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人権・平和の確立をめざし、「人権週間」に向け、とりくみをすすめよう

「解放新聞」(2015.11.09-2738)

 欧米のイラク侵略戦争後、中東のシリアで戦火が拡大した。市民の居住地域は空爆され、生活の拠点を失って命の危険にさらされた人びとは避難民として国外に脱出している用その数はシリア一国だけで388万人(国連難民高等弁務官事務所の年間統計報告書2014)。世界中では5950万人が移動を強いられ、難民発生国ではシリアに続き第2位のアフガニスタン259万人、第3位のソマリアが111万人となっているが、国外での難民生活も苛烈だ。受入国に向かう道中や受入国での差別と人権侵害にさらされながらの生活を余儀なくされる。いかなる正義を掲げても、戦争によって人間の尊厳が奪われていることは紛れもない事実だ。武器を持たない者が報復のために自爆に走れば、自分の尊厳を犠牲にして多数の人間の尊厳を破壊することになる。「人権週間」(12月4~10日)を前に、中東での戦争報道を読み、難民であることを強いられた人びと、空爆で破壊された居住地に仔む人びと、肉親が殺害されて悲嘆にくれる人びとの人間の尊厳の回復に思いをはせる時を持ちたい。

 人間の尊厳を守るために国連憲章は2つの平等を明記した。一つは「国家間の平等」である。欧米列強は、自分たちの国は民主主義国家であり、ほかは非民主主義国家だと考えた。人間の価値の序列化(先進国・後進国・劣等国)を生み出し、人種差別や植民地支配を生み出した。「力こそ正義」を掲げ、強大な軍事力によって戦争を仕掛け、弱小国家を攻撃した。植民地として支配し、富を強奪し、奴隷取引をおこなった。先進国
が、遅れた国ぐにを近代化すると考え、暴力的な植民地支配を生み出した。しかし、植民地支配を強制されてきた国ぐには暴力的な支配を克服し、独立していく。すべての「国家主権の平等」が確認され、国家は国際法上は平等な存在となった。20世紀の後半には、他国を侵略する戦争は違法とされ、植民地支配も人種差別も禁止する潮流が生み出された。
  もう1つの平等は「人間間の平等」である。欧米列強は人種主義にもとづいて「南」の国ぐにの人間を「未開で野蛮だ」として虐殺の対象にすらした。歴史のなかでの敗者の存在は認められず、社会的不正義のもとで苦悩を強いられ、人権保障の対象にすらされなかった。
  「人間の平等」原則にもとづいて人権侵害にさらされている人間の課題をとりあげようとすると、国境線の壁に阻まれた。国際秩序は国家を中心に構築されているため、国際的に人権問題には介入できなかった。内政不干渉の原則により、国家が、内政の問題であるとして社会的不正義を告発する小さな者の声を封印し、歴史の闇のなかに閉じこめてきた。
  社会的不正義に苦悩する被害者たちに、国際法は「人間の平等」「内外人の平等」原則を掲げて寄り添うようになり、個人の尊厳を基本にした人権の普遍性の潮流が生み出され、国境線のなかの社会的不正義がとりあげられた。国連では「人間の平等」原則にもとづき、国際人権諸条約を採択していく。条約の冒頭に「すべての個人は」を掲げ、人権の普遍性を強調する。世界人権宣言にはじまり、国際人権現約、人種差別・女性差別・拷問の禁止、子ども・移住労働者・障害者・先住民族・マイノリティ・難民などに関する国際人権条約がつぎつぎに国連総会で採択された。
  各国に条約の批准承認を求め、国際人権の原則が各国に浸透し、国内政策に反映させる「人権の主流化」が実現した。国連人権高等弁務官が設置され、国際刑事裁判所が発足し、戦争の違法化が確認され、平和にたいする罪、人道にたいする罪が明記された。

 日本の国家指導者によって引き起こされた先の戦争は「最大の人権侵害であり」、誤った戦争であり、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起きることのないようにする」ことを日本国憲法前文は掲げている。国連憲章もまた「我らの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い」と明記し、戦争をはじめた国家指導者を平和にたいする罪で国際刑事裁判所が裁くことにした。戦争は違法である。違法な戦争を実行した国家指導者は刑事責任を負う。戦争被害者には莫大な損害賠償を認めることによって戦争を抑止することになる。
  2001年南アフリカ・ダーバンで、「反人種主義・差別撤廃世界会議(国連主催)」がひらかれ、ダーバン宣言では、過去の歴史の誤りを認め「(欧米列強の軍事力による)奴隷制と植民地支配は不正義であった」とした。奴隷制は人道にたいする罪であり、侵賂戦争や植民地支配がアジア、アフリカ、先住民族への被害を生み出し、貧困や周縁化をつくり出したことを認めた。
  侵略や植民地支配の被害者たちが個人の尊厳を回復するために、被害の法的責任を追及し、そして賠償責任を問う、いわゆる「謝罪の時代」がはじまった。先住民族の権利回復要求などへ広がっていく。沈黙を強いられてきた被害者の証言にもとづいて植民地支配や戦争犯罪の事実認定をおこない、加害と向きあうことで戦争の悲惨さを確認する。
  しかし一方、日本政府は国家の誤りを認めようとしない。「日本軍性奴隷制」の被害者をはじめ、戦争で無残に殺され、なんの償いもなく死んでいった者の無念を晴らそうともしない。安倍首相は「戦後70年談話」で「侵略・植民地支配・謝罪」にふれたが、過去の誤った戦争を引き起こした国家指導者の罪を認めていない。靖国神社に英霊として祀られた国家指導者を参拝する姿勢を崩していないからだ。国家の誤った戦争による被害を認めず、国家指導者が引き起こした戦争の甚大な被害を誰も賠償しない無責任体制が続いている。軍人・軍属だけに賠償的恩給を支給するだけでなく、地上戦のあった沖縄や米軍の空襲を受けた、すべての戦争被害者の賠償を実現するべきだ。できなければ刑事責任を負うことは当然だ。

 軍事力を用いて他国を侵略し、甚大な被害をもたらした戦争への反省のもとに、その過ちを認めて国連憲章を定め、日本国憲法を定めたにもかかわらず、国家主権の平等や人間の平等の原則が動揺し、試練にさらされている。「ならず者国家」「犯罪国家」とよんでイラクを侵略し、爆撃し、「彼らは、テロリストだ」「人間ではない」「文明を欠く人びとだ」として、拷問をくり返し、国際人道法や戦争法規さえ適用せず、暴力を容認している。さらに「過激派」と名づけさえすれば、「過激派」から市民を守る名目で、空爆が実行され、大量の市民を犠牲にする。かつての「野蛮人・未開人」とよんだのと同様の考えのもと蛮行がくり返されている。
  「戦争は最大の人権侵害である」のは、人間の尊厳を侵し、破壊するからである。戦場では「殺す」「殺される」ことになる。「殺す」ためには相手を「人間ではない」と思い込む。戦争法を強行採決で成立させ、憲法の制限を解釈改憲で取り払って、戦闘地域で活動することになれば、戦場で「殺される」前に「殺す」ことを選択することになる。自衛隊が「非戦闘地域」でしか活動できないのは、個人の尊厳を侵害しないために「殺す」ことも「殺される」こともない地域での活動しか憲法が認めていないからだ。自分の「個人の尊厳」を守るために相手の「個人の尊厳」を破壊することが戦場である。「殺す」「殺される」ことがなく、個人の尊厳を守るには、戦争放棄しかない。憲法第9条が憲法第13条と連動しているのは、誰ひとり個人の尊厳を侵害させないための規定であることを、あらためて確認したい。
  「人権週間」が設定された趣旨をもう一度確認し、国連憲章、世界人権宣言、日本国憲法前文を読みなおすとともに、人間の尊厳を破壊する戦争をする国をめざすことに反対し、戦争法廃止を求めていきたい。


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