「戦争をする国」づくりをすすめる安倍政権と対峙し、人権の法制度や施策の創設・充実のとりくみを強めよう
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1月4日に開会した第190通常国会で審議されてきた補正予算が14日に衆議院を通過した。景気回復策や10%となる消費税増税にかかわる軽減税率など、まさに選挙目当ての政策を優先させるもので、格差や貧困の解消、雇用状況の改善など、深刻化する社会問題の解決に向けた施策は皆無である。
しかも、安倍首相からは、女性のパート労働をめぐって、「景気がよくなったから女性が働くようになる」という、私たちの生活感覚からかけ離れた答弁まで飛び出した。生活がたいへんで家計を支えるために働いているのが実態であり、安倍政権の「女性が輝く社会」がいかにいいかげんなものであるかを露呈させた発言だった。
これから審議される16年度予算案にしても、社会保障費の削減と年金据え置きのほか、教職員の減員や中小企業対策費の減額が目立つ。一方、軍事費は、当初予算で初の5兆円を突破し、過去最大となっている。 まさに「戦争法」強行成立による「戦争をする国」づくりに向けた予算措置にはかならない。
さらに、政権維持のために、株価高騰による好景気を演出していたアベノミクスも、中国の経済成長の鈍化、ギリシャやスペイン、イタリアをはじめとしたEU諸国の財政問題などが影響するなど、その被碇は明らかである。しかし、安倍政権は、あくまでも景気回復を最優先させるとして、公共事業の伸長のほか、安全性を無視した原発再稼働や輸出をはじめ、武器輸出を国家戦略として推進するとして、軍産学共同もすすめている。
また、憲法を改悪して、「緊急事態条項」を加え、戦前の戒厳令のように、内閣が国会を無視して、人権を制限する政令(法律)を制定できるようにすることを狙っている。まさに新たな戦前の情況である。このような安倍政権による戦争推進政策に断固反対し、「戦争法」廃止を求める統一署名のとりくみを全力ですすめよう。
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昨年12月28日の日韓外相会談で、「従軍慰安婦」問題について、「最終的かつ不可逆的に解決すること」での合意が成立した。韓国政府が設立する「従軍慰安婦」を支援する財団に、日本政府が約10億円を拠出することも確約した。また、日本軍の関与を認め、多数の女性の名誉と尊厳を傷つけたことの責任を痛感し、安倍首相が「心からのおわびと反省」を表明するとした。しかし、これは、あくまでも日韓両政府による合意でしかない。
なお、安倍首相のおわびは、首相自身が「韓国の朴槿恵大統領に誠意を持って、そのような発言をし、世界に対してすでに示された」として、ここでも、あくまでも政府間の合意とおわびであることが強調されている。また、在ソウル日本大使館前の慰安婦像の移設が、財政拠出の条件であるともしている。
このような誠意のない安倍政権の対応に、「韓国挺身隊問題対策協議会」などは、当事者の想いをまったく無視した政治的合意であるとして強く反対している。しかも、自民党の桜田義孝・元文部科学副大臣は、同党の外交・経済連携本部の会合で、「(従軍慰安婦は)職業としての売春婦だった。それを犠牲者だったかの
ような宣伝工作に惑わされすぎだ」と発言。その日に撤回したが、こうしたくり返される暴言こそ、安倍政権を支える誤った歴史認識から生まれたものである。「韓国人を絞め殺せ」などと差別と暴力を煽動するヘイトスピーチに連なる今日の社会的政治的情況の変革に向けて、人権の法制度の確立は急務の課題だ。
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大阪市でヘイトスピーチの抑止策をまとめた条例案が15日の市議会本会議で可決、成立した。全国で初めての条例である。「大阪市ヘイトスピーチ審査会」が発言内容などを審査し、大阪市がヘイトスピーチと認定すれば、発言内容の概要や団体・名前を市のホームページで公表するというものだ。また、昨年12月22日には、法務省人権擁護局が、東京都内の朝鮮大学校前で「朝鮮人を日本からたたき出せ」「殺してやるから出てこいよ」などとヘイトスピーチをくり返していた「在特会」前代表にたいして、「違法なものと認識して反省し同様の行為をしないように」との勧告を出した。
この間、ヘイトスピーチに関しては、2014年に国連自由権規約委員会と人種差別撤廃委員会が、暴力を含むヘイトスピーチが広がっていることへの懸念を表明し、包括的な差別禁止法制定などの適切な措置を勧告している。しかし、法務省はこれまで、ポスター作成などの広報対策にとどまっていた。一方、自治体段階では、全国で270にせまる地方議会で、国に法規制を求めるなどの意見書が採択されている。日本弁護士連合会(日弁連)も、人種差別撤廃に向けた基本法の制定などを求める意見書を提出している。
また、昨年5月には、民主党、社民党の所属議員などが「人種差別撤廃施策推進法」を議員提案し、参議院法務委員会での趣旨説明、審議がおこなわれた。その後、法案成立に向けた与野党協議もおこなわれてきたが、継続審議となっている。この法案には、罰則規定などはなく、実効性の問題もあるが、まずはヘイトスピーチを社会悪、犯罪として認定することに大きな意義がある。与野党とも、ヘイトスピーチへの対策の必要性は共通した認識であるはずだ。まずは、この法案を成立させるとりくみを支援し、人権の法制度確立に向けた第一歩としよう。
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