せる。
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