部落女性の声を国連・女性差別撤廃委員会の審査に届けよう
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国連・女性差別撤廃委員会の日本政府報告書審査(第7・8次報告書審査)が、2016年2月に国連欧州本部(ジュネーブ)でおこなわれる。女性差別撤廃条約は、加盟国がその国の条約実施状況について国連に報告することを義務づけている。加盟国は、批准後1年以内に第1回の政府報告書を、第2回以降は少なくても4年ごとに政府報告書を国連に提出し、女性差別撤廃委員会の審査を受ける。
日本は、1985年に条約を批准。第1次報告書を1987年、第2次報告書を1992年、第3次報告書を1993年、第4次報告書を1998年、第5次報告書を2002年、第6次報告書を2008年、第7・8次報告書を2014年に提出した。提出した報告書にたいする審査が1989年(第1次)、1994年(第2・3次)、2003年(第4・5次)、2009年(第6次)におこなわれた。
部落解放同盟中央女性対策部(現・中央女性運動部)としては、第4・5次政府報告書にたいして、①国の政策・方針決定過程への被差別部落女性の参画について(第4条関連)②被差別部落女性の不就学問題(第10条関連)③被差別部落女性の非識字実態と改善施策の必要性について(第10条関連)④被差別部落女性の就業条件の整備の必要性について(第10条関連)を委員会に提出。また、カウンターレポート(政府報告書にたいして、NGOがそれぞれの立場から作成するレポート)として提出した。この審査ではIMADR-JC(反差別国際運動日本委員会)、部落女性、アイヌ女性がロビーイングをおこなった。
このような活動によって、女性差別撤廃委員会は日本政府に、次回のレポートでは「日本におけるマイノリティ女性の状況について、分類ごとの内訳を示すデータを含む包括的な情報、とりわけ教育、雇用、健康状態、受けている暴力に関する情報を提供することを求める」との勧告をだした。第6次審査でも、部落・アイヌ・在日コリアン・沖縄の女性たちが一体となってロビーイングをおこなった。第6次政府報告にたいして国連女性差別撤廃委員会は、前回よりさらに厳しい勧告をだした。
その内容は、つぎのようなものである。①マイノリティ女性にたいする差別の撤廃のために、政策的枠組みの設置や暫定的特別措置の採択を含む効果的な措置をとることを促す②マイノリティ女性の代表を意思決定機関に任命するよう促す③日本でのマイノリティ女性の状況、とりわけ教育、雇用、健康、社会福祉および暴力にさらされることに関する情報を次回の定期報告に含めること④先住民族アイヌ、部落、在日コリアンおよび沖縄の女性をふくむマイノリティ女性の状況に関する包括的な調査を実施すること。
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日本政府は、第4・5次審査のさいにだされた勧告にたいして、第6次報告書では、「日本国憲法第14条において、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的経済的又は社会的関係において差別されないことが規定されている。この平等原則の下、(中略)「マイノリティ女性」についても、日本国籍を有する者については、等しくその対象としている」とし、今回の第7・8次報告書でも、この立場を変えていない。
しかし、具体的な施策が盛りこまれていないという大きな課題はあるが、2010年に閣議決定された第3次男女共同参画基本計画で、はじめて「第8分野高齢者、障害者、外国人等が安心して暮らせる環境の整備」の(基本的な考え方)として「女性は男性よりも平均的に長寿であり、高齢者人口に占める女性の割合は高いため、高齢者施策の影響は女性の方が強く受ける。また、障害があること、日本で働き生活する外国人であること、アイヌの人々であること、同和問題等に加え、女性であることからくる複合的に困難な状況に置かれている場合がある。さらに性的指向を理由として困難な状況に置かれている場合や性同一性障害などを有する人々については、人権尊重の観点からの配慮が必要である。このため、男女共同参画の視点に立ち、様々な困難な状況に置かれている人々が安心して暮らせる環境整備を進める」と、部落女性をはじめとするマイノリティ女性の複合差別の課題が、国の基本計画のなかに入った。これは、国連・女性差別撤廃委員会の勧告による成果である。
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中央女性運動部では、2003年の勧告以後、みずからの実態を明らかにしようと第50回鳥取全女(2005年)で、アンケート調査を実施して以降、2006年から2014年にかけて7府県でアンケート調査、4府県でひとり親についての調査をおこなった。その結果、部落女性の差別実態が明らかになった。
就労では、職場でどのような福利厚生制度があるのか知らなかったり、制度があっても利用しづらい労働環境にあることや、どの府県でも70歳代、80歳代になっても働いていること。非識字者が高齢女性だけでなく若年層のなかにもいること。さらに教育の面では、男性の場合、どの収入階層でも「大学まで」の割合が高いものの、女性の場合は年収300万円を境に「高校まで」の割合が高くなり、経済的に厳しくなるほど女性に進学期待をかけない傾向がある。このように、経済的な不利益が女性をよりいっそう、不利な立場においやる可能性を調査では示唆している。被差別体験では、3割前後が結婚差別を体験していると回答があり、現実に差別に苦しんでいる女性たちが数多くいるという実態がある。
部落女性みずからがおこなった以上のような調査結果をもって、来年2月におこなわれる第7・8次日本政府報告書審査で、部落女性への複合差別を撤廃するための施策を実施するよう委員に訴えるとともに、日本政府への勧告を求めて、部落解放同盟では、代表を派遣することを決定した。
憲法98条では、憲法が国の最高法規であることを示すとともに、条約については、2項で「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と規定している。これにもとづき、私たちは、国連の勧告を日本政府に実施させるために、部落女性をはじめとするマイノリティ女性たちと、さらに連携を深め、私たちの声を女性差別撤廃委員会に届けよう。そして、複合差別の撤廃と女性差別撤廃条約の遵守を、日本政府に迫っていこう。
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