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第24回3者協議をふまえ、証拠開示、事実調べを実現し、狭山第3次再審を実現しよう

「解放新聞」(2015.08.24-2727)

 証拠開示とそれにもとづく新証拠の提出で狭山第3次再審闘争は、いよいよ山場にさしかかってきており、7月27日、東京高裁で第24回3者協議がひらかれた。今回の3者協議は、6月29日付けで就任した植村稔・新裁判長のもとではじめておこなわれた。新裁判長がどのような姿勢を見せるのかが注目された。植村裁判長は、証拠物や客観的な証拠は開示してほしいというこれまでの裁判所の基本姿勢を引き継ぎぐことを表明した。また、プライバシーの問題があるというのであれば、まず裁判所に提出し、裁判所が判断するという方法で証拠開示をすすめるという姿勢を示した。
  裁判長の交代で、支援者や弁護団は、従来の証拠開示路線が変更になるのではないかと心配していたが、ひとまずその心配はなくなったといってよいだろう。植村裁判長は、東京高検がもつ「証拠物リスト」の開示によって新しく焦点になった、それ以外の証拠物の一覧表の開示について、弁護団が出した意見書にもとづいて検討するとした。8ミリフィルムなど存在が明らかな証拠がリストにふくまれていない以上、すべての証拠物リストを開示することは、裁判所の方針からも当然のことといわなければならない。また、植村裁判長は「秘密の暴露」に関連した「車の追いこし」について、弁護団がY証言関係の証拠開示をさらに精査するよう求めた点で、検察官に検討を要請した。


 ところで弁護団は3者協議直前の7月24日、車の追いこしは捜査官の知りえなかった「秘密の暴露」ではない、とする新証拠と補充書を提出した。
  これまで狭山事件では、自転車に乗って脅迫状を届ける途中の鎌倉街道で自動三輪車に追いこされたという石川さんの自白にそって捜査した結果、それがYさんの運転する自動三輪車だと判明したとして、これが「秘密の暴露」にあたるとされ、寺尾判決では有罪証拠のひとつとされていた。このため弁護団は、今年5月に、Yさんや同乗した0さん、Tさんの1963年5月1日の行動や鎌倉街道を走行した車両に関する捜査書類などの証拠開示を求めた。
  これにたいして、7月21日付けで検察官は、1963年5月7日付け捜査報告書1適を開示した。開示された報告書は「手拭いの配布先」についての報告書であったが、0さんの家が手拭い配布先の1軒であったことから、0さんの5月1日の行動が記載されていた。それによると0さんはこの日、Tさん、Yさんとともに午後7時から同じ市内のHさん方に市議会選挙の当選祝いにいったと記載されている。ここでの問題は、捜査当局がこの情報を把握した時期である。つまり、問題になっているYさん運転の車が5月1日の夜に鎌倉街道を走行したことを、捜査当局は5月7日という初期捜査の段階で把握していたのだ。ところが捜査当局は、この事実を伏せたまま、石川さんの自白によってはじめてこの事実が判明したとしてきた。実際、寺尾判決は、鎌倉街道を自転車でとおったという石川さんの自白が6月21日で、Yさんら3人の鎌倉街道をとおったという調書が、それより後の6月27日付けであることから、自白にもとづいて捜査してはじめて鎌倉街道を車でとおったことがわかった、このことは「秘密の暴露」だとして有罪の根拠にした。
  ところが、今回開示された捜査報告書によって、捜査当局は自白より1か月以上も前に、「Yさんの車の鎌倉街道走行」を把握していたことが判明した。いわゆる車の追いこしは、「あらかじめ(自白より前に)捜査官が知りえなかった事項」とはいえないことが浮き彫りになった。そして弁護団は、これを新証拠として提出した。弁護団は、0さん、Tさん、Yさんらの供述調書などの開示勧告申立書を東京高裁に提出し、また一歩着実に闘いが前進した。


 弁護団は同じ7月24日に、万年筆の発見のもととなったいわゆる「略図」を赤外線撮影した写真撮影報告書を新証拠として提出した。
  この略図は、3回目の家宅捜索のさい、これにもとづいて捜索したところ、お勝手入口のカモイから万年筆を発見したと警察が主張しているもので、万年筆が自白したとおりに自宅から発見された、とする寺尾判決の重要な証拠になっている。
  ところで、この略図には石川さんが鉛筆で書いた図面のお勝手入口にあたるところに、警察官がペンでひいた複数の線が見られ、このか所は肉眼で見ても、ペン線の下には石川さんが鉛筆で書いた家の見取図の輪郭線しか見えない。そこで弁護団は、略図の赤外線写真撮影によって、鉛筆線を強調し、判別したところ、略図のペン線の下には、輪郭線以外に鉛筆線はないことがはっきりした。つまり、石川さんは万年筆の隠し場所を特定するようなことは書いておらず、万年筆の隠匿場所がお勝手入口のカモイと特定しているのは、警察官が書き加えたペンによる線だけであることが明らかになった。
  このことは、捜査当局が図面を改ざんしたうえで、いかにも石川さんの自白によって万年筆が発見されたように装ったことを暴露するものなのだ。石川さんは万年筆を隠した場所を特定する図面を書いておらず、警察官らが自白とは無関係に、お勝手入口のカモイを万年筆の隠匿場所と決め、石川さんが書いたもともとの図面にペンで線を書き加え、その改ざんした略図をもとに、いかにも石川さんの自白によって万年筆が発見されたように装ったのだ。
  しかも捜査当局は、この改ざんを隠すために、略図を調書に添付せず、2審の途中まで隠しもってきたのだ。2度の徹底した家宅捜索のあとに発見された経過のおかしさや、発見された万年筆のインクと被害者が使用していたインクが違うことなどとあわせて考えれば、寺尾判決の誤りは明らかというべきだ。

 証拠開示とそれにもとづいた新証拠の提出でつぎつぎとでっちあげが暴かれ、狭山第3次再審闘争は、いよいよ山場にさしかかってきた。今回1通の捜査報告書が開示され、これで開示証拠は181点にのぼる。また、今回も車の追いこしと「略図」の2つの重要な新証拠を提出したが、これにより弁護団が提出した新証拠は176点になった。
  証拠開示がすすむことにより、裁判は着実に前進している。今回、新裁判長が証拠開示についてこれまでの姿勢を踏襲する基本姿勢を示したが、この路線の継続と全証拠の開示を強く迫り、いよいよ事実調べを実現させなければならない。
  部落解放同盟中央本部は、9月3日に東京で全国狭山活動者会議・住民の会交流会をひらき、裁判の現段階を共有するとともに、10・30中央集会をはじめとした秋の闘いの基本方針を確認する。全国の同盟員は、狭山事件の再審を求める市民の会、支援者とともに証拠開示・事実調べを実現し、再審開始をかちとるために、弁護団の提出した新証拠や証拠開示についての学習と教宣活動を強化し、いっそうの世論の拡大をはかっていこう。また、街頭宣伝や署名活動、要請ハガキ運動などのとりくみをすすめ、事実調べをおこなえの世論をさらに広げていこう。弁護団が求める万年筆や秘密の暴露にかかわる捜査資料、東京高検以外の証拠物の一覧表の開示を求める要請ハガキも高裁、高検に送ろう。

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