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ヘイトスピーチの根絶に向けて、全国的なとりくみを強めよう

「解放新聞」(2015.07.20-2723)

 東京都新宿にある新大久保のコリアタウンには、韓国スターの写真などの土産物をあつかう200軒もの店舗が並ぶ。経営者はほとんどが在日韓国・朝鮮人だ。この新大久保で、「よい韓国人も悪い韓国人もどちらも殺せ」「寄生虫、ゴキブリ、犯罪者」「韓国人を絞め殺せ」などのプラカードを掲げてヘイトスピーチがくり返され、「お散歩」と称した店舗への嫌がらせや差別デモがおこなわれている。
  東京都公安委員会が許可したデモ隊の周囲を警察官が取り囲み、差別に反対するカウンター行動から、この差別デモを保護しているようにもみえる。差別デモは、大阪市内の鶴橋をはじめ全国各地でおこなわれているが、差別煽動を禁止する法律がないため、これらのヘイトスピーチ、差別デモは放置されたままだ。
  日本も批准している「人種差別撤廃条約」では公的機関は人種差別撤廃の責務を負っているが、公務員への差別撤廃に向けた教育はまったくとりくまれていないのが実態だ。



 日本でのヘイトスピーチやヘイトクライム(憎悪犯罪)は、韓国や北朝鮮との外交問題が生じるたびにおきてきた。朝鮮学校の子どもたちは「朝鮮人、死ね」と怒鳴られながらチマチョゴリを切られ、唾を吐きかけられるなどの被害をうけてきた。子どもたちは身も心も傷つけられたが、その苦痛に関してほとんど報道されず、加害者への厳しい処罰もなかった。
  2009年には、京都朝鮮第1初級学校(当時)へ「在特会」が押しかけヘイトスピーチをくり返す差別襲撃事件がおこり、子どもたちは、夜泣きや、廃品回収の拡声器にも「怖い」と泣き出す「心的外傷後ストレス障害」に悩まされた。親たちも幾世代にもわたる被差別体験、虐殺され、排斥され、暴行され、差別されてきた体験を想起する。ヘイト攻撃は、まさに被差別マイノリティへの「魂の殺人」である。
  こうしたヘイトスピーチにたいして、朝鮮学校の保護者たちは民事訴訟をおこし、不法行為にたいする損害賠償を請求した。京都地裁の判決(2013年10月)では、「人種差別撤廃条約の人種差別にあたる」として、条約第6条を適用し、「人種差別に基づく犯罪は罪を加重できる」として1220万円という高額な損害賠償を認め、最高裁で確定した。今後の課題は、特定個人にたいするヘイトスピーチは不法行為で、侮辱罪などが適用されるが、「朝鮮人殺せ」などの不特定多数にたいするヘイトスピーチは現行法では規制できず、あらたな法的対応(差別禁止法など)が必要だということである。
  2011年1月の水平社博物館への差別街宣事件でも同様である。「穢多博物館」「非人博物館」「出てこい、穢多」などの差別街宣をくり返したことにたいし、民事訴訟で、奈良地裁は「穢多、非人が不当な差別語であることは公知の事実」として名誉毀損にあたるとした。しかし、こうした差別街宣そのものが法的に断罪されることはなかったのである。


 1984年に国連は「世界人権妻戸と同時にジェノサイド条約を採択した。ヘイトスピーチがくり返され、ジェノサイド(大量虐殺)や戦争がひきおこされた歴史への共通認識にもとづくものである。ジェノサイドにつながるヘイトスピーチはもっとも危険であり、犯罪として処罰する立法を求めている。
  1965年、アパルトヘイトやネオナチ運動の台頭にたいして、国連は、人種差別は、人間の尊厳にたいする犯罪として「人種差別撤廃条約」を採択し、あらゆる形態の人種的差別と闘う決意を表明した。条約第2条の基本的義務は、人種差別を禁止し、終了させるとし、第4条は、差別を犯罪として処罰するとした。
  1995年、日本政府はようやく条約に加入したが、条約の中核である第4条を留保したままである。
  憲法の表現の自由と結社の自由の権利が侵害されることを懸念したからという政府の消極的姿勢が、ヘイトスピーチを容認していると理解され、悪質な行動を支えているのだ。国連人種差別撤廃委員会は、一般的勧告35(2013年)を採択して、表現の自由と差別禁止法について整理し、ヘイトスピーチは表現の自由で守るべき法益ではなく、処罰すべき犯罪であると明確にした。重大なものは刑法的規制で処罰するが、民法的規制や行政的規制、人権教育などあらゆるとりくみによっで根絶することを要請している。

 2014年7月の自由権規約委員会の最終見解、同年8月の人種差別撤廃委員会の最終意見は、ともに、日本政府にたいして、外国人やマイノリティ、とりわけ韓国・朝鮮人にたいし、暴力をふくむヘイトスピーチが広がっていることを懸念し、包括的な差別禁止法制定など適切な措置をとるよう勧告した。しかし、政府のとりくみは消極的で、法務省が「ヘイトスピーチ、許さない。」のポスターなどで広報をしているのみで、相談窓口での無責任な対応も問題になっている。
  もちろん法律は万能ではないが、法律によって、ヘイトスピーチは許されない悪質な犯罪行為であることを宣言することでの抑制効果は期待できる。国にヘイトスピーチの法規制を求める意見書採択は、国立市議会からはじまり、奈良県や京都府、福岡県などの18府県議会をふくめて全国で124自治体の議会に広がっている。大阪市では本年2月に人権施策推進審議会が答申を出し、「ヘイトスピーチへの対処に関する条例案」が議会に提出されたが、「表現の自由を侵害しかねない」などの意見が出され継続審議になっている。
  国会でも5月22日に、民主党・社民党などの超党派で構成する「人種差別撤廃基本法を求める議員連盟」が、規制の部分を削除した宣言法的な「人種差別等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律案(人種差別禁止基本法)」を議員立法として参議院に提出した。
  一方、政府はヘイトスピーチ全国調査実施を表明し、自民党と公明党の与党は「ヘイトスピーチ対策の必要性」を認めている。ヘイトスピーチの問題は、私たち自身に問われている喫緊の人権課題でもある。各党が今国会での成立を実現するように、最大限の努力をするよう求めるとりくみを強めよう。


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