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部落と周辺が一体となったまちづくり構想のもとに地域からとりくみを

「解放新聞」(2015.07.27-2724)

 2015年の本年は、「同和対策審議会」答申から50年目の節目の年をむかえる。
  この年にあたり「同対審」答申で打ち出された精神を現代にいかし、「日本国憲法」の理念を次代に引き継ぎ、「差別解消」の旗を打ち立て多様な価値観を認めあっていくような社会づくりに向け、まい進していくことが求められている。
  「同対審」答申は、部落問題が人間の尊厳を侵すものであり、経済や社会、文化などの社会的要因があること、心理的差別や実態的差別を認識し、社会的関係の差別であることを指摘し、その後の部落解放運動の大きな糧となったことはいうまでもない。また「同対審」答申は今日、あらたに打ち出されてきているさまざまな社会政策のバックグラウンドともなっている。生活困窮者自立支援法、障害者権利条約、障害者差別解消法などに具現化されている内容は、まさに「同対審」答申の精神が時代をこえて、さまざまな分野での社会的排除の解消や差別解消に引き継がれているといえるものである。


 「同対審」答申から4年後の1969年には、同和対策事業特別措置法が制定され、じつに33年間にわたる〝事業法″の実施により、部落の環境改善は劇的な変化をとげ、実態的差別の側面はいちじるしい改善をみたところである。
  しかし、答申が強調した「総合対策」としての側面は弱く、現在もその課題の解決にはいたっていない。法期限後も一般地区との格差や貧困の課題が顕著にあらわれており、公営住宅の建設・個人給付事業など、同和対策事業は成果をあげ、部落の貧困課題を一定克服したが、公営住宅法の改定などにより、地区外からの社会的課題をかかえた人たちの流入がすすむなかで、あらたな貧困をよび寄せるという結果があらわれている。
  1960年代当時の被差別部落は、劣悪な環境を改善させなければならないという緊急性を要したため、「同対審」答申が求めた総合行政としての同和行政の性格が弱く、事業を中心とする地区の総合計画が優先され、ハード部分の改善に力が注がれたことは否めない事実である。しかし、60年代から70年代に建設された公営・改良住宅の老朽化は深刻であり、居住者の高齢化にともない、建て替え、一部屋増築やエレベーター設置などの住宅改善の予算確保についても、地方公共団体の財政難もあり、遅遅としてすすまない現状にある。
  しかも地区人口が減少の傾向にもあることから、全体の住宅戸数の確保が困難になってきている自治体や、高齢化の進行で住宅全体の自治が成り立たなくなってきている同和地区なども出てきており、全国的にみても同和地区のまちづくりが停滞してきているという現状をむかえている。


 こうした厳しいまちづくりの現状を改善しようという試みが全国各地ではじまってきている。一般的には、公営住宅・改良住宅の建て替え事業では、従前の居住者戸数を確保するというのが原則的だが、福岡のある地区では、敷地が大きく空き地もあることから、子育て世帯の受け皿を確保するという観点から多様な住戸を供給し、子育て世帯の誘導をはかり、コミュニティバランスの改善にとりくんでいこうという自治体があらわれたり、大阪では、子育て世帯の優先入居をはかるため、みなし特定公共賃貸住宅として位置づけ、目的外使用による選定基準を設けるなどの工夫がスタートしている。
  京都では、若年層の地区外流出にともなう人口減少や居住者の高齢化による地域コミュニティの弱体化というあらたな課題にたいして、地元まちづくり組織を立ち上げ、ワークショップに入居予定者や専門家、行政などが参加し、狭小化した住宅の建て替えによる住環境の整備を推進している地域もあらわれており、定期借地権付きコーポラティブ住宅の建設や持ち家住宅などを実現してきている。

 「同対審」答申以後の被差別部落のまちづくりは、公営・改良住宅の建設という手法に注目が集まり、全国各地で建設ラッシュがあいついだ。そして、全体的に老朽化をむかえ、建て替え事業が注目されている昨今である。
  しかし、自治体の財政難、政府による公共事業の見直しなどにより、建て替え事業が思うようにすすんでいない現状にあることは全国共通の課題でもある。ここは、各地域による知恵と工夫を発揮するときである。コミュニティバランス確保という基本理念を発展させ、専門家の意見を取り入れた地域のまちづくり運動をつくりあげ、公営・改良住宅の建て替えを、たんなる建て替え事業に矮小化するのではなく、このさい、住宅を統合することにより、生まれてくる余剰地などを活用した持ち家制度や定期借地権付きの分譲住宅などの建設も視野に入れたまちづくり構想を打ち立てることが求められている。
  行政の施策(公営・改良住宅の建て替え)という事業だけを求めるという行政闘争ではなく、若年層から高齢者世帯までバランスのとれたコミュニティとするため、同和地区をふくむ周辺と一体となったまちづくり構想を、各地協や支部が先頭に立って、誘導していくという発想が必要だ。
  行政にたいする施策要求は、行政の確認と予算を確保すれば順当にすすんでいく。しかし、住民的な合意を必要とするまちづくり運動は、合意形成に時間がかかる。ていねいにしっかりと議論を重ね、あらたなまちづくりを構想していく。そこにあらたな部落解放運動があることを自覚し、地域からしっかりととりくみをすすめていこう。


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