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人権週間に向け、人権・平和確立のとりくみを強化しよう

「解放新聞」(2016.11.21-2787)

 人権週間に「人権を考える」重要性は、人権を侵害された人間の歴史を想起することにある。世界人権宣言が「すべての人が生まれながらにして自由であり、かつ尊厳と権利において平等である」とのべるのは、マイノリティが差別され、人権侵害に曝され、虐殺されてきた歴史を想起し、ふたたび人間の尊厳が侵害されないようあらたに決意することにある。人権救済や人権保障システムの構築は、差別され、人権侵害に曝された人間の尊厳を回復する過程として重視する。
  世界人権宣言を具体化するために、国際人権規約をはじめ、さまざまな人権保障を書きこんだ国際人権諸条約が国連総会で採択されてきた。これまで人種差別・女性差別・拷問禁止、子ども・移住労働者・障がい者・難民などに関する人権条約が採択されてきた。マイノリティに関する人権条約にはあたらしい人権概念が盛りこまれる。それは世界が条約のあたらしい人権概念を学び直すことで、マイノリティの立場から世界を変革することになるからだ。
  国連は、各国に人権条約の締結をうながし、国際人権の原則が国境線をこえて各国に浸透し国内政策に反映させる「人権の主流化」の潮流を生み出してきた。日本では条約を国会で承認することで、憲法につぐ国内法として機能させる義務を負う。日本国憲法第98条に国際法遵守規定があるからだ。条約をとおして、日本国内の人権状況を国際人権の立場から見つめ直し、国内人権法制度を確立していくことが重要だ。

 国連は、国際人権諸条約を締結した各国の条約の実効性を監視し、条約が各国内で機能することを求めている。そのための4つの柱は①定期的な政府報告書提出、条約委員会での審査②条約を国内裁判所の判決で使う③国内人権委員会設置による監視④個人通報制度、である。
  国家中心主義をとる日本は、国内での法手続きをつくしても人権が回復されない場合、直接国連に個人が通報できるとする通報制度は「裁判の三審制の破壊」であると、個人通報制度の選択議定書を批准していない。直接国際法が入りこむことを拒否している。また、国内人権委員会もいまだに設置されていない。国際人権法にもとづいて国内の人権状況や人権法・制度を監視することに抵抗があるようだ。
  国内の裁判所が国際人権法にもとづいて判決を出すことはいまだ少ないが、最近、最高裁が条約を念頭に置きながら判例を変更し、違憲判決を出す事例が出てきている。条約を国内法として機能させようとするとりくみは歓迎すべきだ。
  日弁連を中心にNGOがカウンターレポートを提出してきたが、政府報告書審査はマスコミに話題にされず、審査にもとづく委員会の最終意見や勧告はほとんど無視され、国内の裁判例には影響を与えなかった。司法研修所での国際人権法に関する教育が期待される。
  国連経済社会理事会の協議資格をもつ反差別国際運動(IMADR)が中心になり、マイノリティ当事者の声を聴くなどして政府報告書への有効なカウンターレポートを条約委員会にまとめて提出した。これによって一方的な政府報告書だけではなく、国内のマイノリティの人権状況を反映した情報提供が委員会になされることで有効な議論が展開され、効果的な勧告が出されるようになった。

 政府は来年1月、人種差別撤廃委員会に報告書を提出する。政府は委員会から報告書作成にあたって事前にマイノリティ当事者との協議を求められている。そのため8月には外務省を中心に政府関係省庁からの出席でNGOとの意見交換会がもたれた。NGOも事前に公開される政府報告書へのカウンターレポートを作成するが、これをふくめて報告審査の結果、委員会から最終意見・勧告が出される。
  人種差別撤廃委員会政府報告書審査(2014年)の最終意見・勧告を受けて国内の状況が変わってきた。政府はヘイトスピーチに関して、「実態調査」「人種差別を禁止する包括的な特別立法の採択」などを勧告されたことから法務省が「ヘイトスピーチは許さない」のポスター作成やヘイトスピーチの発生数を公表、担当者を置き、本格的な実態調査にとりくむことになった。野党は人種差別撤廃基本法案を国会に提出。対抗する形で、与党から「ヘイトスピーチ解消法案」が急きょ提出され成立した(2016年5月)。ここでは参議院の付帯事項には「人種差別撤廃条約の精神に鑑み対処する」ことが明記された。
  これまで「部落問題は条約に入らない」との政府見解に固執している政府だが、部落差別解消推進法が成立すれば、政府見解が修正されて、部落問題がDescent(ディセント・世系)にふくまれることになる可能性が出てきた。
  女性差別撤廃委員会では、日本女性差別撤廃条約NGOネットワークの構成員としてマイノリティ女性が複合差別を訴えた。勧告では、ジェンダーエンパワメント指数が低いことが指摘され、社会的指導的立場にある女性30%の実現を迫られた。また、民法上の差別撤廃を強く勧告された。婚外子差別にたいして、合理的差別として合憲判決を出した最高裁が2013年に判例を変更し違憲判決を出した。また女性にたいする再婚禁止期間の民法規定も、違憲判決が出されるなど男女の結婚年齢の差別・同姓の強制など封建的家制度をもとにした女性差別にも民法改正の動きがはじまっている。
  子どもの権利委員会では、子どもの人権連がカウンターレポートを出した。勧告では、子どもの貧困や体罰など暴力に関する重要なデータが提出されていないこと、子どもへの暴力を禁止する法律がないことも指摘された。いじめや虐待防止に関する法は制定されたが、被害者の権利救済システムは存在しない。「親を保護者」とする考えでは、「教育やしつけ」の名のもとでの虐待=暴力は止められず、深刻な事態を招いている。社会が未来を担う子どもたちに責任を持つことで、十分な公的予算を子どもたちにふり向けることが可能になる。条約を受けて民法に「子どもの利益」の文言が入り、児童福祉法の改正で「子どもは権利行使の主体」「子どもの最善の利益」の条約の文言があたらしく入った。社会が責任を持つための法改正が先行している感があるが、人権教育をとおしてあたらしい子ども観を市民社会に定着させることで社会が子どもに責任を持つことが期待されている。
  障害者権利条約批准(2014年)へ、障害者基本法の改正がおこなわれ障害者総合支援法、障害者差別解消法が制定された。障害の定義が医療モデルから社会モデルに変更され、合理的配慮の不提供を差別としたあたらしい人権概念が示された。
  国際人権諸条約の示す国際人権基準が徐徐に国境線をこえて日本の人権状況を変え、国内法として機能しはじめている。日本政府は国家中心主義をとり、国際人権諸条約が国境線のなかに入りこむことを嫌ってきた。その結果、マイノリティの声を封印し、「国内の内政の問題」として社会的不正義を封印し、歴史の闇に閉じこめてきた。しかし、国際人権法の個人の尊厳という人権の普遍性は国境をこえて機能し、国内の社会的不正義に立ち向かうことになった。
  人権週間を機に、あらためて国際人権諸条約を学び直して、国内法として機能させるとりくみを推進したい。


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